セイロスの飛竜部隊が再び接近している、という報告に、ホールの人々は飛び上がって驚きました。
ロムド王がオリバンとセシルに聞き返します。
「その知らせは本当か!? 間違いなく飛竜なのだな!?」
「ジュリエットに率いられた哨戒部隊が見つけました。女騎士団の中でも特に目の良いものたちです」
とセシルが答えます。
四大魔法使いは顔色を変えました。
「魔法軍団が気づかなかったというのか!? そんな馬鹿な!」
「東方の警戒は私の部下たちの担当です! ただちに問いただします!」
「奴め、どこかに予備の飛竜を隠しとったか!?」
赤の魔法使いは猫の目を光らせて東を見ましたが、すぐに頭を振りました。
「ガ、イ、ゾ」
透視しても敵を発見できなかったのです。
ユギルも青ざめて占盤を見つめていました。勇者たちの行方を探していた隙に、敵に侵入されたのかと考えたのですが、占盤に敵の象徴は見当たりませんでした。セイロスが生み出す闇の気配さえ見つかりません。
「飛竜部隊は完全に気配を消しております! 現在どこにいるのかわかりません!」
ユギルの声に、オリバンが重ねて言いました。
「敵はすぐそこまで迫っています! まっすぐにこのディーラを目指しているのです! ディーラを守らなくてはなりません!」
「魔法軍団、迎撃準備!」
と四大魔法使いは言って姿を消しました。守りの塔へ飛んだのです。
ゴーリスもロムド軍と守備につくために飛び出して行きます。
すると、その頭上をすり抜けるようにして、鷹のグーリーもホールを飛び出して行きました。
ゾとヨが大騒ぎします。
「ずるいゾ! グーリーが様子を見に行ったゾ!」
「オレたちも見に行きたかったヨ!」
「冗談じゃない、セイロスの闇の力に捕まるぞ! 戻ってこい、グーリー!」
とキースが呼びますが、グーリーは戻ってきません。
「セシル、私たちも出撃するぞ!」
とオリバンも婚約者と飛び出そうとします。
ところが、オリバンたちがホールを出ようとする目の前に、大きな人物が立ち塞がりました。守りの塔に行ったはずの青の魔法使いが戻ってきたのです。オリバンたちを押しとどめて言います。
「お待ちください、殿下。近づいてくるのは敵ではありませんでした」
「敵ではない!?」
と一同はまた驚きました。セシルがたちまち憤慨します。
「私の部下たちが見間違えたと言うのか!? 鳥の群れを飛竜と勘違いしたと!?」
「いやいや、妃殿下。近づいていたのは確かに飛竜の部隊でした。ただ、敵ではなかったのです。味方です」
味方の飛竜部隊? と一同がまたきょとんとすると、オリバンが急に思い当たった顔になりました。
「ひょっとして、彼らか? 本当に来てくれたのだな!?」
すると、ユギルも占盤から顔を上げて言いました。
「ようやく象徴が姿を現しました。どうやら術で象徴を隠してきたようでございます」
「魔法ではなく、術ですか? とすると、やってくるのは……」
とリーンズ宰相が言いかけたとき、キースが耳を澄ます顔をして言いました。
「今、グーリーから報告が入ったよ。やってくるのは飛竜の部隊だけど、こちらと戦うつもりはないらしい。ユラサイ国からやってきた、ロムド王とお会いしたい、と言っているそうだ」
「ユラサイだと? なんでまた、そんな遠くから」
とピランはまた驚きましたが、ロムド王はうなずきました。
「そうか。ユラサイだったか。ありがたいことだ」
「盟約に基づいて駆けつけてくれたんですな」
とトウガリも納得しています。
ユラサイは中央大陸の東端にある大国です。以前、オリバンとセシルとユギルは、はるばるユラサイまで旅して皇帝に会い、ロムドや中央大陸に何事かあったときには助けに駆けつけるという同盟を結んできたのでした。
ホールの中は緊張が解けて、ほっとした空気に充たされます。
すると、キースがまた聞き耳を立ててから言いました。
「えぇと、グーリーが言うには、竜子帝と名乗る人物が、フルートたちはいるのか、と聞いてきているらしいぞ。フルートたちの友人だと言っているらしいんだが……」
「なに、皇帝自らが出撃してきたというのか!?」
とオリバンが驚いたので、キースも驚きました。
「竜子帝ってのはユラサイの皇帝なのか? リンメイという女性もフルートたちのことを言ってるらしいんだが」
「リンメイも!」
とセシルも驚きました。リンメイは竜子帝の幼なじみで婚約者です。
ロムド王が静かに言いました。
「どうやら我が国は素晴らしい援軍と賓客(ひんきゃく)を迎えたらしいな。玄関先でいつまでも待たせておいては失礼になる。早く城へ案内するのだ」
「御意!」
青の魔法使いとリーンズ宰相は、ユラサイからの客人を出迎えるために、それぞれ部屋から出て行きました──。