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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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第30章 飛竜再接近

107.動揺

 「駄目でございます。やはり勇者殿たちの行方をつかむことはかないません」

 ユギルが占盤から顔を上げて一同にそう告げました。

 ロムド城の小ホールに集まっていた人々は一様にがっかりして、肩を落としたりため息をついたりしました。ロムド王とリーンズ宰相、ゴーリス、トウガリの他に、ノームのピランや、キースとアリアン、ゾとヨとグーリーも一緒にいます。セイロスとの決戦の際に執務室に集まった面々と同じ顔ぶれですが、このときには四大魔法使いたちも同席していました。人数が多すぎて執務室に入りきらなかったので、場所を移していたのです。キースやアリアンはまた人間の姿に、ゾとヨは小猿に、グーリーは黒い鷹に戻っています。

 ロムド王がユギルに言いました。

「勇者の一行の象徴ははっきりしている、特にフルートの象徴はどこにいてもわかるほど明るく輝いている、と以前そなたは言ったな。にもかかわらず、彼らの居場所がわからないというのは、どういうことなのだ?」

 占いで見つけられないことを責めているのではなく、何が起きているのかを知りたがっている声です。

 占者の青年は占盤に目を戻しました。磨き上げられた石の表面にまた象徴を探しながら話します。

「確かに、勇者殿たちの象徴は非常に明るくはっきりしていて、占盤のどこにあっても目につきます。特に勇者殿の象徴はまぶしい金の光で、ときには占盤全体に届くほどまばゆく輝くのですが、今はその光がどこにも見当たりません。勇者殿だけでなく、ゼン様やメール様たちの象徴も見当たりませんので、おそらくなんらかの手段で自分たちの存在を隠しているのだろうと想像いたします」

 すると、アリアンも言いました。

「私の鏡にも彼らは映りません。どんなに探しても駄目でした。理由はよくわからないのですが、ポポロが魔法で隠しているのかもしれません」

 とたんに一同は、はっとしました。彼らはポポロの名前を聞くたびに、思わずどきりとするようになっていたのです。

 

 けれども、部屋の中が微妙な空気に支配される前に、ピランが言いました。

「連中の居場所を隠しているのは、たぶんフルートの金の石だな。あの石は持ち主の守ろうとする心に呼応して強くなる。今のフルートはポポロを守ろうと必死になっとるだろうから、連中の象徴も隠してしまっているんだろう」

「では、フルートは我々にさえ居場所を知られたくないと思っている、ということか」

 とロムド王は言いました。そのまま考え込んでしまったので、白の魔法使いが進み出ました。王の前にひざまずいて話し出します。

「恐れながら申し上げます。闇がらすが触れ回ったことを本気になさいませんように。ポポロ様がセイロスと関係があったとか、セイロスの仲間であったとか、そのようなデマが本当であるはずはありません。ポポロ様がお使いになる魔法は完全に光のもの。天空の魔法使いだけが発揮できる力です。闇の魔法とは対極にある力を、闇に関わるものが使えるはずはありません」

 仲間の魔法使いたちは女神官の後ろでうなずいていました。

 ゾとヨも宙返りしながら言います。

「そうだゾ、そうだゾ! ポポロが闇の仲間のはずがないんだゾ!」

「オレたちは闇のものだヨ! そのオレたちが言うんだから、間違いないんだヨ!」

 グーリーもピイピイと同意します。

 ところが、キースが言いました。

「残念だけど、魔法の種類と魔力は関連していないんだよ。特に光と闇の魔法はそうだ。元々は光魔法だったものが、正反対の方向へ向かって闇魔法になったんだからな。ポポロの魔力は桁外れに強い。闇王でさえかなわなかったくらいだ。彼女の力がデビルドラゴンに由来していると聞いて、正直ぼくは納得してしまったんだよ」

 キース! とアリアンがとがめました。ゾとヨはキースに飛びついて足にかみついたり髪をかきむしったりし始めます。

「ひどいゾ、ひどいゾ! キースはどうしてそんな意地悪を言うんだゾ!?」

「ポポロはセイロスの愛人なんかじゃないヨ! フルートの恋人だヨ!」

「いたた、こら、やめろって……! ぼくは意地悪を言ってるわけじゃない。ただ、ポポロの魔力が常識外れなのは真実だ。彼女がセイロスの、つまりデビルドラゴンの力を持っていたなら説明がつく、と言いたいだけなんだ」

 一方、四大魔法使いの間でもちょっとした騒ぎが起きていました。キースのことばに激怒した女神官を、老人が杖で押しとどめていたのです。額に青筋をたてた武僧は、猫の目の魔法使いに抑えられています。

「白も青も落ち着かんか……! 陛下の御前じゃぞ!」

「ダ!」

 女神官や武僧ににらみつけられて、キースは顔を歪めました。彼だって、本当はポポロたちを信じたいのです。けれども、真実は真実である以上、隠しようのない証拠をあちこちに残していました。それをなかったことにはできません──。

 

 すると、ロムド王が重々しく言いました。

「勇者たちが二度目の闇大陸訪問から戻った後、フルートはどうも様子がおかしかった。ずっと何事か考え込んでいたのだ。だが、それを尋ねてもフルートは何も話そうとはしなかった。ただ黙って、守りの想いだけをいっそう強くしていた──。今こうなってみれば、彼が何を思い悩んでいたのか、はっきりわかる。闇がらすが大声でふれまわったことは、おそらく真実であろう。ポポロはかつてはセイロスの婚約者だった女性で、セイロスから与えられた魔力を身のうちに抱いたまま、ポポロとして生まれ変わってきたのだ」

「だから、勇者殿たちは姿を隠したのでございますね。ポポロ様を守ろうとして」

 と宰相がため息をつくと、トウガリも道化の顔に難しい表情を刻みました。

「セイロスがポポロの正体を知った以上、奴がポポロを狙うのは間違いないでしょう。ことは重大だ」

 ゴーリスは頭を抱えました。

「本当に、あいつらはどこにいるんだ。こうしている間にもディーラ中で──いや、ロムド中であいつらのことが噂になっているというのに」

 焦りと悔しさがにじむ声でした。フルートが金の石の勇者になったときから、ずっと彼らを見守ってきたゴーリスです。半ば保護者のような気持ちでいただけに、彼らが何も言わずに姿をくらましたことに、やるせない気持ちになっていたのです。

 

 重苦しく黙り込んだ一同に、ピランがまた言いました。

「それで、どうするんだね? おまえさんたちは。ポポロはセイロスの恋人の生まれ変わりだった。それは間違いないんだろう。そして、フルートたちはそれをかくまおうとしている。世間の人間どもはみんな口さがなくて、悪い噂ほど信じ込む。みんなフルートたちを疑うだろう。おまえさんたちはどうするんだね? このままフルートたちと手を組んでいると、おまえさんたちまで疑われるようになるかもしれんぞ。あるいは、フルートたちにだまされた王だと陰口をたたかれて、求心力を失うかもしれん。早いところ態度を決めないと、おまえさんたちの不利になっていくばかりだろう」

 それを聞いて、女神官と武僧は、かっと顔を赤くしました。今度はノームに食ってかかろうとして、他の二人にまた押しとどめられます。

 ロムド王が言いました。

「鍛冶屋の長殿の言われるとおりだ。我々は一刻も早く態度を決めなくてはならん。我々が動揺していては、この国や世界を闇から守り抜くことはできないからだ」

「そうだ。早いところフルートたちと手を切って、連中とは関係がない、とお触れを出すんだな。おまえたち人間が全員で手を組めば、セイロスや闇の竜とも戦えるだろう。わしも強力な武器をどんどん作って提供してやるぞ」

 とピランは話し続けます。

 すると、ロムド王はピランにかがみ込みました。小さなノームをのぞき込むようにして言います。

「心にもないことを言って我々を試すのはやめていただけますか、長殿。この数年間フルートたちが我々に何をしてくれたか──どれほど懸命に戦って世界を守ってくれたか、我々はよく覚えています。確かに人間は疑い深く、噂に流されやすい種族かもしれません。ですが、誰が味方で、誰が我々のために尽力してくれたか、そんなことも忘れてしまえるほど愚かでもないのです。勇者たちは我々の大いなる希望です。ポポロがどのような出自だったとしても、今も我々の仲間であることに変わりはありません」

 王のことばに家臣たちはいっせいにうなずきました。女神官と武僧もようやく落ち着きを取り戻し、胸に手を当てて王に敬意を表します。

 ゾとヨがキースのズボンや髪の毛を引っ張りながら言いました。

「キースは!? キースはどうなんだゾ!?」

「キースもフルートたちを仲間だと思ってるのかヨ!?」

「痛いから引っ張るなって──! ぼくは最初から、仲間じゃないなんて言っていないぞ。ただポポロの魔力が強い理由がわかったと言っただけだ。それに、彼女が誰かの生まれ変わりだからって、それがなんだ? 闇のものにとっては、死んで生まれ変わるのは当たり前のことさ。みんな、やり直して生き直すために生まれ変わるんだからな」

 キースが話しながらアリアンを抱き寄せたので、彼女はにっこりしました。弟のロキのことを言われたのだとわかったのです。

 うむうむ、とピランは満足そうにうなずきました。

「人間どもが薄情で自分勝手なことは有名だからな。おまえたちもそうなのかと心配したが、大丈夫なようだな」

 すると、ずっとやりとりを見守っていたユギルが、苦笑して言いました。

「あまり人間を見損なわないでいただきとうございます、長殿。世間の人々についても同様です。多くの人たちが、勇者殿たちを信じたいからこそ、驚きうろたえているのでございますから」

 ロムド王はうなずいて立ち上がりました。

「我々がまずするべきことは、それだな。人々の疑いと不安を収めなくてはならない。それから、勇者たちを探し出さなくては。もう一度我々を信頼してもらうためにな──」

 

 そこへ扉をたたいてオリバンとセシルが入ってきました。二人とも防具を身につけて、濃い緑色のマントをはおっています。

 開口一番、オリバンは言いました。

「彼らは、父上!? フルートたちは見つかりましたか!?」

「彼らが味方であることを疑わぬ者たちが、ここにもいたな」

 とロムド王は微笑しましたが、たちまち全員が顔色を変えました。オリバンに続いて、セシルがこんな報告をしたからです。

「警戒に当たっていた部下たちが、東方から接近する飛竜の大群を発見しました! セイロスが飛竜部隊でまた襲撃してきたようです──!!」

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