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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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106.復活

 「兄上──!」

「陛下! 国王陛下!!」

 全力疾走の馬から飛び降りるなり、口々に言いながらアーペン城に駆け込んだ人々がいました。エスタ王の弟のエラード公とシオン近衛大隊長です。その後ろには武装した近衛隊が従っていましたが、大隊長はその場で待機を命じます。

 出迎えに出た城代が、挨拶もそこそこに二人を城の中へ案内しました。階段をいくつも上がって、奥まった場所にある立派な部屋に連れて行きます。

 天蓋のついたベッドに寝ていたのは、エスタ王でした。ふくよかだった顔はやつれ、恰幅の良かった体もだいぶ痩せていますが、彼らを見るとすぐに上体を起こしました。もちろん生身の姿です。

 エラード公は駆け寄ると、ひざまずいて兄の手を握りました。手に伝わってくるぬくもりに、はらはらと涙をこぼします。

 その後ろでシオン大隊長も男泣きをしていました。二人とも王がよみがえったことに感激しすぎて、すぐにはことばが出てきません。アーペン城の城代が黙って部屋を退いていきます。

 

 すると、エスタ王が弟に言いました。

「元の姿に戻ったのだな、エラード。真実の錫(しゃく)の罰が終わったか。良かった」

「兄上!」

 エラード公は王の手に額を押し当てると、嗚咽をあげて泣き出しました。やっぱり何も言うことができません。

 シオン大隊長が止まらない涙を拭いながら言いました。

「エスタ城に早鳥が知らせを運んできたのですが、にわかには信じることができなくて、期待と不安の板挟みになりながら、ここまで駆けつけて参りました。こうして、本当に陛下のご無事な姿を見ることができて、これほど嬉しいことはございません。よろしゅうございました、陛下。本当に良かった……。ですが、陛下はどのようにして、あの闇魔法を打ち砕かれたのですか? 我々は地上の魔法で陛下を元に戻すことはできない、と聞かされて、絶望に打ちひしがれていたのですが」

「わしはあの男の魔法で石像にされていたらしいな。城代から聞かされた」

 とエスタ王は言いました。石になっていた間の記憶はなかったのです。

「わしが覚えているのは、ジャーガ伯爵の砦で狭い地下室に幽閉されていたことまでだ。狭い狭い場所で、立っているのがやっとだった。食事も、寝ることさえも、立ってしなくてはならなかったのだ。だが、次に気がついたとき、わしはこの城にいて、目の前には勇者の一行がいた」

 

 とたんにエラード公もシオン大隊長も泣くのをやめました。ぎょっとしたように王を見て言います。

「それは金の石の勇者たちのことですか!?」

「彼らがここに来て、陛下を救ったとおっしゃるのですか──!?」

 エスタ王は眉をひそめました。

「やはり何かあったのだな……。わしが意識を取り戻したとき、勇者の一行は目の前にいたのだが、様子が尋常ではなかった。強大な怪物にも勇敢に立ち向かってきたはずの彼らが、全員青ざめて何かに打ちのめされているように見えた。しかも、ポポロはフルートに抱かれてぐったりしていたし、ルルは病気でも患っているように元気がなかった。それでも、彼らは城代を呼んでわしが回復したことを伝え、エスタ城に知らせるように言い残して立ち去っていったのだ」

 エラード公とシオン大隊長は顔を見合わせました。彼らもまた青ざめていたので、エスタ王は言いました。

「わしが魔法にとらわれていた間に何があった? 勇者の一行に関わる出来事なのか?」

「信じがたい知らせが届いたのです、兄上」

 とエラード公は言って振り向きました。誰もいない場所へ呼びかけます。

「いいぞ。ここへ来い」

 すると、そこにひとりの人物が姿を現しました。白い長衣に短い金髪の青年です。

「おお、ケーラか。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

 とエスタ王はお抱えの魔法使いに笑顔になり、すぐに真剣な表情に変わりました。

「とすると、知らせはロムド城にいるトーラから届いたのだな。ロムドで何があった」

「とても信じられないようなことでございます、陛下」

 とケーラは答えました。王の復活を飛び上がるほど喜んでいたのに違いありませんでしたが、自分の役目に徹して、ディーラの情報を王に伝えます──。

 

 話を聞き終えたエスタ王は、さすがに顔色を変えていました。

 普段はいかにも気のよさそうな顔が、びっくりするほど厳しい表情を刻んでいます。そのまま、じっと何かを考え込んでいましたが、やおらベッドから降りようとしてよろめきました。

「兄上!」

 とっさにエラード公が抱き支えると、王はその肩をつかんで言いました。

「そのような馬鹿げた話が真実のはずがなかろう。それなのに、ロムドの人々はそれを信じたというのか? ありえん! こんなデマを野放しにしているとは、ロムド王はいったいどうしたのだ!?」

 ケーラはあわててまた言いました。

「ロムドの人々がそれを完全に信じたわけではありません。ただ、闇がらすの声には魔力があったようで、ディーラの外のかなり広い範囲まで聞こえていたようなのです。真実を確かめようにも、勇者の一行が姿をくらましてしまったので確かめることができず、それが疑いを招いて大騒ぎになっているそうです」

 エスタ王は口ひげを震わせました。エラード公の支えを振り切って歩き出そうとします。

「今すぐ出発するぞ。ディーラへ行く」

「城にはお戻りにならないのですか、陛下?」

 とシオン大隊長が驚きましたが、エスタ王はきっぱりと答えました。

「そんな暇はない。ロムド王に会わねばならんのだ。エラード!」

「は、はい!」

 兄から急に呼ばれて王弟が返事をすると、エスタ王はまたその肩をつかんで言いました。

「エスタ城にはおまえが戻れ。引き続き、わしの代わりを務めるのだ」

 エラード公はとまどいました。

「兄上はもう復活されました。エスタ王は兄上です。わたしがエスタ城に戻れば、多くの領主たちが疑って──」

 王はさえぎって言いました。

「今はそのような話をするときではない。国ではなく世界を守ることを考えなくてはいけないときなのだ。わしの代行ができるのはおまえだけだ。わしがいない間、エスタを頼むぞ」

 弟を強く信じる声でした。

 

 エラード公は目をしばたたかせると、思い出したようにケーラを振り向いて言いました。

「あれを」

「はい」

 魔法使いの青年が差し出したのは、布に包まれた長いものでした。エラード公が受け取って布をほどくと、中から金と銀でできた美しい錫(しゃく)が現れます。

 公はひざまずいて錫をエスタ王に差し出しました。

「これを兄上にお返しいたします。どうかロムド王と共にこの事態をお収めください。彼らが──フルートたちが噂のような存在であるはずはないのです。あのような馬鹿げた噂から、彼らの名誉を一刻も早く救い出してください」

 真実の錫を握っていても、エラード公の姿が変わってしまうことはありません。

 エスタ王は目を細めました。

「そなたも彼らに助けられたのだな、エラード。そして、彼らはわしに大事な弟を返してくれた。偽りのない信頼と共にな……。今度はわしたちが彼らを助ける番だ」

「はい」

 とエラード公は笑顔になると、こぼれた涙を隠して頭を下げました。

「ご武運を、兄上」

 エスタ王はうなずいて、弟から真実の錫を受け取りました。錫は王の手の中で美しくきらめきます。

「行くぞ。シオン、ケーラ、そなたたちはわしと一緒に来るのだ。準備ができ次第出発する」

「は、はい!」

 大隊長と魔法使いは飛び上ると、準備のために大あわてで部屋を飛び出して行きました──。

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