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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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105.決心

 ポポロのことばに仲間たちは思わず息を呑みました。

 たちまちフルートが声を荒げます。

「まだそんなことを本気にしてるのか!? あんなのは闇がらすのでまかせだぞ! セイロスの策略だ!」

「それなら、何も言わずにあたしにやらせて」

 とポポロは静かに言い返し、鼻白んだフルートに、また笑って見せました。

「フルートはいつもそうよね。普段は本当に優しいのに、あたしたちを危険から遠ざけて守ろうとするときだけ、とても怖い顔で怒ってみせるの。いつもそんなふうだから、わかっちゃうのよ。今もそうなんでしょう? あたしを──あたしとルルを、危険な真実から遠ざけようとして怒ってみせてるんだわ。ね?」

 仲間たちは立ちすくみました。確かにその通りだ、と全員が思ったのです。

 ゼンは顔色を変え、ポチは背中の毛を逆立てました。ルルは恐ろしいものを見たように震え出します。

 そんな仲間の様子にメールは、まさか、と呟きました。ゼンを締め上げて本当のことを白状させようとします。

 ところが、フルートがまた強い声で言いました。

「そうじゃない! ぼくが怒っているのはそんなことのせいじゃない! さっきも言ったじゃないか! ぼくはただ──!」

 

 しっ、とポポロは言って、自分の人差し指をフルートの唇に押し当てました。

 面食らうフルートに、静かに笑いながら言います。

「だから、あたしにやらせてって言っているのよ。フルートが言うとおり、あたしがセイロスとまったく関係がないなら、あたしにはセイロスの魔法を解くことができないわ。エスタ王は石になったままよ。だけど、もしも……ひょっとして、もしも本当にあたしがエリーテの生まれ変わりなら、セイロスがエリーテに与えた力は、今もあたしの中にあるってことになるわ。元がセイロスの力なんだから、セイロスの魔法も解くことができるはずなのよ」

 フルートは目を見張りました。ポポロは自分の正体を知るために、魔法を使おうとしているのでした。石にされたエスタ王を試金石にして──。

 そんなのは駄目だ! とフルートは叫ぼうとして、ことばを飲み込みました。ポポロの言うとおり、むきになって否定すればするほど、彼女は真実を疑ってしまうのです。どうしていいのかわからなくなって、うろたえてしまいます。

 ポポロはまたにっこりと微笑みました。その目に涙はありません。

 君こそいつもこうだ、とフルートは心の中で恨めしく思いました。普段はあれほど泣き虫のくせに、堅く心を決めたときだけは、ポポロは泣かずに笑うのです。誰よりも強い透き通った笑顔で……。

 

 ポポロはエスタ王に向き直りました。

 そのまま祈るように両手を握り合わせると、また王を見上げます。

 その背中へフルートは言いました。

「できるわけないよ。君はもう魔法を使い切ってる」

 子どもが拗ねたときのような声になっていました。

 他の仲間たちはとまどいながら見守ります。

 ポポロは指をほどくと、両手を前に突き出しました。エスタ王へ手をかざして呪文を唱えます。

「セドモニトーモオウオテケダークヨウホマミヤノスロイーセバラナブチイノウユリーノミーヤガラカーチガワー」

 魔法は一気に唱えなくては発揮しません。息が切れそうになりながら長い長い呪文を言い切ると、その手のひらから緑の光が湧き上がりました。みるみるうちにふくれあがって、巨大な光の玉になっていきます。

「うそだろ……」

 とメールは言いました。ポポロは二度の魔法を使い切ったはずなのに、また魔法が生まれてきたのです。

 魔法の光はいっそう大きくなって、輝きの中にエスタ王を飲み込んでいきました。それでもまだ大きくなっていきます。

「金の石、みんなを守れ!」

 とフルートは叫びました。前にエスタ王の魔法を解こうとしたとき、ポポロの魔法が弾かれて、部屋にいた全員をなぎ倒したことを思い出したのです。これほど巨大な魔法ならば、弾かれたときの反動も並大抵ではありません。

 ペンダントから金の光が広がって、フルートと仲間たちを包みます──。

 

 ところが、魔法の反動は起きませんでした。

 緑の光が吸い込まれるようにエスタ王の中に消えていきます。

 次の瞬間、エスタ王の全身に無数のひびが走り、あっという間に粉々になってしまいました。石の表面が砕けてはがれたのではありません。王の体全体が大小のかけらになり、音を立てて崩れ落ちたのです。

「エスタ王!!?」

 全員が叫ぶ中、ポポロだけは青ざめて呟きました。

「やっぱり……」

 砕けて崩れたエスタ王は、ポポロの足下で生身の人間に戻っていました。王の服を着て金の冠をかぶった姿で倒れています。

 それまで落ち着いて見えていたポポロが、急に震え出しました。後ずさるようにエスタ王から離れますが、分厚い絨毯に足を取られてつまずきます。

「危ない!」

 フルートがとっさに飛び出して抱き留めると、その腕の中でポポロはますます震えました。両手を自分の顔に当て、目を見張って言います。

「あたし……あたし、セイロスの魔法を打ち砕いたわ……。あたし、自分の中の力に願ったのよ。あたしの力がデビルドラゴンの一部ならセイロスの魔法を砕け、エスタ王を元に戻せって……そしたら……そしたら……」

 ポポロの顔色は死人のようでした。今まで一粒も流れなかった涙が、両目からどっとあふれ出します。

 フルートはポポロを抱きしめました。

「黙って! 何も言わなくていい! これは奇跡だよ! 君がセイロスの魔法を砕いたわけじゃない──」

 けれども、ポポロは悲鳴を上げました。仲間たちには、ポポロがいやぁぁ、と叫んだように聞こえました。フルートは必死で抱きしめ続けます。

 すると、悲鳴がぱたりとやみました。

 フルートの腕の中で、ポポロは気を失ってしまったのでした──。

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