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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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第26章 決戦

95.決戦・1

 フルートとポチはディーラの上空でセイロスと戦い続けました。

 セイロスが切り込むとフルートが受け止め、フルートが金の石を使おうとするとセイロスが飛び下がります。切り結んでは離れ、離れてはまた切り結ぶ勝負が続きます。

 

 すると、城下町から白い光が湧き上がってきて空まで届きました。

 光に押されるようにセイロスが後退します。

 フルートの横に金の石の精霊が姿を現して言いました。

「今のは天使の守護獣が竜の怪物を消滅させた光だ。都に怪物はいなくなったぞ」

「残ったのは、あの男だけだな」

 と願い石の精霊も現れてセイロスを見ました。セイロスの背後にはデビルドラゴンが揺らぎながら姿を現しています。息が詰まるような邪悪な気配を放っていますが、赤い髪とドレスの精霊は顔色ひとつ変えません。

 精霊の少年は話し続けました。

「これまで闇の竜はセイロスの体を盾にしていたから、ぼくの光が届かなかった。今はああして、外に飛び出す機会を絶えず狙っている。あそこに直接ぼくの力を流し込めば、絶大な打撃を与えられるはずだ」

「それでも、私に願わなければ、奴を消滅させることは不可能だがな」

 と精霊の女性が口を挟んで、少年からにらまれました。

「フルートもぼくも君には願わない。それに、今はディーラの都をセイロスから守ることが第一なんだ。そうだな、フルート?」

 ところがフルートは即答しませんでした。飛竜の上で剣を構え直すセイロスを見据えています。

「ワン、フルート?」

 とポチも聞き返すと、ようやく答えが返ってきました。

「もちろん、ディーラを守るのが一番の目的だ。これ以上みんなを危険な目に遭わせるわけにはいかないからな。でも、だからこそ、チャンスがあったら奴を完全に倒す。二度と世界を蹂躙されないように」

 ポチは思わず風の毛を逆立ててしまいました。フルートからまた、相手を思いやる暖かい匂いが消えたからです。代わりに伝わってきたのは、氷のように鋭く冷たい殺気です――。

 

 すると、願い石の精霊が言いました。

「では、私に願うのだな、フルート? そなたと金の石が共に願えば、奴を闇の竜ごと消滅させることができる」

 冷静な声です。

 フルートは、はっとしたように女性を見て、すぐに苦笑いになりました。

「願わない。君に願わなくても、あいつを追い払うことはできるからな」

 そのとき、下のほうからゼンの声が響きました。

「ぼーっとするな、フルート! 奴が行くぞ!」

 セイロスがまたフルートに向かって突撃を始めていたのです。

 二人の精霊が消えていきます。

 フルートはまたちょっと苦笑いして、ポチに言いました。

「今でも隙さえあれば誘いかけてくるんだから、油断できないよな。とにかくチャンスを狙うぞ」

 本当に? とポチは心の中で聞き返しました。本当に、願い石に誘惑されただけだったんですか……?

 口に出してフルートに尋ねることはできません。

 セイロスが突進してきました。フルートは激しい斬撃を受け止め、流して背後に回り込もうとしますが、セイロスはまた離れてしまいました。どうしても金の石を使う隙が作れません――。

 

 切り結ぶ二人の下では、ゼンとルル、オリバンとロムド兵が戦いを見守っていました。

 ゼンが舌打ちします。

「セイロスの奴め、まだあきらめやがらねえのか」

「しぶといわよね。飛竜部隊も竜の怪物もみんなやられて、ひとりだけになったのに、まだ退却しないなんて」

 とルルも言うと、オリバンが答えました。

「あの男は最初からそうだ。どれほどの大軍を率いていても、誰を側近にしていても、結局は自分ひとりで戦っている。軍勢も側近も、自分の目的を達成するための道具に過ぎん。道具が壊れれば、うち捨てて新たな道具を探すだけのことなのだ」

 そこへ花鳥に乗ったメールとポポロも飛んできて話に加わりました。

「そんなの大将としては失格だよ。だから、仲間がどんどん脱落して、結局ひとりになっちゃうんだ」

 とメールが口をとがらせると、ポポロが言いました。

「セイロスが闇の竜だからよ。闇の竜は悪そのものだし、悪は誰かを信じて協力するってことをしないわ。だから、最後には決まってひとりきりになるのよ」

「あんな野郎を応援するつもりなんか、これっぽっちもねえけどよ。奴はなんでそんな単純なことがわからねえんだ? もうちょっと味方を信じてうまく使えば、もっと違う戦いができるのによ」

 とゼンがあきれていると、オリバンが言いました。

「わからないのではなく、できんのだろう。闇はそもそも他人を信じない。だからこそ闇なのだからな。闇は孤独だ」

 すると、ルルが誇らしそうに言いました。

「でも、フルートはそうじゃないわよ。仲間を信じて一緒に戦っているもの。だから仲間もたくさんいるわ」

 一同はいっせいにうなずきました。今、ここにいる彼らも、フルートを応援するために集まっているのです。

 

 オリバンが上空を示して言いました。

「フルートはセイロスが捉えきれなくて苦労している。隙を見て、奴の動きを封じるぞ」

「さすがにあの野郎はぶん殴れねえからな。どうするか」

 とゼンが腕組みすると、ポポロがまた言いました。

「セイロスじゃなく、乗ってる飛竜のほうを狙えば……?」

「そうね。セイロスの動きを一瞬でも停められたら、きっとフルートのチャンスになるわ」

 とルルも言います。

「それじゃ、あたいの出番だね?」

 とメールは張り切って身を乗り出しました。

 彼らは空の一カ所に寄り集まると、作戦を立て始めました――。

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