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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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93.援軍・4

 フルートはポチと空を飛びながら、セイロスと戦い続けていました。

 幾度となく接近して切りつけるのですが、そのたびにセイロスの剣に弾かれてしまいます。

「ポチ、もう一度だ!」

 とフルートは叫びました。両手の炎の剣を強く握り直します。

 けれども、そこへセイロスが突進してきました。フルートへ闇の剣を振り下ろしたので、ポチは大きく後退しました。邪気が風のように押し寄せますが、金の石が輝いて吹き飛ばしてくれます。

「ワン、セイロスの闇の力がものすごく強くなっていますよ。デビルドラゴンも姿を現し始めているし」

 とポチは言いました。セイロスの背後では、影が四枚翼の竜になっては崩れることを繰り返しています。

 すると、フルートが答えました。

「だからチャンスなんだよ。デビルドラゴンはセイロスの体から外に出ようとしている。そこに金の石を使えば、奴に直接ダメージが与えられるんだ」

 ポチは思わずフルートを見上げました。やっぱりデビルドラゴンのほうを倒すつもりなんだ、と考えます。

 今回フルートは本気でセイロスと戦っていました。戦闘中にこれまでのような、ためらいや手加減の匂いがしなくなっていたのです。フルートはセイロスを殺そうとしているのかもしれない、とポチはひそかに考えて不安になっていました。敵に情けをかける必要などないのですが、以前ゼンも言っていたように、なんだか落ち着かない気分になるのです。フルートがデビルドラゴンを狙う作戦を口にしたので、ほっとします──。

 すると、フルートがまた叫びました。

「来たぞ! よけて反転だ!」

 正面からセイロスの飛竜が突進してきたのです。

 ポチは指示通り攻撃をかわすと、すぐに反転してセイロスの背後に回りました。

 ガキン!!

 フルートの剣はやっぱりセイロスの剣に防がれました。金の石を使う間もなく、セイロスが離れてしまいます――。

 

「ああ、惜しい! もう少しで勇者殿の攻撃が当たりましたのに!」

 とリーンズ宰相がまた声をあげました。ロムド王の執務室の中です。他の者たちも遠見の球体の中に同じ光景を見て、ああ、と声をあげています。

 キースは人差し指で頬をかきながら言いました。

「フルートの剣は以前より鋭くなっているし、威力も増している。以前だったら、力の強い敵には力負けするから、まともに受けずに流すことが多かったんだけど。互角に切り結べるくらい力がついたんだな」

 そこへ扉を開けてゴーリスが部屋に入ってきました。中の話は聞こえていたので、一同に会釈(えしゃく)してから話し始めます。

「フルートが金の石の勇者になったとき、あいつはまだ十一歳だった。筋は良かったし、見えない力の援助も受けていたから、めきめき剣の腕前を上げていったが、体格的にはどうしようもなく力不足だった。だから、一人前の体つきになれば向かうところ敵なしになるだろう、と話したことはある」

 キースはゴーリスに聞き返しました。

「彼は今、何歳だっけ? 十六歳? 一人前と言うには、まだもう少しありそうだけれど」

「あいつは先月が誕生日だった。もう十七歳だ」

 とゴーリスが答えると、ロムド王も言いました。

「十七歳は、騎士見習いが一人前の騎士として認められる年齢だ。勇者もついに我々の仲間入りをしたということだな」

 王のことばに、部屋の一同はまた球体に注目しました。一人前と言われても、やっぱり年齢よりは細身で少し小柄に見えるフルートです。

 それでもフルートは勇敢に敵に向かっていました。セイロスに切りつけ、敵が避けると、追ってさらに切り込みます。

「がんばって、フルート!」

 とアリアンが言いました。

「そうだゾ! がんばってセイロスを倒すんだゾ、フルート!」

「ヤツをやっつけられるのは、フルートしかいないんだヨ! がんばって倒すんだヨ!」

 とゾとヨも小さな拳を振って言います。

 執務室の全員が見守る中、フルートはセイロスと戦い続けていました――。

 

 一方、城下町では輝く山猫が竜の怪物と戦っていました。赤の魔法使いが操る聖守護獣です。

 空飛ぶ絨毯の銀鼠と灰鼠が援護に加わったので、山猫は次第に優勢になっていました。銀鼠たちが炎の魔法を浴びせた隙に、怪物の背後に回って食いつきます。

 怪物が振り向いて反撃しようとしたので、銀鼠と灰鼠はまた狐神を呼び出しました。

「アーラーン、おでましを!」

「悪しき竜の手下を倒してください!」

 すると二人からほとばしった炎が巨大な狐の形に変わり、怪物に飛びかかりました。山猫に食いつこうとしていた頭を、逆に炎の口で呑み込みます。

「マダ! キ、ルゾ!」

 西の塔にいる赤の魔法使いの声が、銀鼠たちに聞こえました。一気に決めるチャンスだ、と言ったのです。

 山猫は怪物の背にかみついたまま、大きく飛び上がりました。赤く輝く山猫は、アーラーンと同じ炎の獣のようにも見えます。

 すると、アーラーンも怪物の頭をくわえたまま飛び上がり、山猫の下に回り込みました。山猫は狐神の背を蹴って、さらに大きく飛びました。都の城壁を飛び越えると、郊外の畑へ怪物をたたきつけます。

 地響きを立てて墜落した怪物へ、アーラーンは飛びかかりました。巨大な炎の渦になって怪物を包んでしまいます。

 炎の中から怪物の絶叫が響き、やがて、ごうごうと燃える炎の音に呑み込まれていきました。それもおさまって炎が消えると、怪物は影も形もなくなっていました。火狐にすっかり焼き尽くされてしまったのです。

「やったわ!」

「倒したぞ!」

 銀鼠と灰鼠が歓声をあげていると、山猫の姿が薄れて消えていきました。淡い光の塊になって、西の守りの塔に吸い込まれていきます。

 

 西の塔の最上階で、赤の魔法使いは護具に寄りかかりました。全力で走った後のように肩で息をしています。

 そこへ東の塔と北の塔から仲間の魔法使いが話しかけてきました。

「お疲れ、赤。さすがにしばらくは動けませんな」

「赤の護具はピラン殿に強化されとる。今まで以上に力を吸い取られとるじゃろう。無理はいかんぞ、赤」

「ガ、シロ、ル」

 と赤の魔法使いは塔の外へ目を向けました。そこでは巨大な天使が最後の怪物と戦い続けていたのです。

「大丈夫。白には殿下たちとゼン殿たちが協力してますからな」

「実に頼もしい助っ人じゃ。わしらは少し休憩していても良さそうじゃぞ」

 妙に気楽なことを言う仲間たちを、赤の魔法使いは心の目で見ました。青の魔法使いは石の床に大の字に倒れたまま、ぜいぜいと息をしているし、深緑の魔法使いは汗びっしょりで座り込んで壁にもたれています。どちらも疲れ切って動けずにいるのです。

 赤の魔法使いも護具を手放すと、その場にばったり倒れました。カララン、と乾いた音を立てて護具も床に転がります。

「シロ、レ」

 彼は仲間へ声援を送ると、金色の猫の目を閉じました――。

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