北の守りの塔では、深緑の魔法使いが護具を握って、必死で大鷲を操っていました。
大鷲は竜の怪物の周囲を飛び回って攻撃していたのですが、怪物に隙を突かれて食いつかれてしまいました。羽ばたいてももがいても脱出することができません。大鷲に食い込む牙の痛みは、そのまま使い手に伝わるので、老人は立っていられなくなって膝をつきました。
ところがそこへ花鳥が飛んできました。長い蔓で怪物の首を絡め取り、あっという間に怪物を大鷲から引きはがします。さらに別の蔓で脚も絡め取ったので、怪物は動くことができなくなりました。
「ありがたい!」
魔法使いの老人は跳ね起きると、護具を強く握り直しました。
大鷲は空高く舞い上がり、まっしぐらに降りてきました。怪物の頭にくちばしで強烈な一撃を食らわせると、鋭い爪で頭をつかまえて目玉をつつきます。怪物は叫び声をあげて身をよじり、花の蔓を引きちぎりましたが、大鷲は怪物を放しませんでした。今度は別の目をつついて潰します。
そこへまた花の蔓が伸びて、今度は怪物の口を絡め取りました。怪物は大鷲に食いつけなくなります。
大鷲は怪物の長い首を爪で引き裂きました。怪物が動かなくなるまで何度も繰り返し、ついに怪物が息絶えると、都の外へ運び出して投げ捨てます。
すると、大鷲も姿が薄れて消えていきました。深緑の魔法使いも力尽きて、塔の中で座り込んでしまったのです。
「いやはや、年寄りには応える戦いじゃわい……」
と汗まみれの額を拭って溜息をつきます。
花鳥の上ではメールとポポロが手をたたき合って喜んでいました。
「やったね! 竜の化けものを倒したよ!」
「メール、すごかったわ! あんなに強かったのに、花で抑え込んじゃうんですもの!」
「この花が強いんだよ。アーペン城の温室でポポロの魔法を受けながら育っただろ? 丈夫で寒さに強いうえに、あたいの言うことをものすごくよく聞いてくれるんだ」
「それはメールのおかげよ。メールが毎日一生懸命育てたから、花たちがメールの気持ちに応えてるんだわ……!」
すると、そこへルルに乗ったゼンが飛んできました。
「おう、おまえらもやったな。見ろよ。フルートがセイロスとまた一騎討ちを始めたぞ」
ディーラの上空ではポチに乗ったフルートと飛竜に乗ったセイロスが、近づいては離れ、離れては近づいて剣をぶつけ合っていました。ガン、ガン、ガギン、という激しい音が彼らの元にも伝わってきます。
「応援に行こう!」
とメールが言うと、ゼンは顔をしかめました。
「フルートになんて言われたのか忘れたのか? あいつがセイロスと戦って惹きつけているおかげで、俺たちは他の敵を倒せるんだぞ。俺たちの相手はあっちだ」
とまだ城下町で暴れている二頭の怪物を示します。
「そっか。じゃあ、さっさとやっつけよう。それがすんだら、あたいたちもフルートの応援だ。どっちの怪物から倒そうか!?」
張り切るメールに、ポポロが言いました。
「山猫と戦ってる怪物には銀鼠さんたちが行ったわ。山猫を使ってるのは赤さんだし、あっちは任せたほうがいいと思うの」
「そうね。下手に参戦して赤さんたちの魔法を邪魔したら大変だわ」
とルルも言ったので、彼らは天使と戦っている怪物へ向かうことにしました。天使を操っているのは白の魔法使いです。
その怪物とはオリバンとロムド兵も戦っていましたが、攻撃がすべてうろこに跳ね返されるので、手を焼いている最中でした。
「来たな! 早く我々を手伝え!」
とオリバンがゼンたちを見つけて呼びます――。
「素晴らしい! 怪物をもう二頭も倒してしまいました!」
王の執務室でリーンズ宰相が叫んでいました。球体に映し出された戦闘の様子は、他の人々にも見えているのですが、声に出さずにはいられなかったのです。
「さすがだな。彼らが来たとたん、あっという間に戦況が変わったぞ」
とキースも感心しています。
空飛ぶ絨毯に乗った銀鼠と灰鼠は、炎の狐神のアーラーンを呼び出して、山猫と戦う怪物を背後から襲っていました。怪物がはさみうちに遭ってよろめきます。
「城下の火事も消え始めています。あれはどうやら河童殿の活躍のようだ」
とトウガリが町中から立ち上る白い煙を指さしました。いつの間にか空飛ぶ絨毯から降りた河童が、地中から水を呼び出して火にかけていたのです。
「セシルたちも頑張っとるぞ。そら、飛竜たちがディーラから逃げ出しとる」
とピランは空を顎で示しました。女騎士たちに取り囲まれ、集中攻撃された飛竜部隊が、耐えきれなくなって都の上空を離れたのです。女騎士たちはその後を追いかけ、広場で飛竜部隊を攻撃していたゴーリスとロムド兵が、ほっとした顔で空を見上げています――。
「ゼンが怪物を殴ってるゾ!」
「メールも怪物を縛ってるヨ! 強いヨ!」
とゾとヨが歓声を上げました。
「勝てる……勝てるわ、きっと……」
アリアンは目を輝かせてつぶやきました。グェン、とグーリーが同意します。
すると、ユギルが占盤から顔を上げて言いました。
「戦況は全体的に我々の優勢と出ております。けれども、この戦闘の決着をつけるのは勇者殿とセイロスです。あの二人の戦いがどうなるかは、まったく読めません」
ディーラの上空ではフルートとセイロスが近づいては斬り合って離れることを繰り返していました。戦いは今のところ互角のように見えます。
「決戦か」
ロムド王が重々しくつぶやきます。
執務室の人々が見守る中、フルートはセイロスとの一騎討ちを続けていました――。