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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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第25章 援軍

90.援軍・1

 フルートたちがディーラに到着する数分前――

「来るぞ!」

 というキースの声に、ロムド王の執務室にいた全員は緊張しました。

 部屋の中央には透き通った球体が浮いていて、その中にディーラの景色が映し出されていました。竜の怪物が聖守護獣と戦いながら街を破壊し、飛竜部隊が落とした火袋があちこちで火事を引き起こしています。その上を飛び越えて、飛竜に乗ったセイロスがこちらに向かってきたのです。左右には飛竜に乗った男が従っています。

 道化の姿のトウガリが言いました。

「左にいるのはセイロスの腹心のギーだが、右の男は見たことがありません。どうやら奴がエスタ国の新しいバム伯爵のようです。エスタ王に背いて闇の側についた裏切り者だ」

「エスタにはまだロムドを疑っている者が少なくない。おそらく以前から我が国を敵視していたのだろう。そこを闇の竜につけ込まれたのだ」

 とロムド王は言って、迫ってくる敵を見つめました。その姿が次第にはっきり見えてきますが、三人とも意外なほど若い顔をしていました。皇太子のオリバンと同じくらいの年頃に見えます。

「く、来るゾ! ヤツが来るゾ!」

「こ、ここを壊しに来るヨ! 怖いヨ!」

 ゴブリンの姿に戻ったゾとヨは、黒い腕で抱き合って震えていました。巨大なグリフィンのグーリーも、ぺったり床に腹ばいになって身震いしています。アリアンは目をつぶって頭を振っていました。聞きたくない声をさえぎるように、両耳を強くふさいでいます。

 キースは片腕でアリアンを抱きしめ、もう一方の腕を伸ばして背後に彼らをかばいました。セイロスが迫るにつれて、彼らを呼び寄せようとする力が強くなってきたのです。結界を作って仲間たちを守ります。

 

「間もなくセイロスが城に襲来します! 陛下、早く地下室へ!」

 とリーンズ宰相が避難を勧めましたが、ロムド王は首を横に振りました。

「多くの者が命がけで城と国を守ろうとしている。わしにはこの戦いを見届ける責任がある」

 透き通った球体の中で、巨大な山猫が竜の怪物に投げ飛ばされていました。山猫は身をひるがえして着地しますが、その足の下で教会の入り口の階段と彫像が潰れてしまいました。山猫が竜に飛びかかると、今度は竜がよろめいて家々を踏み潰します。

 街の広場ではロムド兵や魔法軍団が空へ攻撃を続けていました。飛竜部隊がまだ石や煉瓦を落とす攻撃を繰り返していたのです。ロムド兵の中には負傷したゴーリスもいました。降り注ぐ石の雨の中、部下の肩を借りながら命令を続けています――。

 ロムド王が避難しようとしないので、宰相はやっきになって言い続けました。

「陛下、やってくるのはセイロスです! 彼らには防ぎきれないでしょう! 陛下が崩御されたら、この国は滅びてしまうのですよ!」

 すると、王は答えました。

「オリバンがいる。あれはもう、わしの跡を継いでロムド王になるだけの力を持っている」

 その落ち着き払った声に、部屋の中の人々は、はっとしました。

 それはいけません! と宰相がまた叫ぼうとします。

 

 すると、ずっと黙って占盤を見つめていたユギルが、突然大声をあげました。

「いらっしゃいました! 勇者殿と殿下たちです!」

 けれども、透き通った球体の中にその姿は映っていませんでした。

「ふふ、フルートはどこだゾ!?」

「みみ、見えないヨ!」

 興奮して飛び跳ねるゾとヨを、キースはなだめました。

「遠見の石が向いている方角が違うんだ。ピランさんでないと方向は修正できないんだよ」

「よし、それならすぐにやってやろう」

 と誰もいない片隅から返事があったので、一同は思わず飛び上がってしまいました。灰色のひげの小さな老人が姿を現したので、キースは顔をしかめます。

「本当にノームは悪戯好きだな。戻ったなら戻ったと言ってくれたらいいのに」

「おおお、オレたち、おじいさんに気がつかなかったゾ」

「ききき、キースの結界の中にいたからだヨ。気配がわからなかったんだヨ」

 ゾとヨはますます興奮して飛び跳ねます。

「ついさっき、南の守りの塔から戻ったところだ。フルートたちが到着したのか? やれやれ、やっとだな。待ちくたびれたじゃないか」

 ピランはぶつぶつ言いながら懐に手を突っ込み、小さな丸い玉を取り出して回転させました。たちまち球体の中の景色が流れて、今まで見えなかった方角が映し出されます――。

 

 とたんにフルートの声が響きました。

「追いついたぞ、セイロス! おまえにディーラは破壊させない! 今度こそ勝負をつけてやる!」

 球体から聞こえてきたのではありませんでした。遠見の石は音までは伝えません。魔法の仕業です。

 空の彼方にたくさんの軍勢が浮いていて、軍馬が前脚で空を蹴っていました。軍勢の半数は銀の鎧兜で身を包んだロムド兵、残りの半数は白い鎧兜のナージャの女騎士たちです。

 彼らの前には二頭の風の犬と大きな鳥もいて、頭上には空飛ぶ絨毯が浮かんでいました。それぞれに勇者の一行と魔法使いたちが乗っています。

 と、一頭の風の犬が集団から飛び出しました。ポチに乗ったフルートです。ロムド城に迫っていたセイロスへ、まっしぐらに飛んでいきます。

 それを追いかけるようにルルに乗ったゼンが飛び出し、ロムド兵とナージャの女騎士たちも雪崩(なだれ)を打って駆け出しました。軍勢の先頭で指揮をしているのは、いぶし銀の防具の戦士と長い金髪の女騎士です。

「オリバンとセシルだ! 無事だったな!」

 とキースは歓声を上げ、アリアンも目に涙を浮かべました。彼らは鏡を通じて、オリバンたちが黒い魔法の爆発に巻き込まれた様子を見ていたのです。

 軍勢を追いかけるように、銀鼠、灰鼠、河童の三人が空飛ぶ絨毯で飛び始めました。巨大な花鳥もメールとポポロを乗せて羽ばたきます。

 フルートが目ざすのはセイロスでしたが、残りの者たちは他の敵に向かっていました。たちまちディーラの上空で激しい戦闘が始まります。

 

 セシルと女騎士たちが狙っていたのは、空を縦横無尽に飛び回っている飛竜部隊でした。数人がかりで一頭の飛竜を取り囲むと、飛竜ではなく、その背の竜使いを攻撃します。

 竜使いは体重を軽くするために、ろくな防具を身につけていませんでした。弓矢や剣の攻撃を避けようと竜を上昇させますが、ある高さから上へは昇れなくなります。一方、女騎士たちはさらに高い場所まで駆け上がることができました。頭上から矢の雨を食らって、竜使いが地上へ墜落していきます――。

 

 聖守護獣と戦う四頭の怪物には、それぞれ、オリバンが率いるロムド兵、ゼンとルル、絨毯の魔法使いたち、花鳥に乗ったメールとポポロが襲いかかりました。

 特にめざましかったのは、ゼンとルルの活躍です。

「おっと」

 ゼンは怪物に投げ飛ばされた大熊を両手で支えて止めると、大熊が立ち直るのを待って、飛び出していきました。怪物の長い首の周りをルルが何度も回ります。

 怪物は彼らに食いつこうとしましたが、じきに追い切れなくなって見失ってしまいました。その隙にゼンは背後から頭を殴り飛ばし、さらに上から下から幾度となく殴りつけます。

 竜の怪物は頭を集中攻撃されてふらふらになりました。よろめいて後ずさったところを、体勢を立て直した大熊につかまって、はがいじめにされてしまいます。

 大熊は怪物の首を食いちぎり、鋭い爪で体をずたずたにしました。怪物は地響きを立てて倒れると、そのまま動かなくなりました。

 それと同時に聖守護獣の大熊も姿を消します。

 

 東の守りの塔では、青の魔法使いが護具を握ったまま仰向けに倒れていました。彼自身が怪物と取っ組み合ったように、全身汗みずくになっています。

「いやはや……勇者たちに助けられましたな……」

 と言って、ぜいぜいと荒い息をします。

 塔の窓からは、怪物と戦い続ける大鷲と、花の蔓を伸ばして援護しているメールたちが見えていました。手助けしたいと思っても、彼はまだ動くことができません。

「頼みましたぞ、勇者たち……」

 戦いを見つめながら、武僧はつぶやきました――。

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