フルートはポチと一緒に地上へ舞い降りました。
ディーラの郊外の雪原には稲妻が直撃したような穴が空き、そばに三人の魔法使いが倒れていました。先に花鳥で降りたメールとポポロが、大声でフルートを呼んでいます。
「セイロスの野郎、やりやがったな」
とゼンがルルの背中で歯ぎしりすると、一緒に空にいたオリバンが都をにらんで言いました。
「奴はディーラにすさまじい怪物を送り込んだ。四大魔法使いでさえ手こずっているぞ」
彼らの行く手では、燃える王都を踏み潰しながら四頭の竜の怪物が暴れ、それを防ごうとする四体の聖守護獣と組み合っていました。城下町にはすでに甚大な被害が出ています。
「早く陛下とディーラを救わなくては!」
とセシルが言ったので、背後でロムド軍とナージャの女騎士団が突撃態勢になります。
とはいえ、それは空の上でのことでした。彼らは全員、地上を駆けるように空を駆けていたのです。ポポロの魔法の仕業でした。一つ目の魔法で馬たちが空を走れるようにして、二つ目の魔法で定着させたのです。
ただ、その中に共に戦ってきたドワーフ猟師の姿はありませんでした。彼らが乗る走り鳥が空をひどく怖がったので、彼らは地上を走っているのでした。空駆ける部隊からは大きく遅れてしまっています。
ルルが言いました。
「みんな早まっちゃだめよ。あそこにセイロスがいるのが見えるでしょう? 闇雲に突っ込んだら、あいつの攻撃にやられるわ」
都の上空を飛竜に乗った黒い戦士が飛んでいました。セイロスですが、空を行く彼につきまとうように、黒い影が揺らめいていました。ときおり大きくふくれあがっては、巨大な竜のような形になって、また崩れていきます。
空飛ぶ絨毯で一緒に空を飛んでいた銀鼠と灰鼠と河童が、口々に話し合いました。
「ものすごい闇の気配ね。グル神のしもべのあたしたちでさえ、はっきり感じるわよ」
「ぼくたちが戦った三日前より闇の気配が強くなってる。闇魔法で山を吹き飛ばしたせいで、さらに覚醒したんじゃないのか?」
「んだな。デビルドラゴンがセイロスから飛び出したくてうずうずしてるのが見えるだ。いよいよ本領を発揮するかもしんねえな」
そこへ地上からフルートがポチと一緒に上昇してきました。金の石で魔法使いたちを癒やして、すぐにまた引き返してきたのです。その後ろからはメールとポポロも花鳥で昇ってきました。
「奴を止めよう」
とフルートは言ってセイロスを見据えました。全身漆黒に染まった戦士を、闇の霧が包んでは崩れ、崩れてはまた包んでいます。
すると、ロムド城に迫っていたセイロスが急に空中で停まりました。駆けつけた援軍に気づいたのです。セイロスが飛竜の上から振り向きます。
「ぼくの声を広げて」
とフルートは絨毯に乗った魔法使いたちに言うと、すぐに声を張り上げました。
「追いついたぞ、セイロス! おまえにディーラは破壊させない! 今度こそ勝負をつけてやる!」
「来たな、フルート!」
とセイロスがどなり返してきました。距離があるのに、その声もはっきり伝わってきます。
「ぼくとポチが奴と戦う。怪物と飛竜はみんなに任せた」
そう言い残して、フルートはまっしぐらにセイロスへ向かっていきました。
セイロスもフルートへ向き直ります。その背後で巨大な竜の影が長い首を伸ばしました。声にならない声でほえるように、大きな口を開けます。
オリバンは声を上げました。
「行くぞ、ロムドの戦士たち! ディーラを守るのだ!」
自分が先頭になって、ロムド兵と共に突進を始めます。
「我々も行くぞ! 共にロムド国を守ろう!」
とセシルもナージャの女騎士たちと疾走していきます。
「あたしたちも行くわよ」
「どこへ?」
「おらたちは魔法が使えるだ。隊長たちを助けるために、あのでかい怪物を倒しに行くだよ!」
銀鼠、灰鼠、河童が乗った空飛ぶ絨毯は、竜の怪物へ向かって飛び始めました。
「俺たちもあのでかぶつだ! 行け、ルル!」
「耳元でどならないで! ちゃんと聞こえてるわよ!」
ゼンとルルも言い合いながら飛んでいきます。
メールはポポロに言いました。
「あたいたちはどの敵にしようか?」
「あたしはみんなに空を走らせるのに、魔法を二回とも使っちゃったわ。魔法なしで戦わなくちゃいけないわよ」
「平気さ。あたいには花が一緒だからね。よし、あたいたちもあいつだ!」
とメールも花鳥を竜の怪物へ向かわせます。
空を飛んで駆けつけてきた援軍は、ディーラを襲う敵たちといっせいに激闘を始めたのでした――。