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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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86.攻防・4

 切り裂かれた障壁からディーラへ、四頭の怪物が飛び降りてきました。寄り集まった家々を踏み潰しながら着地すると、都中がぐらぐらと揺れます。怪物はそれほど巨大だったのです。

「なんだ、あれは!?」

「怪物だ!!」

 ロムド兵も魔法軍団も巨大な敵の出現に仰天しました。

 広場で大いしゆみ部隊を指揮していたゴーリスが叫びます。

「やつらを王宮に近づけるな!」

「撃て! 集中攻撃だ!」

 と高射魔砲を使っていた魔法使いたちも言っていました。

 すぐに太い矢や魔法の弾が怪物へ飛び始めますが、怪物の体に当たると跳ね返されてしまいました。めくれあがった黒いうろこが攻撃を防いだのです。怪物が長い首を振り回して暴れ始めます――。

 

 守りの塔では四大魔法使いがせわしく話し合っていました。

「深緑、あれはなんだ!?」

「あれは飛竜じゃ。だが、闇の怪物に変わっとる。セイロスの仕業じゃ」

「街が踏み潰されてますぞ! このままでは、とんでもない被害が出てしまう!」

 怪物が踏み潰した建物からは、多くの住人が飛び出していました。悲鳴を上げながら逃げていきますが、先に侵入していた飛竜がそれを追いかけ、襲いかかったり石を落としたりしました。潰れた建物の下敷きになっている住人もいます。

 女神官は歯ぎしりして空を見上げました。光り輝く障壁は赤い光を失い、あちこちを闇の円盤に切り裂かれていますが、それでも都を包み続けていました。障壁の向こうにはまだ三頭の飛竜がいて、そのうちの一頭にセイロスが乗っています。

「白!」

 と武僧がまたどなりました。青筋をたてて決断を迫っています。

 女神官は顔を歪めると、ついに腹を決めました。

「青、深緑、私と共に守護獣を出せ! あの怪物を都の外へ出すんだ! 赤、おまえは護具が使えない! 陛下たちをお守りしろ!」

「チ」

 赤の魔法使いは承諾しましたが、その声は悔しげでした。彼がいる守りの塔はセイロスの攻撃で上部を破壊され、守護獣を呼び出すための護具も壊れてしまっていたのです。

 他の三人の魔法使いは自分の杖を手放して、部屋の中央へ走りました。台座の上で魔法の光を噴き出している護具へ手を伸ばし、金属の柄を握ると台座から引き抜きます。

 とたんに護具が震えて明るく輝き出しました。白、青、深緑――三人の魔力を象徴するまばゆい光です。

 魔力を直接護具に吸い取られて、魔法使いたちは歯を食いしばり、必死で踏ん張りました。護具をかざして叫びます。

「出でよ、守護獣!!!」

 すると、三色の輝きはうねりながら塔から立ち上り、ふくれあがって、白い天使、青い熊、深緑の鷲(わし)に変わりました。どれも竜の怪物に匹敵する巨大さです。

 三体の生き物はそれぞれ竜の怪物に飛びかかり、暴れる怪物を抑え込もうとしました。守護獣と怪物の戦いが始まります――。

 

 けれども、怪物は四頭いました。守護獣は三体だったので、一頭の怪物は相変わらず自由に暴れ続けています。

「行かせるな! 防げ!」

「撃て撃て、撃ちまくるんだ!」

 ゴーリスと魔法軍団の魔法使いは、声を枯らして叫んでいました。大いしゆみと高射魔砲の攻撃が怪物に集中しますが、怪物はやっぱり停まりません。街を踏み潰しながらロムド城に近づいていきます。

 と、怪物の首がうなりながら振り回されました。南の広場を直撃して塔を破壊したので、建物が大いしゆみの上に崩れ落ちていきます。

「うわぁぁ……!!!」

 一機の大いしゆみが押し潰され、周囲にいたロムド兵も瓦礫の下敷きになりました。その中にはゴーリスも含まれていました。両脚の上に建物の柱がのしかかって、身動きすることができません。

 ゴーリスが必死で抜け出そうとしているところに、怪物が迫ってきました。太い二本脚が家々を踏み潰しながら近づいてきます。

「隊長!!」

 無事だった部下たちが駆け寄って柱に取りつきましたが、石でできた柱は簡単には動きません。押したり引いたり懸命になっているところへ、また怪物の首が襲いかかります――。

 

 ところが、そこに赤い光が飛んできました。怪物の頭に激突して破裂し、その勢いで怪物の首を払いのけます。

 それは西の塔から発射された魔法でした。赤の魔法使いが塔から身を乗り出して、杖を掲げています。

 ギェェェ!!

 怪物は向きを変えると、西の塔に向かって歩き出しました。赤の魔法使いの攻撃が命中するとダメージを受けるのですが、立ち止まることはありません。

「赤に怪物が迫りますぞ!」

 と武僧が言いました。彼が操っている青い大熊は怪物を抱き込んで持ち上げようとしています。

「ムヴアの術は怪物に効いとるが、力が足りないんじゃ!」

 と老人も言いました。深緑の大鷲は怪物の目や体をつつき、鋭い爪で首をつかんで、都の外へ引きずり出そうとしています。

「我々は手が離せない! 赤、なんとか踏ん張れ! そこを破られたら、怪物が城に侵入するぞ!」

 と女神官は言いました。巨大な天使は怪物を抱え込み、翼を羽ばたかせて浮き上がろうとしていました。怪物が抵抗して天使の腕にかみついたので、女神官はうめいて歯を食いしばります。

 赤の魔法使いは杖から魔法を撃ち出し続けました。怪物をなんとか足留めしようとしますが、やはり押しとどめることはできません。ついに怪物が塔の目の前までやってきます。

 

 そのとき、赤の魔法使いの背後で声がしました。

「よぉし、これで修理完了だ! すっかり元通りだぞ!」

 甲高い老人の声です。

 赤の魔法使いが驚いて振り向くと、いつの間にやってきたのか、屋根のない部屋の真ん中にノームのピランがいました。自慢そうに高々と掲げているのは、先程まで壊れていたはずの護具でした。ピランの言うとおり、すっかり直って元通りになっています。

 ノームの老人はぴょいぴょい跳ねてくると、赤の魔法使いに護具を押しつけて言いました。

「わしが手をかけた護具が壊されたままなんて、我慢がならんからな! そら、早く使わんか!」

「シャ、ル」

 赤の魔法使いは異大陸のことばで感謝をすると、杖を護具に握り替えました。震える護具を掲げて叫びます。

「タレ!」

 それが聖なる守護獣を呼び出すためのことばでした。

 たちまち護具から赤い光がほとばしり、ふくれあがって、赤く輝く巨大な山猫に変わります。

 

 山猫は怪物に飛びかかると、攻撃をかわして背後に回り込みました。黒い翼と背中をひっかくと、振り向いてきた首にがっぷり食いつき、そのまま頭を振って怪物を都の外へ放り出してしまいます。

 それを見てピランは飛び上がって喜びました。

「見たか、わしの護具の力! 直すからには前より強力にというのが、わしのモットーだからな! 威力は三割増しだぞ!」

「そ、それはうらやましい話です……な」

 怪物と力任せのもみ合いをしながら、青の魔法使いが言いました。まるで自分自身が怪物と取っ組み合っているように、顔を真っ赤にして踏ん張っています。

「まったくじゃ。わしらの護具も強化してほしいの――っとぉ」

 深緑の魔法使いはいきなり部屋の中で倒れました。怪物が大鷲にかみついて投げ飛ばしたからです。守護獣に食らったダメージは、そのまま魔法使いたちに伝わっています。

 けれども、大鷲がたたきつけられる直前に、山猫が飛び込んできました。背中で鷲を受け止め、その下の街並みを守ります。

 深緑の魔法使いも空中で留まって、体を立て直しました。護具を握り直して言います。

「赤、力を貸すんじゃ! あいつを放り出してやるわい!」

 山猫と鷲は同時に怪物に飛びかかりました。かみつき、ひっかき、鋭いかぎ爪でがっちりとつかんで、竜の怪物を街壁の外へ放り出します――。

 

「残りはあと二頭だ! がんばれ、青!」

 と白の魔法使いが言ったので、青の魔法使いは脂汗を流しながら、にやりと笑いました。

「女神様じきじきの声援を受けたとあれば、なにがなんでも、がんばらなくてはなりませんな。だが、こいつがどうしても投げられたくないと抵抗してましてな。……ならば、これでどうだ」

 城下町の中で青い大熊が怪物の頭をつかみ直しました。そのまま長い首を脇の下に抱え込み、思いきり頭をねじっていきます。

 怪物は苦しがって暴れましたが、熊は放しませんでした。やがて、ぼきり、という嫌な音に続いて肉がちぎれる音がして、怪物の首がもぎ取られました。暴れていた体が急に力をなくして沈み込みます。

 大熊は怪物を都の外へ投げ捨てました。ちぎれた頭もボールのように放り投げます。

「残りは……この一頭……!」

 白の魔法使いは顔を歪めながら護具を大きく振りました。巨大な天使が怪物を抱えて舞い上がり、空中で振り回して投げ飛ばします。

 怪物は城壁を越えて都の外へ飛び出していきました。郊外の畑の中に倒れて雪煙を上げます。

「よし……!」

 四大魔法使いは息を弾ませながら外を見ました。その手には輝く護具が握られています。

 都には天使、熊、鷲、山猫の四体が立っていました。彼らが背にして守っているのは、ロムド王たちがいるロムド城でした――。

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