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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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84.攻防・2

 「飛竜部隊が都の周囲を攻撃していますぞ!」

 と青の魔法使いがどなりました。

「ああ、いしゆみも一個隊やられた。あっという間だ」

 と白の魔法使いが答えました。彼らは守りの塔の最上階にいるので、周囲の様子がよく見えていたのです。

 深緑の魔法使いが尋ねました。

「どうする、反撃するかの? 魔法軍団はいつでも攻撃を開始できるぞ」

 すると、赤の魔法使いが首を振りました。

「ダ。キ、ニワ、キ、ス」

 女神官はうなずきました。

「赤の言う通りだ。反撃するには障壁を部分的に消す必要がある。これまではそれも可能だったが、今のセイロスの闇の力はすさまじい。ほんの少しでも障壁をゆるめれば、そこから圧倒的な勢いで侵入してくるだろう」

「このまま守りを固めているしかない、ということですか」

 と武僧は言って口を一文字にしました。

 森から立ち上る煙は火の粉を巻き上げながら空を焦がしています。障壁で守っているので、都に燃え移る心配はありませんが、黒煙は都の中からも見えているはずでした。周囲から避難している住人がそれを見てどう思うか、四大魔法使いには手に取るようにわかる気がしました。

「ここに勇者殿がおらんでよかったわい。勇者殿はこういう攻撃に見て見ぬふりが絶対にできん。障壁を突き破ってでも助けに飛び出していったじゃろう」

「それを確かめるために、わざと周囲を攻撃しているのかもしれませんな。勇者殿がここに戻っていないことを確認したいのかもしれません」

 と老人と武僧が言ったので、女神官は厳しい声で答えました。

「そうであろうがなかろうが、我々は都とロムドを守り続けるだけだ。敵は絶対に侵入させない。気を引き締め直せ」

「ほい、もちろんじゃ」

「無論です」

「チ」

 仲間たちは口々に答えました。彼らが握る四本の杖から、守りの光がほとばしって護具に伝わり、都全体を包み続けています――。

 

 すると、見張りの魔法使いから報告が飛び込んできました。

「飛竜部隊の火袋攻撃が停まりました! セイロスが都に接近してきます! 何か仕掛けてきそうです!」

「魔法軍団、全員防御準備!」

 と女神官は即座に命じました。都中に散っている魔法軍団から了解の返事が聞こえてきます。

 例の黒い魔法がまた降ってくるかもしれない、と誰もが身構える中、輝く障壁の向こうに、飛竜に乗った男が近づいてきました。黒い防具に身を包んだセイロスです。

「前回よりさらに黒くなってますな」

 と武僧が言うと、深緑の魔法使いが答えました。

「奴はもう半分近くデビルドラゴンになっとる。いや、デビルドラゴンの自分を現しかけとる、と言ったほうが正しいかもしれんな。そろそろ姿も変わるじゃろう」

 セイロスとの間にかなりの距離はありましたが、魔法使いたちにはその姿が見えていたのです。黒い防具の上で赤い太い筋が脈打っている様子もはっきり見えています。

「倒すならば、デビルドラゴンに変わらないうちだ。奴はまだ人間なのだからな。弱点を探せ」

 と女神官が言ったとき、セイロスが片手を目の前にかざしました。掌を上向けると、そこに載るように闇魔法が集まり始めます。

「リダ! ゾ!」

 と赤の魔法使いが叫んで、杖を床に突き立てたまま先端をセイロスのほうへ向けました。黒い魔法がやってくると考えて、魔法を繰り出したのです。

 彼の魔法は赤い稲妻のように宙を引き裂き、都の障壁をすり抜けてセイロスへ飛びました。彼が使うムヴアの術は、聖なる障壁に邪魔されることがないのです。闇魔法で防ぐこともできません。

 すると、セイロスは魔法を手に載せたまま、赤い稲妻を鋭くにらみつけました。とたんに彼の髪の毛がひと筋、蛇のように伸びて稲妻を呑み込み、ちぎれて消滅していきました。セイロスと闇魔法はなんのダメージも受けません。

「赤の魔法を防ぎましたぞ!? まさか!」

 と武僧が驚くと、老人が言いました。

「直接防いだんじゃない。赤の魔法ごと空間を移動させたんじゃ。奴の髪はデビルドラゴンそのものじゃ」

 赤の魔法使いは杖を握りしめたまま歯ぎしりしていました。彼の術も届かないのであれば、彼らにセイロスを攻撃することは不可能です。

 

 すると、セイロスがふいと手を横へ動かしました。魔法も黒い円盤のようについていきます。魔法は渦巻く闇でできていますが、大きさは黒い魔法よりずっと小型でした。それを都に向かって投げつけてきたので、魔法使いたちは驚きました。

「もう投げてきたわい!?」

「黒い魔法ではありませんぞ!」

「防げ!」

 と女神官が叫び、障壁は一層輝きを強めました。

 闇魔法は本物の円盤のように飛んでくると、障壁にぶつかって火花を散らしました。赤、青、白、深緑、四つの色の火花と黒い火花が飛び散り混じり合います。

 と、女神官と武僧が同時に大きくよろめきました。二人とも、とっさに杖に力を込めて踏ん張ります。

 二人が倒れそうになったのは、闇の円盤が障壁を突き抜けたからでした。白と青の光の膜を鋭く切り裂き、その隙間から内側へ飛び込んできます。

「まずい!」

 老人はとっさに新たな魔法の障壁を張りました。円盤が向かっていくロムド城の主塔を守ろうとします。主塔のすぐ下にはロムド王たちがいる最も大事な建物があったのです。

 ところが、円盤は大きく弧を描くと、主塔を避けるように飛んでいきました。襲いかかったのは、主塔の陰に位置していた西の塔――赤の魔法使いがいる守りの塔でした。

「赤!!!」

 仲間たちは円盤を防ごうとしましたが、間に合いませんでした。円盤が西の塔に激突し、爆発して塔の上部を吹き飛ばします。

 塔の上部から立ち上っていた光がとぎれ、都を包む障壁から赤い光が消えていきました。その痕がぽっかりと空白になります。

「敵が侵入するぞ! 赤の場所をふさげ!」

 と女神官はどなりました。自分の白い魔法をいっぱいに広げて、空白を補おうとします。深緑の魔法使いも大急ぎで障壁を広げます。

「赤!? 赤、無事ですか!?」

 武僧が必死に呼びかけていると、返事が返ってきました。

「ダ。ガ、ゴグ、レタ」

 ほっとしたのも束の間、魔法使いたちはまた深刻な顔になりました。赤の魔法使いは、自分は無事だが西の塔の護具が壊れたと言ったのです。

 

 そこへまた見張りの魔法使いの声が響きました。

「飛竜部隊が動き出しました! 障壁の隙間から侵入してきます!」

「なに!?」

 と彼らは驚いて空を振り仰ぎました。

 赤の魔法使いの障壁が消えた痕は白と深緑の二人が補ったのですが、空にはまだ闇魔法の円盤が回転していて、障壁の一部に穴を作り続けていたのです。

 飛竜部隊は次々と穴をくぐってきました。大半の飛竜が障壁の内側に入り込んでしまいます。

 ディーラにまた角笛が響き始めました。緊急避難を呼びかけたときよりもっと激しくせわしなく、敵の侵入を知らせます。

 すると、角笛を吹いていた兵士に飛竜が襲いかかりました。

「うわぁっ!」

 兵士は竜に食いつかれ、バランスを崩して城壁から落ちていきました。警備兵が矢を射かけて竜を追い払います。

 一方、都の中では次々と火の手が上がり始めました。飛竜部隊が火袋の攻撃を始めたのです。人々の悲鳴が上がり始めます。

「飛竜を倒さなくては!」

 と叫んだ武僧に、女神官はどなり返しました。

「持ち場を離れるな! 奴はまだ上空にいるぞ!」

 飛竜に乗ったセイロスは、ギーとバム公爵の飛竜を左右に従えながら、障壁におおわれたディーラを冷ややかに見下ろしていたのでした――。

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