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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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82.襲来・3

 都へ退避を知らせる角笛の音は、ロムド城の四方に建つ守りの塔にも響いていました。都全体を包む守りの光は、この守りの塔の上から発せられているのです。

 女神官の白の魔法使いが、南の塔から心話で仲間に話しかけていました。

「飛竜部隊はもう見えているな? 前回よりも飛竜の数はずっと少ないが、乗り手は前回より熟練しているぞ。油断するな」

 すると、北の塔から深緑の魔法使いが答えました。白い髪とひげに鋭い目つきの老人です。

「ほい、油断するつもりはありゃせんが、本当に数が少なくなっとるな。わしがいたゾルゾルー侯爵領の基地には、百頭以上の飛竜がやってきたんじゃが。今はせいぜい四十四、五頭じゃ」

「半分以下ですか。我々にはありがたいですな」

 と東の塔から言ったのは青の魔法使いでした。筋骨隆々とした、ひげ面の武僧です。

 すると、西の塔から黒い肌に金色の猫の瞳の小男が言いました。

「シャ、カ、ラシ、タ」

 南大陸の自然魔法を使う赤の魔法使いは、今でもムヴア語でしか話せませんが、仲間たちには通じていました。

「そうだな。勇者殿たちと殿下たちが飛竜部隊に打撃を与えて、可能な限り数を減らしてくださったんだ。連中の目標はこの都、セイロスの狙いは陛下のお命だ。前回と違って、今回我々は最初から全員が揃っている。全力で都と陛下をお守りするぞ」

 と女神官が言うと、離れた場所に建つ三つの塔から仲間がいっせいにうなずき返しました。全員が自分の杖を床に突き立てようとします。

 

 ところが、そこへ話しかける声が聞こえてきました。

「申しわけありません。白の隊長に報告したいことがございます」

 女神官は誰もいない空間を振り向きました。

「鳩羽(はとば)か。どうした?」

 治療魔法を得意とする鳩羽の魔法使いは、城の前庭に臨時に設けられた野戦病院にいて、そこから心話で話しかけてきたのです。

「紫が何か気配を感じたようなのです。そちらへ伺ってもよろしいでしょうか?」

 女神官は厳しい顔つきになりました。

「いや、もうこちらへ飛ぶことはできない。セイロスが接近してきたために、強力な闇の波動に空間が影響を受けているのだ。無理に飛べば思いもよらない場所に出る危険性がある。そこから報告しろ」

「わかりました。ほら、紫――」

 鳩羽の魔法使いは傍らにいた仲間を前に押し出しました。紫の長衣を着て、黄色い巻き毛に紫の細いリボンを結んだ少女です。まだわずか八歳ですが、彼女もれっきとした魔法軍団の一員でした。小さな体で精一杯胸を張っているのが、上官の女神官にははっきりと見えます。

「どんな気配だ、紫?」

 と尋ねると、少女は幼い顔で大人びたしかめ面をしました。

「隊長、都の外に怪しい霊がいます」

「セイロスは強力な闇の気配を放っている。悪霊がその気配に惹かれてやってきたか」

 と女神官が言うと、少女は巻き毛を揺すって首を振りました。

「悪霊じゃありません。でも悪意は感じるから邪悪な霊です。それに、前にも感じたことがある気配なんです」

「悪意があるのに悪霊ではない――?」

 と女神官が思わず聞き返すと、魔法使いの老人が話しかけてきました。

「霊というのは幽霊のことじゃろう? それならば、何が来とるかわかりきっとる」

「左様ですね。きっと、いつもセイロスのそばにいるあいつだ」

 と武僧も口を挟むと、ムヴアの魔法使いもうなずいて言いました。

「ランジュール」

 女神官は思わず額を抑えました。

「またあいつか。勇者殿たちの話では、闇大陸のパルバンについていって、そのままそちらに閉じ込められたという話だったが、やはり抜け出していたのか。敵に厄介な奴が加わってしまったな」

 女のような笑い方をする幽霊の青年は、これまでも魔獣を使って幾度となく彼らを悩ませてきたのです。

 すると、紫の少女が憤慨したようにまた言いました。

「あいつは都には近づけません! あたしが幽霊よけの結界を都の周りに張ってるし、結界の範囲も前より広くしてありますから! ただ、あたしは魔獣を防げないから、隊長にお知らせしておこうと思ったんです」

 彼女は幽霊退治専門の魔法使いとして、白の魔法使いの部隊に所属しているのでした。

 女神官はうなずきました。

「わかった、用心しよう。奴はとぼけて見えても油断のならない幽霊だ。紫も引き続き守備を頼むぞ。奴をできるだけ遠ざけておいてくれ」

「はい、わかりました!」

 魔法使いの少女は誇らしそうに答えると、そのまま鳩羽と一緒に見えなくなっていきました。通信を終えたのです。

 

 相変わらず四つの塔に離れたまま、四大魔法使いはまた会話を再開しました。

「セイロスと飛竜部隊がディーラにやってきて、ランジュールまでが現れたとは、次第に役者が揃ってきた感じがしますな」

 と言う武僧に、ムヴアの魔法使いが答えました。

「ダダ。カ、シャ、ダ、ナイ……ギンネズ、チ、ク、イ」

 仲間の魔法使いは思わず黙り込んでしまいました。彼は、オリバン殿下や勇者たちの到着がまだだし、殿下と一緒にいる銀鼠たちから連絡もないのだ、と言ったのです。

 けれども、すぐに女神官が答えました。

「我々の間にセイロスが入ると通信ができなくなることは、深緑のときによくわかった。銀鼠たちとも、そのために連絡が取れないのだろう。殿下たちに何事かあったなら、ユギル殿が黙っているはずはないからな」

「そうじゃな。勇者殿たちもそろそろ到着する頃じゃろう。うまくすれば、飛竜部隊をわしらと挟み撃ちにできるかもしれん」

 と老人が言ったので、武僧はあきれて言い返しました。

「勇者殿たちはたった四人と二匹ですよ? いくらなんでも、その数で挟み撃ちは難しいでしょう」

「いやいや、わからんぞ。なにしろ、あの一行じゃからな――」

 四人の魔法使いたちは、今度は思わず笑ってしまいました。フルートたちのこれまでの活躍を思い出して、確かに可能かもしれない、と思ってしまったのです。

 そして、笑いが彼らの中に余裕のようなものを生み出しました。彼ら自身は気づいていなかったのですが、毎回都を危機に陥れる強大な敵を前にして、緊張で心のゆとりを失いかけていたのです。

 

 すると、都の外を見張っていた部下から、彼らに通信が入りました。

「隊長方に報告いたします! 敵の飛竜部隊が攻撃の準備を始めています! どうやら都の中に火袋を落とすつもりのようです!」

 セイロスの作戦など知ることはできないので、部下はごく自然な誤解をしていました。

 四大魔法使いたちも同じ誤解をしました。

「また都を火攻めにするつもりじゃな。どこかから都に潜り込んでくるつもりじゃろう」

「障壁に穴を空けなければそれは不可能です。絶対に都には侵入させませんぞ」

「その通りだな。さあ、力を合わせて都と陛下を守るぞ」

 女神官の号令に、仲間たちはそれぞれ自分の杖を握り直しました。トネリコ、クルミ、ハシバミ、樫、異なる種類の枝から作られた杖が石の床をどんと突くと、杖から床に光が広がり、部屋の中央へと流れていきます。

 そこには丸い玉のついた細い護具が立っていて、塔の屋根から外へと光を噴き上げていました。杖の光が流れ着くと、護具の光はいっそう強くなり、奔流となって空へほとばしります。白、青、赤、深緑――四大魔法使いを象徴する四色の光が、都を包む魔法の障壁を強く輝かせます。

 

 火袋の準備を進める飛竜部隊と、守りを固めるディーラ。

 飛竜部隊による三度目の王都攻防戦は、ここから戦いの火ぶたが切って落とされたのでした。

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