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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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81.襲来・2

 飛竜部隊がディーラに到達したとき、都はすでに城壁の門を固く閉じ、四色に輝く光の半球におおわれていました。四大魔法使いが障壁で都を包んでいるのです。都の周囲に人の姿は見当たりません。

 ふん、とセイロスは鼻を鳴らしました。

「やはり我々が来ることを予想していたな。守りだけは堅い連中だ」

「でも、どうしていつも俺たちが来るとわかるんだ? こっちは飛竜であっという間に飛んできたっていうのに」

 とギーが聞き返しました。

「あの城には占者がいるし、目のいい娘もいる。そいつらが予知するのだろうな」

 とセイロスが言ったので、傍らを飛んでいたバム伯爵は心の中でうなずきました。目のいい娘というのが誰のことかはわかりませんでしたが、ロムド城に大陸随一の占者がいることは、誰もが知っている有名な話だったのです。セイロスが考え込んだように見えたので、少しためらってから口を開きます。

「セイロス様、ロムドの都には優秀な占者だけでなく魔法使いの軍団もいるそうです。こちらはこれ以上飛竜を減らしたくないところですし、セイロス様が昨日お見せくださったあの強力な魔法で、一気に片をつけてはいかがでしょうか――?」

 とたんにセイロスではなくギーが伯爵をどなりました。

「作戦を決めるのはセイロスだ! 出しゃばるな!」

「これは失礼いたしました」

 とバム伯爵はすぐに引き下がりました。今ここでギーと張り合うつもりはなかったのです。セイロスがどういう行動を取るのか、後ろから見守ります。

 

 セイロスはさらに何かを考え、自分の腕に目を向けました。赤い筋模様がある漆黒の水晶の鎧ですが、筋模様は絶えず脈動しています。まるで鎧自体が生きているようです。

 やがてセイロスは地上へ目を向け、おもむろに飛竜部隊を振り向きました。

「火袋を準備しろ。地上を攻撃するぞ」

「火袋だって? その前にあの光をなんとかしないと、火袋は全部防がれてしまうんじゃないのか?」

 とギーが意外な顔をすると、セイロスは言いました。

「攻撃目標は都ではない。この近辺に広がる森だ。このあたりの住人は我々を恐れて森に逃げ込んでいる。そいつらを森もろとも焼き払うのだ」

 たちまち飛竜部隊からどよめきが起こりました。

「森に逃げているのは普通の連中なんだろう? そんな奴らをやっつけても、敵には痛くもかゆくもないんじゃないか?」

「火袋も数が少なくなっている。それを森なんかに使ってしまっていいんだろうか?」

 不思議に思って口々に話し合いますが、セイロスは繰り返しました。

「火袋だ。派手に燃やして、次はおまえたちの番だと都の中の連中に知らしめるのだ」

 そこで飛竜部隊は火袋の準備を始めました。火袋というのは小さな革袋に油を入れて火口を取りつけたものです。それを服の帯にいくつもぶら下げていきます。

 

 その様子を見ながら、バム伯爵は首をかしげていました。

 確かにディーラは輝く魔法の障壁で守られていますが、セイロスのあのすさまじい闇魔法ならば、敵がどんなに備えても、あっという間に破壊して打ち破れるはずでした。それを使わずに火袋で脅しをかけようとすることが、意外に思えます。

 何か作戦があるんだろうか? と伯爵は考えました。ディーラとロムド城をできるだけ無傷で手に入れて、自分たちの基地にしようとしているんだろうか? だが、それならそうと皆に話していいはずだ。とすると、あの強力な魔法をディーラに使えない、別の理由があるんだろうか――?

 いくら考えても正解はわかりませんが、なんとなく、後者の考えのほうが核心に近いような気がしました。セイロスは二千年の昔から甦ってきた過去の王だといいますが、そのことも含めて、得体の知れない深い理由があるように思えます。

 セイロスに秘密があるならば、それを探り当てなくては、と伯爵は考え続けました。そうして、ギーを出し抜いてセイロスの腹心となり、ゆくゆくは世界を支配する王のひとりになるのです。彼は地方の貧しい領主で一生を終えるつもりなどありませんでした。自分の野望をかなえるためになら、手を組む相手が闇だろうが悪魔だろうが、いっこうにかまわなかったのです。

 すると、セイロスが伯爵をちらりと横目で見ました。口の端で冷笑しますが、距離があったので、彼はそのことに気がつきませんでした。

 ディーラの手前で、飛竜部隊は炎による攻撃の準備を始めていました――。

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