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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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79.沼の畔・2

 やがて、ポポロが起きられるようになったので、オリバンの呼びかけで作戦会議が開かれました。ゼンが言い張ったので、温かい食事も配られます。

 これは三日間眠り続けていたポポロとフルートには、とてもありがたい配慮でした。フルートは出発前にジャックの粥を食べてきましたが、そんなものはもうとっくに消化していたのです。

 銀鼠と灰鼠が沼の畔の雪を魔法で消したので、主だった者たちは枯れ草の上に座り、湯気が立つスープや火であぶったパンを口に運びながら相談を始めました。

「まず現況の確認だ」

 と口火を切ったのはオリバンでした。

「我々はセイロスの飛竜部隊と戦い、ドワーフたちが発射させた大いしゆみで、少なくとも八頭の飛竜を撃ち落とすことができた。だが、セイロスが黒い魔法を発動させたために山が崩れ、川だったこの一角だけを残して谷が埋まってしまった。ポポロと河童の活躍のおかげで我々は全員無事だったが、捕虜にした敵の竜使いは安否不明になった。おそらく黒い魔法の爆発に巻き込まれたのだろう」

 すると、ドワーフの猟師頭のビョールが言いました。

「七台あった大いしゆみもすべて失われたぞ。俺たちは走り鳥で障壁に逃げ込むのがやっとだったんだ」

「それはいたしかたない。ドワーフが全員無事だったのだから良しとしよう」

 とオリバンが答えます。

 フルートはスープの中の塩漬け肉を呑み込んでから話し出しました。

「ワルラ将軍と将軍の部隊は、三日前にエスタ国のゾルゾルー侯爵領から出発した。数はおよそ百二十名。王都のディーラに駆けつけようと、今も急いで進んでいるはずだ」

「ワン、ただ将軍の部隊はここには来ないだろうと思います。街道を通ってロムドに向かうと言ってましたから」

 とポチが補足します。

 ふぅむ、とオリバンはうなりました。

「将軍の部隊も我々も、ディーラから離れた場所にいる。敵は速い。我々がどんなに急いでも、まともな方法では間に合わないだろう――」

 と考え込んでしまいます。彼の前の食事は手つかずのままです。

 

「セイロスの部隊が向かってるって、ロムド城には知らせたのか?」

 とゼンが尋ねると、灰鼠が答えました。

「ぼくたちも河童も、昨日から何度も隊長に連絡しようとしているんだけど、全然だめなんだ。何度呼びかけても返事がない」

 ポチは首をかしげました。

「ワン、ぼくたちと同じですね。たぶん間にセイロスがいて、ぼくたちが連絡を取り合うのを闇の力で邪魔しているんだと思います。深緑さんもロムド城に戻る前に同じことを言っていたらしいですよ」

 メールは眉をひそめました。

「じゃあ、今頃ロムド城は飛竜部隊の奇襲を受けてるってことかい? いくら数が減ったって言ったって、まだ四十頭以上いるはずだよね?」

 すると、ビョールが言いました。

「俺たちに数え間違いがなければ四十四頭だ。そのうちの二頭にはセイロスと腹心の男が乗っている。まだ充分に多い数だな」

 それを聞いて、一同は思わず黙り込んでしまいます。

 すると、ルルが言いました。

「ロムド城にはユギルさんがいるわ。たとえこちらから連絡ができなくても、占いで飛竜部隊の襲来を知って準備をしているはずよ」

 セシルがそれにうなずきました。

「ユギル殿は四大魔法使いをロムド城から離さなかった。この状況を余地して備えていたんだろう」

 だからこそ、セシルもオリバンも、敵がこの防衛線を突破していくのだろうと予想したのですが、まったくその通りの状況になっているのでした。

 河童がぴょんと立ち上がって言いました。

「隊長たちが四人でディーラを守ってるだ! 飛竜部隊だってやすやすとディーラを堕とせるわけはねえだよ! 急げばおらたちも間に合うかもしんねえだ!」

「いいや、無理だ。ここからディーラまでは間に湿地帯がある。冬でも凍らないぬかるみだから、迂回していくしかないのだ。時間がかかりすぎる」

 とオリバンは苦々しく言って、改めて一同を見回しました。話し合いの席には勇者の一行とセシルと魔法使いたちとビョールがいますが、その向こうには駐屯しながら心配そうにこちらを見守るロムド兵とナージャの女騎士たちがいました。ドワーフ猟師たちも走り鳥の世話をしながらこちらを見ています。

 フルートたちならばポチやルルに乗って飛んでいけるし、魔法使いたちも空飛ぶ絨毯で急ぐことができます。オリバンやセシルも管狐に乗れば、地上を馬で行くよりずっと速く進めるのですが、他の者たちはそういうわけにはいきません。ロムド兵も女騎士団もドワーフ猟師も、地上を駆けてディーラに向かうしかないのです。

 彼らを残して自分たちだけで急ぐべきか、時間がかかるのを承知の上で彼らと共に進むべきか。二つに一つの選択に、オリバンはずっと悩んでいたのでした。

 

 すると、フルートが食べ終えた器を地面に置きました。先に食事を終えていたポポロに話しかけます。

「もう大丈夫かい? できそう?」

 少女はすぐにうなずきました。

「ええ。ゼンのスープで元気になったから、できると思うわ」

 おっ、と勇者の仲間たちは身を乗り出しました。

「なになに、何をするつもりさ?」

「何を思いついたんだよ、フルート?」

「ポポロの魔法ね!」

「ワン、どんな──?」

「前に一度、ポポロに使ってもらった魔法だよ。それを使えば、ずっと速くディーラに到着できる」

 とフルートが答えたので、オリバンやセシルたちは驚きました。

「全員がディーラに急行できるというのか!? どんな方法を使うつもりだ?」

 フルートはにこりと笑うと、全員の前で人差し指を一本立てて、指先が示す方へ目を向けました――。

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