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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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75.迎撃・2

 ゼンとメールの行く手では、空飛ぶ絨毯に乗った銀鼠と灰鼠が、稲妻をかわしながら飛んでいました。かわしてもかわしても、魔法の稲妻はジグザグに走りながら執拗に絨毯を追いかけます。

 けれども、あわや直撃、と見えた瞬間、巨大な炎の狐が空中に現れて稲妻を散らしました。二人が火の神アーラーンを呼び出したのです。

 アーラーンが飛竜部隊の真ん中に突っ込んでいったので、飛竜の隊列は大きく乱れました。逃げ遅れた飛竜が一頭、炎にまかれて竜使いごと谷へ急降下していきます。

 

 ところが、セイロスが先頭から振り向いて手を突き出すと、飛竜から火が消えました。竜使いと一緒にまた上昇して部隊へ戻ってきたので、他の竜使いたちがいっせいに歓声を上げます。

 メールは声を舌打ちしました。

「グルの術はセイロスにも効くけど、効果はやっぱりいまひとつなんだ。悔しいなぁ」

「だが、今の攻撃のおかげで二人が体勢を立て直したぞ。俺たちも援護だ」

 銀鼠と灰鼠が絨毯を反転させて魔法攻撃を始めたので、ゼンは背中からエルフの弓を下ろしました。

「連中には矢は効かないはずだろ?」

 とメールが尋ねると、ゼンは張り渡した弓弦に矢をつがえながら答えました。

「それは飛竜の話だ。乗ってる奴はそうじゃねえ。このまま連中の上を行けよ。あいつらの頭の上から矢をお見舞いしてやる」

 そこでメールは花鳥で上空を飛び続けました。すぐに飛竜部隊の真上に差しかかります。

 ゼンは一頭の飛竜に狙いをつけました。弓弦を引き絞ると、立て続けに三本の矢を放ちます。

 矢は落ちるように飛んでいって、飛竜と竜使いを直撃しました。飛竜は矢を弾き返しましたが、竜使いは矢が腕や肩に刺さって悲鳴を上げました。飛竜が大きくバランスを崩します。

「落ちないかぁ」

 とメールがまた残念そうな声をあげましたが、ゼンは言いました。

「かまわず飛べ。連中に矢の雨を降らせてやる――っとぉ」

 メールが花鳥を急旋回させたので、ゼンは花の中にめり込みそうになりました。セイロスが撃ってきた魔弾をメールがかわしたのです。

 次の瞬間には銀鼠たちの絨毯にも魔弾が飛びました。銀鼠たちもあわてて魔弾をかわします。

「ちくしょう、やっぱりあの野郎が邪魔だ! メール、奴へ飛べ!」

「えぇ、セイロスへ!? いくら何でも無茶だよ、ゼン! 直撃されるよ!」

「大丈夫だ! 俺が奴の魔法を防いでやる! そら行け!」

「それが油断だって言ってるじゃないか――!」

 

 二人が言い合っていると、いきなり谷の北側の斜面で小さな雪煙が上がりました。雪が降り積もった木の枝が突然大きく揺れたのです。

 そこから飛び出してきたのは大いしゆみの矢でした。隊列の端にいた飛竜に命中して、竜使いもろとも撃ち落としてしまいます。

 飛竜部隊は大きく動揺しました。

「ここにもあの武器があるのか!」

 とセイロスがどなる声が聞こえます。

 次の瞬間、大いしゆみの矢が飛んできた斜面で爆発が起きました。降り積もった雪が雪崩を打って落ちていきます。

 ゼンとメールは、はっとしました。ドワーフ猟師たちを助けに飛んでいこうとします。

 ところが――

「あれ?」

 と二人は目を疑いました。セイロスの魔法は大いしゆみが発射された場所を直撃したのに、崩れ落ちる雪の中に大いしゆみが見当たらなかったからです。ドワーフ猟師たちの姿もありません。

 と、今度は谷の南側の斜面から大きな矢が撃ち出されてきました。また別の飛竜に命中して撃墜します。

 セイロスはすぐに振り向いてその場所を攻撃しましたが、やはり、雪崩打つ斜面に大いしゆみやドワーフは見当たりませんでした。雪崩に巻き込まれた森の木が谷へ滑り落ちていくだけです。

「どうなってんだ?」

「あたいたちのときには、セイロスは片っ端から大いしゆみを吹き飛ばしたよね?」

 とゼンとメールが驚いているところへ、空飛ぶ絨毯に乗った二人がやってきました。

 灰鼠と銀鼠が口々に言います。

「すごいな、君の仲間たちは!」

「いしゆみを担いでいるわよ! 怪力のドワーフならではの芸当ね!」

 

 北の斜面の森の中では、ビョールが仲間のドワーフたちに言っていました。

「よく狙えよ! 撃ったらすぐに移動だ!」

 ドン!!!

 引き絞られた大いしゆみが、鈍い音を立てて矢を発射しました。矢は屋根のように雪が積もった枝の間をすり抜け、空の飛竜へまっすぐ飛んでいきます。

「そら、急げ!!」

 ドワーフはビョールも含めて五人いましたが、まだ弦が唸っているいしゆみに取りつくと、せぇの! のかけ声で持ち上げてしまいました。そのまま酒樽でも運ぶように担いでいきます。

 すると、たった今まで彼らがいた場所で爆発が起きました。セイロスが魔法で攻撃してきたのです。雪と共に斜面が崩れていきますが、いしゆみとドワーフたちはもうその場から離れていました。

 

「すっごい。移動しながら撃ってるってわけかい?」

 とメールが驚いていると、谷の南の斜面からまた太い矢が飛んできました。矢は飛竜の首に突き刺さり、竜使いもろとも谷に落ちていきます。

 セイロスがまた斜面をにらみつけると、爆発が起きました。崩れていく雪と木の中に大いしゆみが見えたので、メールは息を呑みました。

「今度はやられちゃったよ!」

「大丈夫だ。ドワーフは巻き込まれてねえし、代わりの大いしゆみはまだある」

 とゼンは言いました。この谷に大いしゆみは七台運び込まれたと聞いていたからです。現に、まもなく南側の斜面の別な場所からまた矢が発射されます――。

 すると、地上からも大勢の声が聞こえてきました。森から谷底へ白い騎士の一団が駆け下りてきたのです。大いしゆみに撃ち落とされた飛竜を取り囲み、槍や剣でとどめを刺していきます。

「こっちは倒したわよ!」

「竜使いも捕まえたわ!」

「そっちのをお願い――!」

 それはナージャの女騎士たちでした。飛竜が一頭、また一頭と動かなくなっていきます。

「姉さん、ぼくたちもまた行こう」

 と灰鼠が言って、空飛ぶ絨毯の二人は高度を下げていきました。黒い鎧兜のセイロスへ炎を撃ち出します。

 セイロスは炎をかわして魔弾を返しました。双方が攻撃をかわして魔法を繰り出す空中戦になります。

「俺たちは飛竜部隊だ!」

 とゼンが言ったので、メールは花鳥で飛竜の上へ行きました。ゼンが真上から飛竜に矢を射かけます。

 飛竜は狙いをつけられる前に急降下していきましたが、うっかり谷の斜面に近づきすぎました。あっというまにいしゆみの太い矢が飛んできて、撃ち落とされてしまいます。

 墜落した飛竜にはまた女騎士たちが殺到しました。飛竜は急所を攻撃されてとどめを刺され、竜使いは捕まってしまいます――。

 

 すると、空に銅鑼(どら)の音が響き始めました。飛竜に乗ったギーが打ち鳴らしているのです。

 とたんに、逃げ惑って右往左往していた飛竜がひとつの方向に向き直りました。長い首が谷の出口がある西を向きます。

 セイロスが銀鼠たちと戦いながら命じました。

「かまわず行け! この谷を突破するのだ!」

「あ、やべぇ」

 ゼンは思わず声に出しました。ここを強行突破されてしまえば、その先にあるのは湿地になった平原です。飛竜たちには好都合、守る者たちには不利な地形になってしまいます。

 花鳥は速度を上げて先回りしましたが、飛竜部隊の前に出たとたん先頭の竜に食いつかれそうになって、あわててまた舞い上がりました。

「おい、逃げるな!」

「無理言わないどくれよ! 花鳥には攻撃能力がないんだよ!」

 言い合いになったゼンとメールの下を、飛竜部隊が飛び過ぎていきます。両脇の谷からまた大いしゆみが発射されて、二頭の飛竜が撃墜されますが、飛竜部隊は停まりません。

 

 すると、行く手から新たな音が響き渡りました。今度は角笛です。

 ちょうど谷の一番狭い場所を通り抜けようとしていた先頭の飛竜が、ギャッと声をあげて高度を下げていきます。

 谷の尾根にオリバンとセシルを乗せた大狐がいました。その足元には銀の鎧兜のロムド兵が集まっています。

 彼らは木と石でできた大型武器を、狭くなった谷の尾根にいくつも設置していました。大いしゆみに似ていますが、一回り小さく、弓や矢の代わりに石の入った革袋を下げた棒があります。

 管狐の上からオリバンがどなりました。

「この先にあるのは我らがロムド国だ! ここから先には絶対に進ません!」

 尾根の上で棒がはね上がり、革袋から石つぶてが飛び出しました。飛竜めがけて次々飛んでいきます。

 飛竜部隊が思わず後退すると、オリバンがさっと手を振りました。とたんに反対側の尾根に新たなロムド兵の一団が現れ、手にした弓で飛竜部隊に攻撃を始めます。

 石と弓矢、大いしゆみと槍と剣、炎の魔法。様々な攻撃が狭い谷間に入り乱れ、飛竜部隊とセイロスに襲いかかっていました――。

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