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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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66.優しの勇者

 湖の上ではフルートとセイロスが激しく戦い続けていました。

 セイロスの強烈な一撃をフルートは剣で受けて流し、背後に回り込んで切り込みます。セイロスが振り向きざま剣で受け止めて押し返しますが、フルートは今度は下に回り込んで飛竜の翼を狙います。飛竜が首を伸ばしてかみつこうとすると、ポチがガウッと威嚇しました。ひるんだ飛竜の手綱をセイロスが強く引いて、フルートの攻撃をかわします――。

 仲間たちは空の上で固唾(かたず)を飲んでそれを見守っていましたが、急にメールが湖へ目を向けて言いました。

「見なよ、あれ!」

 ポポロの魔法で刃のように飛竜を攻撃した氷の破片は、飛竜と一緒に湖に落ちて漂っていましたが、それが急に大きく育ち始めていたのです。隣り合った氷同士がくっつき合ってさらに大きくなっていきます。

「ポポロの魔法が切れたんだわ! 湖がまた凍るわよ!」

 とルルが言います。

 みるみるうちに湖面は白く変わっていきました。氷が水面をおおい始めたのです。湖を泳いでいた竜使いたちが氷の上に次々這い上がっていきます。

「やべぇ。飛竜まで這い上がろうとしてやがる」

 とゼンが言いました。再び凍った湖は、巨大な飛竜が首や前脚を載せても割れないほど丈夫な氷になっていたのです。

「このままじゃまた飛竜部隊が飛び上がるわ! ポポロ、もう一度氷を割りなさいよ!」

 とルルが言うと、ポポロは首を振りました。

「あたし、これを待っていたのよ」

 と右手を高く上げ、指先を空に向けて呪文を唱え始めます。

「ローデローデリナミカローデ……」

 雷を呼ぶ魔法です。たちまち頭上に雲が湧き上がります。

 

 あたりが急に暗くなってきたのでセイロスは顔を上げ、空の黒雲に気がつきました。ポポロの魔法だと察して振り向きます。

「貴様、何をするつもりだ!?」

 ポポロは高く上げた手を湖面に向けて振り下ろすところでした。

「この!」

 セイロスはポポロへ突進しようとしましたが、行く手にフルートが飛び込んできました。また正面から斬りかかってきます。

「どけ!」

 セイロスはフルートと激しく切り結び、同時に魔弾を撃ち出しました。黒い光の弾はフルートではなくポポロへ飛びます。

 けれどもポポロの前に花鳥が飛び出しました。上に乗ったゼンが両手を広げてまた魔弾を防ぎます。

 その間にポポロは呪文を最後まで唱えました。

「テウオズミノミウズーミ!」

 右手の先がまだ凍っていない湖の中央を示します。

 とたんに黒雲から巨大な稲妻がほとばしりました。音をたてて空気を引き裂きながら黒い水面に落ちていきます。

 ビシャーン!!!!!

 目がくらむような光と共に稲妻は湖面を撃ちました。どぉぉん、とあたりを揺るがす音も響き渡ります。

 ゼンたちは閃光に思わず目をつぶり、すぐに目を開けて、おっと声をあげました。

 落雷が巻き上げた薄い霧の中、氷の上に這い上がろうとしていた飛竜は、一頭残らずぐったり倒れて動かなくなっていました。水の中でもがいていた飛竜はもう見当たりません。水中に沈んでしまったのです。

 一方、氷の上にいた竜使いたちも倒れたりうずくまったりしていましたが、じきに動き出して立ち上がりました。こちらは雷に打たれていなかったのです。

「飛竜だけを雷でやっつけたの? どうやったのよ?」

 とルルに訊かれて、ポポロは答えました。

「氷は雷を通さないの。だから、湖がまた凍って裏竜仙境の人たちが氷に這い上がるのを待っていたのよ。できるだけ人を巻き込まないようにしなくちゃいけなかったから……」

 へぇっ、と仲間たちは感心しました。

「やるじゃないのさ、ポポロ!」

 とメールが友人の背中をたたきます。

 竜使いたちは氷上で呆然と立ちつくしていました。自分の飛竜に駆け寄って揺すぶる者もいます。その中にはギーもいました。

「立て! 立って飛ぶんだ! セイロスはまだ空にいるんだぞ! 飛んでくれ――!」

 どんなに呼んでも揺すぶっても、雷を食らった飛竜は動きません。

 その光景を眼下にフルートは言いました。

「おまえの飛竜部隊は全滅した。もうあきらめろ」

 セイロスは引きつるように頬を震わせ、フルートをにらみつけました。すさまじい数の魔弾が飛び出しますが、フルートの前に障壁が広がって砕いてしまいました。フルートの横にはまた二人の精霊が姿を現しています。彼らがいる限り、セイロスの魔法攻撃はフルートに命中しないのです。

 

 すると、セイロスの顔から急に悔しそうな表情が消えました。いきなり人が変わってしまったように、無表情で氷の上の部下たちを見下ろします。

 やがて、彼が右手を上に上げたので、フルートたちは思わず身構えました。ゼンが魔法攻撃に備えてまた両手を広げます。

 ところが、セイロスは冷ややかな顔のまま言いました。

「私が求めていたのは強力な兵士だ。飛竜がいない飛竜部隊など、もう私の兵ではない」

 部下を見捨てるようなことばに、フルートたちはとまどいました。何故急にそんなことを言い出したのか、理由がわかりません。

 セイロスは上げていた腕をおもむろに下ろしていきました。手のひらが向けられたのは、氷上にいる竜使いたちです――。

 フルートはセイロスの意図に気づいて、ぎょっとしました。

「飛竜部隊を攻撃するつもりか!?」

 それを聞いてゼンたちも驚きました。

「てめぇ、自分の部下を殺すってのか!?」

「嘘! あんたの兵隊だろ!?」

「私の飛竜部隊はもういない。あれはもう私の部下などではない」

 とセイロスは冷ややかに答えました。竜使いたちに向けられた手に、闇魔法がふくれあがって、こごっていきます。

「駄目だ!」

 フルートはポチと共に湖へ急降下していきました。竜使いたちは悲鳴を上げて逃げ出しましたが、フルートは彼らの前で反転すると、背後にかばって叫びました。

「金の石、彼らを守れ!!」

 フルートの胸の上で金の石が輝き出しました。セイロスの手からは大量の闇魔法が発射されます。金の光が爆発するように広がって壁になり、セイロスの魔弾をひとつ残らず消し去ります――。

 

 金の光が収まって消えていくと、中心にポチに乗ったフルートが現れました。強烈すぎる光に顔を歪め、痛みをこらえるように自分の体を抱いてあえいでいます。その肩を赤いドレスの女性がつかんでいました。フルートを通じて金の石に力を送り込んだのです。金の石が光るのをやめたので、彼女もフルートを放して見えなくなっていきます。

 金の光が守ったので、氷上の竜使いたちは無事でしたが、光に目がくらんで、セイロスが自分たちを攻撃したことには気づいていませんでした。目をしばたたかせ、何があったんだろう、と驚いて周囲を見回しています。

 すると、思いがけないことが起きました。

 雷に打たれ、氷の上に乗り上げて死んだように動かなくなっていた飛竜が急に頭を上げて、キェェェ、と鳴いたのです。それも一頭二頭ではありません。氷上にいた飛竜のほとんどが息を吹き返していました。氷の上に這い上がり、翼を羽ばたかせてまた鳴きます。

「飛竜が生き返ったぞ!?」

「まさか! なんでそうなるのさ!?」

 ゼンやメールは驚いてわめきましたが、ポポロは飛竜の翼の傷が治っているのを見て理由に気づきました。

「金の石よ! 金の石の光を浴びたせいで飛竜が復活しちゃったんだわ! 飛竜は闇の生き物じゃないから──!」

 フルートは真っ青になりました。竜使いたちを守りたい一心で金の石を使いましたが、その光が飛竜を癒やしてしまうことまでは思い至らなかったのです。

 セイロスは今はもう、はっきりと笑っていました。青ざめているフルートに言います。

「貴様ならばきっとこうするだろうと思ったのだ。貴様は敵も守ってしまう優しの勇者だからな」

 優しの勇者ということばがまるで「大馬鹿者」と嘲っているように聞こえます──。

 

 飛竜の復活を喜ぶ竜使いたちへ、セイロスは呼びかけました。

「ここへ来い、飛竜部隊!」

 竜使いたちは歓声を上げ、飛竜に飛び乗って舞い上がってきました。湖に沈んで息絶えた飛竜は生き返ってきませんでしたが、それでも五十頭近い飛竜がセイロスのもとに集結しました。その中にはギーもいます。

「敵の力を利用するなんて、さすがはセイロスだな! これからどうするんだ!?」

「体勢を立て直す。基地を取り戻すぞ」

 とセイロスは言うと、湖の奥へと飛び始めました。飛竜部隊も移動を始めます。

「待て!!」

 フルートは後を追って食い止めようとしましたが、最後尾に下がったセイロスがまた魔弾を撃ち出してきました。しかも、攻撃する相手はフルートたちではなく、氷上に取り残された竜使いたちです。彼らの飛竜は生き返ってこなかったので、セイロスに従うことができなかったのです。

 フルートはやっぱりまた彼らを守ってしまいました。竜使いたちの前に障壁を張って魔弾を防ぎます。

 金の光が消えたとき、セイロスと飛竜部隊は湖の奥へ遠ざかっていました。バム伯爵の城や基地はもう目の前です。

「畜生、なんて野郎だ!」

「自分の部下を攻撃して盾にするなんて、許せないだろ!」

 ゼンとメールが憤慨しながらフルートのもとへ飛んできました。ポポロとルルもやってきて言います。

「どうしたらいいの、フルート?」

「連中に基地に逃げ込まれたら厄介よ」

「バム伯爵の城にはエスタ国王軍がいる! 彼らが防いでくれている間に追いついて撃退するんだ!」

 とフルートは言うと、仲間たちと共に飛竜部隊の後を追いかけ始めました――。

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