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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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61.湖・2

 「うひゃ、危ねえ危ねえ」

 つい先程まで自分が立っていた場所が、大いしゆみと一緒に崩れ落ちていったので、ゼンは思わずつぶやきました。もちろん、大いしゆみで飛竜部隊を攻撃していたのはゼンです。

 湖の岸辺には、湖から見えない場所に五台の大いしゆみが設置してありました。ゼンは湖の上の飛竜部隊に見つからないように木立の間をくぐり抜けながら、大いしゆみを次々に発射させていったのです。三台目をセイロスに吹き飛ばされてしまったので、すぐに四台目へ走ります。いしゆみの台座には金属の矢がすでに据え付けてあって、ゼンが発射させればいいだけになっています。

 すると、四台目のそばにメールが立っていました。湖も凍るような寒さの中、袖なしシャツに半ズボンという軽装で、しかも全身ずぶ濡れになっています。それでいて、さほど寒そうな様子もなくゼンに話しかけてきました。

「うまいこといってるね。飛竜を二頭撃ち落としたじゃないのさ」

「おまえが連中をいい場所に誘い込んでくれたからな。だが、花魚と一緒に泳いだんだろう? 冷たくなかったのか?」

「平気さ。深緑さんに寒さを感じない魔法をかけてもらったからね」

「丸一日たったのに、まだちゃんと効いてるのか。さすがだな」

 とゼンは感心しました。深緑の魔法使いは、ワルラ将軍の部隊に合流する前に、彼らの迎撃準備を手伝ってくれたのです。

 メールがぽんと大いしゆみをたたきました。

「これだって、深緑さんが魔法で運んでくれたんだからさ、ホントすごいよね。大きないしゆみを矢と一緒に小さな石ころに変えて、エスタ城からここにい運んだら、また元に戻すんだもん。魔力もすごいと思うけど、使い方もうまいよねぇ」

「そのあたりはフルートの作戦の応用だとか言ってたな。ただ、それもいしゆみに力のルビーが使われてなかったからできたんだ。魔石は魔法をかけると駄目になることが多いからな――。さてと、こいつで四台目だ。矢が撃てるいしゆみはあと二台だから、できるだけうまく使わねえとな」

 とゼンは言って、大いしゆみに取りつきました。巻上機を回して金属製の弓弦を引き絞り、飛竜が射程に入ってくるのを待ち構えます。

「セイロスの飛竜は撃ち落とせないのかい?」

 とメールが尋ねると、ゼンは首を振りました。

「奴を狙うと、命中する前に矢を跳ね返されちまう。もったいねえし、こっちの居場所が一発でばれらぁ。まわりを撃ち落として、いつまた攻撃されるかわからねえと思わせとくんだよ。向こうには、こっちが五発しか撃てねえなんてことは、わからねえんだからな」

「そっか」

 とメールは言って、あとは口をつぐみました。ゼンが話をやめて真剣な表情になったからです。木立の間にちらちらとのぞく飛竜を、ゼンと一緒に見つめます。

 

 ずん。

 衝撃と共に矢が発射されました。木の葉の間を突き抜けて、まっすぐ飛竜へ飛んでいきます。

 それが命中するのを見届ける前に、ゼンはメールの手をつかんで駆け出しました。一目散にその場から離れます。

「矢――は? 当たったのかい――?」

 とメールが尋ねると、キーッと背後で飛竜の悲鳴が上がり、続けて大きなどよめきが聞こえてきました。矢がまた飛竜を撃ち落としたのです。

 へっ、とゼンは笑いました。

「相手を見てものを言えって。俺は北の峰の猟師なんだぞ。っとぉ!」

 背後でまた斜面が爆発したので、ゼンはあわててメールを引き寄せて抱え込みました。セイロスが矢の飛んできた場所を攻撃したのです。胸当ての背中に飛んできた石がぶつかります。

 続いて舞い上がった土煙の中を、二人はまた駆け出しました。斜面が次々と爆発して崩れていくのを見て、メールが言います。

「セイロスったら、あたいたちが見つからないもんだから、手当たり次第に攻撃してるよ」

「他の飛竜どもはこっちの岸から離れ出したな。いいあんばいだ。様子を見ようぜ」

 とゼンは答え、しっかりした岩陰を見つけてメールと飛び込みました。斜面の爆発は続いていますが、木が生い茂った場所ばかりを攻撃しているので、彼らのほうにはやってきません。

 

 すると、突然爆発が止まりました。

 あたりにたちこめた土煙が風に吹き散らされていったので、ゼンとメールはそっと岩陰から頭を出して湖を眺めました。

 セイロスを始めとする飛竜部隊は、もうゼンたちがいる岸を見てはいませんでした。全員が対岸のほうを向いて隊列を組み直しています。湖の東側の岸から、小さな白い竜のようなものが舞い上がったのです。朝日を浴びて、竜の背中が金色に光っています。

 それはフルートを乗せた風の犬のポチでした──。

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