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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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52.出撃命令

 セイロスの飛竜部隊がエスタ国に侵入したと聞いて、一同は仰天しました。

「いつだ!? どこへ向かったって!?」

 さすがのフルートも大声になります。

「知らせが入ったのはついさっきだ。飛竜部隊が侵入したのは今朝早く。東の国境にあるセンナの砦で見張りが発見して、早鳥を飛ばしてきたんだ。飛竜は西に向かったらしい」

 とジャックが答えます。

「センナの砦はここです、勇者殿」

 とシオン大隊長がテーブルの地図を示したので、一同は頭を付き合わせてのぞき込みました。大隊長の指はエスタ国の東の国境の、やや北寄りの場所を押さえていました。

「ここから西ってことは……」

 とメールが地図をたどろうとすると、それより早く目で確かめていたフルートが言いました。

「まっすぐ飛んだ先にユーゴー男爵の領地がある。やっぱりここが一番最初だった」

「では、ここの基地はもうできあがっていたということじゃな。ひょっとしたら、他の基地も完成しとるのかもしれん。相変わらず行動の早い男じゃ」

 と深緑の魔法使いがうなります。

 

 エラード公は青ざめてシオン大隊長に尋ねました。

「ユーゴー男爵領へ出撃できるか?」

 大隊長は非常に厳しい顔になりました。

「正直、手遅れです。この場所までは、騎馬隊でどんなに急いでも五日はかかります。とうてい間に合いません。周囲の領主たちにはユーゴー男爵を見張らせていましたが、彼らに敵の来襲を知らせる時間さえありません」

 すると、フルートが言いました。

「魔法でなら知らせることができます。深緑さん、ユーゴー男爵領の周りの領主たちに、ただちに突入するように伝えてください。飛竜部隊の中継基地を占拠して、飛竜部隊が立ち寄れないようにするんです。次のアンリ伯爵領の周囲の領主たちにも同じ命令を伝えてください」

「ほい。承知じゃが、わしはエスタの領地にあまり詳しくないから方向が心許ない。ケーラ殿、すまんが、わしを手伝ってくれんかの?」

「もちろんです! 光栄です!」

 と年若い魔法使いは張り切って答えました。偉大な魔法使いの老人と力を合わせて、東部の領主たちへ魔法の連絡を飛ばし始めます。

 

「一番目と二番目の基地については、彼らに任せよう」

 とフルートは言って、地図へ目を向けました。飛竜部隊の三つ目の基地があるダントス伯爵領を見ながら言います。

「ここもエスタ城からはかなりの距離がある。国王軍に出撃してもらうけれど、飛竜部隊のほうが早いかもしれない。オーダ、辺境部隊を率いてここへ向かってくれ。辺境部隊は移動が速いし、オーダの風の剣なら空の飛竜を吹き飛ばして落とせるだろう?」

「おっ、俺をじきじきのご指名か?」

 とオーダは言って、にやっと笑いました。

「俺の風圧征竜剣は高いぞ。褒美はちゃんと出してもらえるんだろうな?」

「もちろん。セイロスより先にダントス伯爵領に着くことができたら、オーダだけでなく、辺境部隊の兵士全員に報奨金を出すよ。飛竜部隊の中継基地を制圧できたら報奨金は倍額。飛竜部隊を基地に立ち寄らせずに撃退できたら三倍――いや、四倍だ」

 気前の良いフルートのことばに、オーダは目を丸くして笑いました。

「やるな、フルート! 辺境部隊は国より金のほうが大事な傭兵部隊だ。褒美が出ると聞けば、敵より先にダントス領に着こうと、みんな目の色変えて全力疾走するぞ。だが、基地を制圧したら褒美が倍になると言われたら、連中は走る速度をちょぃとゆるめて、その分の体力を残そうとする。さらに敵を撃退したら四倍となれば、戦う体力も残そうとするに違いない。辺境部隊の扱い方がうまいな、フルート。さすがは連合軍総司令官殿だ」

「もちろん、国王軍に同じことができたら、彼らにも報奨金を出すよ。でも、国王軍は大所帯だから、どうしても移動に時間がかかる。その点、辺境部隊は身軽だからな。いち早く駆けつけて敵を防いでほしいんだ。危険な任務を任せるわけだから、報償を増やすのは当然のことだよ」

 フルートはあくまでも大真面目でしたが、オーダはにやにやしていました。無精ひげが伸びた顎をなでながら確認します。

「もちろん飛竜部隊を全滅させろとは言わないな? 撃退して基地に立ち寄れないようにすれば、それでいいんだろう?」

「うん、それでいいよ。頼む」

「よし、引き受けた!」

 とオーダは言って、すぐに部屋を出て行きました。白いライオンの吹雪が後を追いかけていきます。

 

 次に、フルートは知らせを運んできたジャックを振り向きました。

「ワルラ部隊もすぐに出動できるな?」

「もちろんだ! ワルラ将軍以下二百三十名は準備万端! 今すぐにでも出撃できるぞ!」

 とジャックが答えると、フルートはうなずきました。

「それじゃ出撃だ。向かうのは四番目の基地があるゾルゾルー侯爵の領地。ここから一番近い場所だから、絶対に敵より早く到着してほしい。ワルラ将軍にそう伝えてくれ」

「了解!」

 とジャックは思わずフルートへ敬礼を返し、自分でそれに気づいて、ばつが悪そうな表情になりました。わざとフルートへ顔をしかめて言います。

「まったく。やな野郎だな、おまえは」

「よろしく、ジャック」

 険しかったフルートの顔が一瞬笑顔になりました。

 

 オーダに続いてジャックも出て行くと、シオン大隊長が口を開きました。

「我々近衛部隊はどこへ出動したらよいですかな、勇者殿。カルティーナにはまだ多くの国王軍の兵士がいるし、領主たちも自分の兵士と共に集結しています。彼らはどこへ?」

「国王軍と領主たちの半数には、それぞれの基地へ出撃してもらってください。残りの半数とシオン隊長たち近衛部隊は、このカルティーナの警護です。セイロスが急に攻撃の矛先を変えて、エスタ城に向かってこないとも限りません。その時に狙われるのはエラード公です。絶対に守ってください」

「承知した!」

 と大隊長が力を込めて引き受けたので、エラード公は思わず目をうるませました。すぐに真実の錫を握り直して言います。

「代行とは言え、今は私がエスタの王だ。領主や兵たちを戦わせておいて、私だけが安全な場所で守られていて良いはずはない。私も陣頭に立つ」

 大隊長は驚いて公を引き留めようとしましたが、それより早くフルートが言いました。

「領主たちは国王がいるから一致団結しています。生きて無事でいることも、王の大事な役目です。エラード公はエスタ城にいてください」

「そう、その通りですぞ!」

 と大隊長は力を込めて賛同してから、エラード公に言いました。

「ですが、公が御身を危険にさらしても陣頭に立つ、と言われた心意気には、エスタを護る者として大変感激いたしました。我々近衛部隊は、陛下をお守りするのとまったく同じように、王弟殿下もお守りさせていただきましょう」

 大隊長にひざまずいて敬礼されて、エラード公はまた目をうるませました。

 

「ねぇさぁ、あたいたちは!? やっぱり五番目のバム伯爵領かい!?」

「大いしゆみも運ぶんだから、時間がねえぞ!」

 とメールやゼンがせっつきました。ポポロと犬たちもフルートの指示を待っています。

「うん、これから作戦を言う。集まってくれ」

 とフルートは言って、仲間たちを手招きしました――。

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