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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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48.占者

 「邪魔をするぞ、ユギル」

 そう言って部屋に入っていったのは、ロムド皇太子のオリバンでした。セシルも入っていくと、その背後で扉が閉まりました。彼らについてきた召使いや家臣は部屋の外で待機します。

 ロムド城の一番占者は、テーブルの前の席から立ち上がって頭を下げました。

「これは殿下、セシル様、このようなむさ苦しい場所にようこそおいでくださいました」

「どこがむさ苦しい。ユギルの部屋はいつも片付いているぞ。何もなさ過ぎて殺風景なほどではないか」

 オリバンが占者の謙遜を真に受けたので、セシルは苦笑してしまいました。こちらはそつなくこう言います。

「ユギル殿と顔を合わせるのは久しぶりだな。同じ城の中にいるというのに、お互い忙しい」

「お二人は連合軍の総指揮官とその副官でいらっしゃいますから、なおさらお忙しいことでございましょう」

 とユギルは言って二人に椅子を勧めました。部屋の中に椅子は二脚しかなかったので、ユギルは立ったままでいます。

 

 テーブルの占盤の横に地図があったので、オリバンはそれを眺めました。

「エスタの地図か。ユギルが地図を見るというのは珍しいな」

 ユギルはまたちょっと頭を下げました。輝く長い銀髪が揺れて、さらさらと軽い音を立てます。

「勇者殿たちから、セイロスに加担した可能性がある領主について、連絡が入ってくることになっております。わたくしはエスタの領主については詳しく存じ上げないので、宰相殿やトウガリ殿に教えていただいて、領主の名前と領地を地図に書き込んだのでございます」

「なるほど、領主の名前がたくさん書いてある」

 とセシルも地図を見て言いました。広大なエスタ国ですが、そこが大小の領地に区切られて、人名が書き込まれていたのです。領地の数は百を軽く超えています。

「こうしてみると、エスタ国の領主というのは数が多いな。我が国にも大勢の領主がいるが、おもだった者はせいぜい五、六十人というところだぞ」

 とオリバンが言うと、セシルがうなずきました。

「それはメイも同様だ。領主があまり多くなると統括するのが大変になる、と父上はおっしゃっていた」

 セシルの父は今は亡きメイ国王です。

「それが歴代のエスタ王の苦労の元でございました。大勢の領主を家臣に抱え、国土も広ければ領民も多い豊かな王ではございますが、外部との戦争だけでなく、内部での勢力争いも絶えなかったのでございます」

 とユギルは話し、王都カルティーナから南東の方角にある大きな領地を地図に示して続けました。

「ここが勇者殿と手を組んだオグリューベン公爵の領地でございます。勇者殿たちは長らくここに滞在しておいででしたが、先日ここを離れ、王都のエスタ城に移られました。新たに現れた銀の百合(ゆり)の象徴と一緒でございます」

「銀の百合? それは誰だ?」

 とセシルが不思議がると、オリバンが答えました。

「銀の百合はエスタ国王の紋章だ。真実の錫に罰せられていた王弟のエラード公が、子どもの姿から復活してフルートたちの味方になった、と深緑の魔法使いが報告している。その象徴はエラード公だろう」

「ご明察でございます、殿下。これも極秘の情報でございますが、エスタ王はセイロスによって石像に変えられてしまいました。エラード公が代わりに国王の役を務めるようになったので、公の象徴がエスタ国を示すようになったのでございます──。エラード公が加わってセイロスと戦うことを呼びかけたので、大半の領主が公と勇者殿の下に集まってきております。そこに加わろうとしない領主たちが敵である可能性は高いので、勇者殿からの報告が届くのを待っているところでございます」

 ふぅむ、とオリバンとセシルは同時にうなってしまいました。敵味方の見極めに時間がかかれば、その間にセイロスは飛竜部隊の基地を完成させて攻めてきます。いつフルートたちから連絡が来るだろう、と考えてしまいます。

 

 すると、部屋の中に若い男の声が響きました。

「失礼いたします、ユギル殿。お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。お待ちしておりました」

 とユギルが宙に返事をすると、彼らの前に黒い長衣の青年が現れました。エスタ国の双子の魔法使いのトーラです。部屋にオリバンとセシルもいたので、うやうやしく頭を下げてから、ユギルへ小さな羊皮紙を差し出します。

「先ほど弟から届きました。エラード公の呼びかけに応えなかったという、エラード派の領主たちの一覧です。ただ、この全員がセイロスに荷担しているわけではないだろう、というのが勇者殿の見解です。この中から本当の敵をユギル殿に見つけ出してほしいとおっしゃっています」

「セイロスに味方しているのだから、セイロス派の領主ということだな」

 とセシルが言うと、オリバンが即座に言い返しました。

「そんな名で呼んでやる必要はない。裏切り者は裏切り者だ!」

 彼らが自分の家臣だったらその場で切って捨てそうな、厳しい声です。

「それでは、さっそく占わせていただきます」

 とユギルは言って、トーラから書き付けを受け取りました。オリバンもセシルも立って、占盤の前の席をユギルに譲りますが、一番占者はすぐには座らずに、地図に名前を探し始めました。

「ルセンタ伯爵、ゴージ男爵、ガインカタン侯爵……バム伯爵……」

 フルートたちが魔法使いを通じて知らせてきた名前の中には、確かに、セイロスに協力を誓った領主が含まれていました――。

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