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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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46.エスタ城

 翌日、金の石の勇者の一行が王弟のエラード公を連れ帰ると、エスタ城は上を下への大騒ぎになりました。

 エラード公が新しいエスタ王を名乗ったので、さては謀反を起こして国を乗っ取ったのに違いない、と誰もが思ったのですが、公が兄王救出のための出兵を呼びかけ、オグリューベン公爵やスー公爵がエラード公に協力すると公言したので、騒ぎはじきに収まっていきました。

 オグリューベン公爵に保護されていた皇太子が、重い流行病で伏せってしまった、と伝えられると、その動きはさらに決定的になりました。自分たちの地位や権力に敏感なエスタの領主たちは、万が一の事態に備えて新王のエラード公に従うのが得策、と判断したのです。

 

 ことの真相は、忠臣のシオン近衛大隊長、魔法使いのケーラ、エスタ城に滞在中だったワルラ将軍とガスト副官だけに知らされました。エラード公自身が彼らに語ったのです。

 彼らはエスタ皇太子が実はエラード公だったという事実にショックを受けましたが、公が本心から兄王を助けようとしていることを知ると、やはり全面的な協力を約束しました。

「信用してくれてありがとう。そなたたちの力をぜひ貸してほしい」

 と感謝をするエラード公の横で、フルートが言いました。

「公にはこれからエラード派と呼ばれる領主たちへ早鳥を飛ばしてもらいます。内容は出兵要請と、領地の中にエスタ軍の駐屯地を建設する、という連絡です。エラード派の中には、ジャーガ伯爵と同じように、セイロスに協力を誓った領主たちがいます。ジャーガ伯爵はセイロスを裏切ろうとして殺されてしまったけれど、他の領主たちはまだ健在で、セイロスの飛竜部隊のために中継基地を領内に作っています。そんな領主が、こちらの要請に応えて兵を出したり、駐屯地建設のための人間を受け入れたりすることは、できるはずがない。つまり、エラード公の要請に応えられなかった領主がセイロスの仲間だということになるんです」

「なるほど。エラード公の命令が試金石になる、というわけですか」

 とワルラ将軍は納得してうなずきました。年老いてもなお逞しいロムドの将軍は、軍を率いてカルティーナに到着した後、国王不在の王都をエスタの近衛部隊と一緒に守っていたのです。

 その横にはいつものようにガスト副官が控え、さらにその隣にはジャックが立っていました。ようやく上官たちの元に戻れたので、ほっとした顔をしています。

 一方、シオン大隊長は難しい顔をしていました。

「そううまく事が運ぶでしょうか――? これまでエラード公は辺境のウフマンの牢獄に投獄されて、二度と生きては出られない、と言われてきました。そのエラード公が都に戻ってきて、エスタ王の代理を務めると言っても、その命令自体を偽物と疑って従おうとしない領主が出てくるでしょう」

「人間ってのはホント疑り深いよね。やだなぁ」

 とメールが顔をしかめると、エラード公も考え込んでしまいました。

「確かにその通りだ。私に従ってきた領主たちは、四年前の事件の後で厳しい罰を受けたし、さらなる罰を受けるのでは、と恐れている者もいるだろう。私の協力要請を罠と考え、それに応えたら今度こそ処刑されるかもしれない、と考える者もきっとあるだろう」

「ワン、本物の協力要請だってことを、領主たちを信用させる方法はないんですか?」

 とポチが尋ねました。

「協力すればエスタ王から恩赦がある、と付け加えようと思っている。だが、それでも疑う者は疑うだろうな。私が兄上を救おうとすること自体を、おかしいと考える者もあるだろう」

 理想通りにはいかないのが現実です。

 

「だけど――」

 とフルートがまた話し出そうとすると、ポポロと魔法使いのケーラが急に振り向きました。誰もいなかった場所に深緑の魔法使いが姿を現したのです。長い樫の杖を握った格好で全員に一礼してから言います。

「遅うなりましたが、ロムド城で陛下たちに報告してきましたわい。陛下たちはセイロスの飛竜部隊来襲に最大限の備えをするし、こちらの戦闘にもできる限り協力する、とおっしゃっておいででした」

「こっちに協力する? どうやるんだよ。ロムド城からエスタまでは、めちゃくちゃ遠いだろうが」

 とゼンが首をかしげると、たちまちジャックが不満顔になりました。

「おい、馬鹿なこと言うな。俺たちワルラ部隊は将軍と一緒にもうここにいるんだぞ」

 すると、魔法使いの老人が答えました。

「ワルラ将軍の部隊だけでなく、ユギル殿もロムド城から協力しようと考えておいでじゃ。エラード公の命令を使ってセイロスの仲間を見つける計画を話したら、ユギル殿もそれを知りたがりましての。なんでも、今のままでは範囲があまりに広すぎて、飛竜部隊が攻めてくるルートを予知するのが難しかったんじゃが、場所を限定すれば、そこに飛竜が来るかどうか読むことができるらしい。エラード公に協力しようとしない領主が出てきたら知らせてほしいそうじゃ」

 シオン大隊長は何度もうなずきました。

「実にありがたい申し出だ。シナ殿さえ元気でいれば、我々だってそんなふうに敵に味方する者を見つけ出せるのだが、残念ながら、それができない状況なのだ」

 それを聞いて、勇者の一行はエスタ城の女占者の具合が悪かったことを思い出しました。ロムド城まで矢で飛んできたピランが話していたのです。遠く離れた場所にいる双子の姉の具合が悪いので、それがシナにも伝わっているという話でした。シナの双子の姉というのは、ユラサイの竜仙境にいる占神です。占神はまだ具合が悪いんだ……と一行は考えます。

 すると、こちらも双子の片割れのケーラが進み出てきました。

「僭越(せんえつ)ながら、疑わしい領主の名前を占者殿へ伝える役目は、私にお任せください。まだ完全ではありませんが、魔法の力が回復してきて、ロムド城の兄とも会話ができるようになってきたのです」

 フルートはすぐにうなずきました。

「そうしてもらえると、深緑さんには戦闘の準備に専念してもらえます。助かります」

 そんなふうに言われて、双子の弟は嬉しそうな顔になります──。

 フルートは全員に話し続けました。

「それじゃ、エラード公には参戦を呼びかける早鳥をお願いします。領主たちからの回答は全員で共有したうえで、応じなかった領主をケーラさんがロムド城に報告。ユギルさんがセイロスの仲間の領主を見つけ出したら、すぐにその領地へ出撃します」

「承知!」

「了解した!」

 とワルラ将軍とシオン大隊長が返事をしました。声が重なり合ったので、顔を見合わせて、にやりと笑い合います。国は違えど、長年大勢の兵士を率いて戦ってきた、百戦錬磨の二人です。

「ねえさぁ、あたいたちは? あたいたちは何をするのさ!?」

 とメールがせっつくように尋ねてきました。この状況でまた待機や留守番を言いつけたら承知しないよ! と考えているのが、声の調子でわかります。

 フルートは仲間たちを振り向きました。

「もちろん、ぼくたちは最前線で戦う。セイロスは飛竜部隊で来る。空を飛ぶ敵に空を飛んで対抗できるのは、ぼくたちしかいないんだからな。今度こそ飛竜部隊を壊滅させて──セイロスを倒すんだ!」

 強く言い切るフルートの声に、何故だか、はっとした仲間たちでした。

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