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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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第13章 心配

45.身代わり終了

 オグリューベン公爵の居城であるヴィルド城の一室で、フルートの姿になったジャックが深緑の魔法使いと話をしていました。

「オグリューベン公爵はアーペン城から戻ってきませんよ。何かあったんでしょうかね?」

 その姿はフルートそのものだし、声もフルートの声なのですが、なんとなく雰囲気が違いました。フルートならば滅多に見せない、不安そうな顔をしています。

 魔法使いは答えました。

「公爵はゼンに呼ばれてヴィルド城に行ったからのぉ。ということは、勇者殿が公爵を呼び出したということじゃ。エスタ王について何かわかったのかもしれんな」

 それを聞いて、ジャックはますます心配そうになりました。

「無事にエスタ王を助け出せたんでしょうかね? このままずっとフルートでいることになったらと思うと、俺は気が気じゃないんです」

「どうしてどうして、うまくやっとるじゃないか。公爵も他の領主たちも召使いも、おまえさんを勇者殿と思って疑わんからの。わしが心配しとるのは、勇者殿が公爵をアーペン城に呼び出した理由じゃ。エスタ王を救出できたのなら、直接ここに連れてくるはずじゃからな。やはり、うまくいかなかったのかもしれん」

 ジャックは、うへぇ、と言って自分を見回しました。小柄な体に金の防具を着けたフルートの姿に、情けない表情になります。

 

 すると、部屋の窓が急に風でがたがた揺れ出しました。

 深緑の魔法使いはそちらを振り向いて笑顔になりました。

「安心せい、ジャック。身代わりは終了じゃ」

 そう言っている間に窓が開き、ポチに乗ったフルートが入ってきました。部屋にいた二人を見て、にっこりします。

「よかった、いてくれた。急いで知らせたいことがあったんです」

 一瞬、部屋の中に二人のフルートが立ちましたが、すぐに片方はジャックに戻りました。体がぐんと大きくなり、金の防具がロムド兵の銀の防具の上衣に変わったので、ジャックは心底ほっとした顔になりました。

「やれやれ。やっぱり俺はこっちのほうがいい。おい、フルート、遅かったじゃねえか」

「ごめん、いろいろあってね。実は――」

 とフルートが話し出そうとしたとたん、失敬! という声と共に部屋の扉が勢いよく開きました。入ってきたのはオグリューベン公爵です。

 公爵は部屋にフルートがいたので目を見張りました。

「本当に勇者殿か! どうしてここにいるのだ!? つい先ほどまでアーペン城にいたはずではないか!」

 公爵はたった今アーペン城からヴィルド城に戻ってきたのですが、家来からフルートが城にいると聞かされて、驚いて確かめにやってきたのでした。

 フルートは涼しい顔で答えました。

「もちろんポチに乗って飛んできたんです。風の犬は速いから、途中で公爵の馬車を追い抜いてしまいましたね」

 それを聞いてジャックは心の中で冷や汗をかきました。本物と入れ替わるのがもうちょっと遅かったら、ジャックが身代わりをしていたことが公爵にばれるところだったのです。

 フルートは落ち着き払って言い続けました。

「公爵にお願いしたいことは、さっきエラード公が話したとおりです。できるだけ大勢の領主に呼びかけて、準備ができた部隊から出兵してもらってください。ぼくたちはこれからエラード公と一緒にエスタ城へ行きます。皆さんもエスタ城があるカルティーナに集結してください。戦闘の場所はこれからはっきりしてくるので、わかり次第連絡します」

「しょ、承知した……」

 オグリューベン公爵は鼻白んだように言って部屋を出て行きました。まだ少年のフルートに命令されて少し不愉快だったとしても、フルートの後ろにはエラード公がいたし、大至急やるべきことも山ほどあったので、不満を言う暇はなかったのです。

 

 公爵が出ていくと、深緑の魔法使いが眉をひそめました。厳しい声でフルートに尋ねます。

「エラード公というのは、エスタ王の弟君の、あのエラード公のことですか? まだ生きとったとは。何がどうなって、勇者殿と手を組むことになったんじゃ?」

 そこで、フルートはアーペン城での出来事を二人に話して聞かせました。手短に話したのですが、エラード公が改心してエスタ王を助けようとしていることは、しっかり伝えます。

 ふぅむ、と魔法使いは唸りました。

「エラード公が改めたのは、兄王に対する態度だけではないようですの。公はエスタ国きっての反ロムド派として有名じゃったが、それさえも悔い改めて、我々と力を合わせようとしとる。ロムドに反感を持っていた領主たちも、かなりの人数がこちらの味方になりますじゃろう」

「なによりです。国の違いを乗り越えて力を合わせないと、あのセイロスにはとても勝てません」

 とフルートは答えました。

 すると、ジャックが尋ねました。

「これから俺たちはどうするんだ? おまえの代役はこれで終わりだよな? まさか、もっとおまえの代わりをしろ、なんてことは言わねえよな?」

 ジャックがひどく心配そうな顔をしていたので、フルートは思わず笑ってしまいました。

「うん、もういいよ。これまでありがとう――。石にされたエスタ王はアーペン城で厳重に守られることになったし、エラード公はメールたちと一緒に花鳥でエスタ城に向かってるところだ。ぼくとポチもエスタ城に行く。ジャックも深緑さんとエスタ城に戻ってもらっていいよ。ワルラ将軍はエスタ城にいるんだろう?」

「ほい、そういうことなら、ジャックをエスタ城に連れていってもらえますかの? わしはいったんロムド城に戻って、この状況を説明してから、またこっちに戻ってきますわい」

「けっこうです。陛下たちにしっかりお伝えください」

 とフルートが言ったので、ジャックはまたあわてました。

「深緑殿がロムド城に戻ってしまったら、俺はどうやってエスタ城に行けばいいんだよ? 俺は馬を連れてきてねえぞ」

「ワン、ぼくが運んであげますよ。フルートと一緒に乗ってください」

 とポチが言ったので、ジャックは目をむきました。

「俺がおまえに乗るってのか!? そんなこと、できるわけねえだろう!」

「あれ、今までぼくに乗ったことってありませんでしたっけ? きっと大丈夫ですよ」

「そ、そんなまさか! 無理だ! 絶対に無理だ――!!」

 ジャックが真っ青になって否定するので、ポチはその場で風の犬に変身しました。狭い部屋の中でしたが、背中にジャックをすくい上げて浮かびます。

「ワン、ほらね?」

「ぼくたちの友だちならポチに乗ることができるんだよ」

 とフルートに笑顔で言われて、ジャックはうろたえ、思わず赤くなりました。

「なんだよ、友だちってのは。やな野郎だな、てめぇは」

 また懐かしい口癖が飛び出します――。

 笑ってそれを眺めていた深緑の魔法使いが、フルートへ言いました。

「では、ジャックをよろしくお願いしますわい」

「わかりました。また後ほど」

 とフルートが答えると、魔法使いは一同の目の前から消えていきました。ロムド城へ報告に飛んだのです。

「ワンワン、フルートも早く乗ってください。ゼンやエラード公たちを追いかけましょう」

 とポチが呼びかけてきました。

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