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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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42.厚顔・2

 エスタ皇太子がいきなり部屋に飛び込んできたので、オグリューベン公爵もフルートたちも驚いてしまいました。

 皇太子に続いて乳母も入ってきました。

「なりません、殿下! もう夕方でございますよ! 外は暗くて寒くて、雪遊びなんてとても――」

 そこまで言って、乳母は部屋に公爵やフルートたちがいることに気がつきました。あわてて膝を折ってお辞儀をします。

「お話し中のところをお邪魔して大変申しわけございません。殿下が窓の外に雪をご覧になって、メール様やルル様と雪遊びをするんだと駆け出してしまわれまして……」

 懸命に弁解する乳母をよそに、皇太子は歓声を上げていました。

「わぁ、ポチもゼンもいる! ねえ、遊ぼう! 庭が真っ白だよ! 雪遊びしようよ!」

 メールは苦笑して幼い王子にかがみ込みました。

「乳母さんの言う通りさ。もうすぐ夜になるからね。真っ暗で寒くて、今日はもう雪遊びは無理なんだよ」

「ワン、こんなときに外に出たら凍え死んじゃいますからね」

 とポチも言いますが、その横でゼンが首をひねりました。

「そうかぁ? 俺がこれぐらいのときにはもう、夜でも北の峰の雪ん中で獲物を追っかけてたぞ。このへんは北の峰ほど寒くねえしよ」

「あなたは北の峰の野生児でしょう! あなたと皇太子を一緒にしないで!」

 とルルが怒ります。

 オグリューベン公爵は乳母に尋ねました。

「おまえたちはブリジットを見かけなかったか?」

「いいえ。先ほど城代からも訊かれましたが、かれこれ一週間以上もお姿を拝見しておりません」

 と乳母は言いました。手がかりがつかめなくて、フルートも公爵もまた考え込んでしまいます――。

 

 そのとき、皇太子がついにエスタ王に気がつきました。

「父上だ!!」

 と歓声を上げて駆け寄り、すぐに立ち止まってしまいます。

 皇太子が驚いたように目を見張ったので、一同はあせりました。フルートも仲間たちも、とっさになんと言っていいのかわからなくなります。

 すると、乳母が皇太子と並んで王を見上げました。

「まあ、なんてよくできた彫刻でしょう。陛下にそっくりでございますね、殿下」

 と笑顔で言います。

 オグリューベン公爵も皇太子にかがみ込んで言いました。

「左様です。殿下がお寂しくないようにと、私が都の名工に命じて造らせたのです。お気に召しましたか?」

 けれども皇太子は何も言いませんでした。目を見張ったままエスタ王を見上げ続け、ふいに、ぽろりと丸い頬の上に涙をこぼしました。

「父上……」

 フルートたちは、はっとしました。

「これはただの彫刻でございますよ、殿下」

 と乳母や公爵が諭しますが、皇太子は聞き入れませんでした。大粒の涙を次々こぼしながら言います。

「父上、父上はどうして動かないのですか……? どうして父上は堅くなってしまったのです? 父上、なにか話してください……」

 小さな手がエスタ王の脚を押しましたが、石になった王はびくともしません。

「殿下はまだお小さいので、彫刻と本物の区別がつかないのです。ずっと陛下のお帰りを待ち続けていらっしゃいましたから」

 と乳母はせつなそうに言いましたが、ポチは頭を振ってつぶやきました。

「皇太子にはわかってるんだ。これが本物のエスタ王だって……」

 父上ぇ!! と皇太子が王にすがって泣き出します。

 

 その様子に、オグリューベン公爵は少し考えてから、改まった口調で話し出しました。

「そうです、殿下。これは本当は彫刻などではありません。本物の国王陛下です。悪い敵の魔法で石に変えられてしまいました」

 思いがけない暴露にフルートたちが驚いていると、皇太子は今度は公爵にすがりつきました。

「父上がかわいそうだ! 父上を元に戻して! 早く!」

「そうしたいのは山々ですが、魔法をかけたのは敵の大将のセイロスという男なのです。その男を倒さなければ、陛下は元に戻りません」

「じゃあそのセイロスを倒して!」

 と皇太子は即座に言い切りました。幼い泣き顔は怒りの表情を浮かべています。

 公爵はうやうやしく頭を下げました。

「もちろん、我々は全力で戦い、敵を倒して陛下をお救いします。ですが、そのためには殿下もお力添えくださらなくてはならないのです。王がいなくては領主たちは戦に参加してくれません。敵を倒して陛下をお救いするためには、殿下がエスタ国王にならなくてはいけないのです」

 フルートたちは、あっと思いました。公爵はこの状況を利用して幼い皇太子を王座に就けようとしているのです。この! とゼンが拳を握ります。

「エスタ国王に、私が?」

 と皇太子はびっくりしたように繰り返しました。

 乳母が血相を変えて飛び出して叫びます。

「公爵は殿下を国王にして戦場に駆り出すおつもりですか!? 殿下はまだ御年四つでございますのに!」

 公爵は平然と答えました。

「戦に参加していただくと言っても、それは形だけのことだ。実際の陣頭指揮は私と、ここにいる金の石の勇者がとる。絶対に殿下を危険な目には遭わせない」

「行き先は戦場だし敵はセイロスよ。危険がないはずないじゃない!」

 とルルが怒って言い返しますが、公爵はそれを無視しました。皇太子にたたみかけるように話し続けます。

「ご決断を、殿下。我々に任せてくだされば、大勢の領主たちと共に戦って、必ず敵を倒してご覧に入れます。どうか国王になって、我々にご命令ください」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 とフルートは話に割って入ろうとしました。フルート自身はロムドやエスタといった六つの国々からなる連合軍の総司令官です。エスタ国王からわざわざ任命などされなくても、軍隊を率いて敵と戦う権限を持っています――。

 

 ところが、そこにまた新たな訪問者が現れました。

 城の召使いが挨拶もそこそこに部屋に飛び込んできたのです。

「殿にお知らせします! ただいまスー公爵がおいでになって、殿との面会をご希望でございます!」

「スー公爵が? 何故だ?」

 とオグリューベン公爵は驚きました。同じ公爵でも、スー公爵はスー派と呼ばれる領主たちを率いている政敵です。エスタ王救出を領主たちに呼びかけたときにも、スー公爵やその一派から協力の申し出はありませんでした。

「やっと味方に入れてくれって言いに来たのかい。遅いよね」

 とメールが言うと、フルートは真剣な表情で首を振りました。

「おかしい。どうしてスー公爵はこのアーペン城に来たんだ? オグリューベン公爵がこっちにいると知っていたんだぞ。どうしてだ?」

「そりゃ、ヴィルド城に行ってみたらオグリューベン公爵がこっちに来てるって聞いたからだろう」

 とゼンが言うと、ポチも頭を振りました。

「ワン、それにしては早すぎますよ。オグリューベン公爵がここに到着したのって、ついさっきですよ」

 召使いはオグリューベン公爵へ報告を続けていました。

「スー公爵は殿に直接お目にかかって話したいことがあるとおっしゃっています。その……ブリジット様のことについてだと」

 ブリジットが行方不明になっていることを知っている召使いは、そう言って口ごもってしまいました――。

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