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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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39.地下牢

 怪物に取り憑かれていた娘は、フルートたちに起こされると、悲鳴を上げて逃げ出しました。あっという間に階段を駆け上がり、砦から飛び出していきます。

 フルートたちに礼の一言もありませんでしたが、逃げる足取りがしっかりしていたので、彼らは安心しました。あの様子なら自力で近くの村までたどりつけそうだ、と考えます。

 ところが、急にゼンが、しまった! と言いました。

「エスタ王が本当に地下牢にいるのか、あの女に確かめ忘れたぞ!」

「ワン、しかたないですよ。質問できそうな様子じゃなかったもの」

「とにかく下へ行ってみよう。地下牢は一番下にあるはずだからな」

 そこで、彼らは階段を下へ降りていきました。地下へ向かう階段です。周囲が暗くなってくると、金の石が光ってあたりを照らします。

 ところが、地下三階まで降りたところで階段はなくなってしまいました。山を掘削して造った薄暗い部屋には、水や酒の樽がずらりと並んでいますが、どこにも牢屋らしいものは見当たりません。

「ワン、ここじゃなかったのかなぁ」

「もっと下があるのか? だが、ここに来る途中、別の階段や通路はなかったよな」

 一行は困惑して地下室を見回しました。こんなときポポロが一緒にいれば、魔法使いの目で見つけてくれるのですが、彼女はアーペン城にいます。

 フルートは考えながら言いました。

「砦の地下牢は空井戸のようになっていることが多いって、前にオリバンから聞いたことがある。だとすると、牢の入り口は床の上にあって小さいはずだ。床の様子がまわりと違っているところを見つけよう」

 

 そこで彼らは床の上を探し回りました。フルートは金の石で慎重に照らしますが、夜目の利くゼンは苦もなく樽の間を移動して探し回りました。ポチは床に鼻を押しつけて匂いをかいでいきます。

 やがて、ゼンとポチは同じ場所で声をあげました。

「ここだ! 床にやたら足跡が残ってるぞ!」

「ワン、割と新しい食べ物の匂いも残っていますよ! 誰かがここでワインや料理をこぼしたみたいだ」

 フルートはその場所へ近づいて天井を見ました。真上に灯りの消えた燭台がぶら下がっていたので、うなずきます。

「これが目印だったのか」

「調べるぞ」

 とゼンが矢の先端で床をつつくと、あっけないくらい簡単に穴が空きました。その場所の石の床が消えてしまったのです。穴の上には太い木の格子がはまっています。

 のぞき込むと、格子の下には深い縦穴がありました。真っ暗でフルートには底が見えません。

 ポチが格子越しに中の匂いをかいで言いました。

「ワン、エスタ王の匂いがしますよ。やっぱりここにいるんだ」

「底の方に誰かいるのが見えるぞ。エスタ王だな」

 とゼンも言います。

 そこで彼らは声を張り上げて呼びました。

「エスタ王! エスタ王!」

「ワン、エスタ王! 聞こえますか!?」

「助けに来てやったぞ! 返事しろよ、エスタ王!」

 ところが、いくら呼んでも地下牢から返事はありませんでした。物音ひとつ聞こえてきません。

「ワン、エスタ王が全然動きませんよ。感情の匂いも感じられません。気を失ってるのかも」

「だが、あれは立ってる格好だぞ。立ったまま気絶してるってのか?」

 彼らは顔を見合わせてしまいました。最悪の状況が頭の中をよぎって、ぞっとします。

「ポチ、ゼン、エスタ王を助け出せ!」

 とフルートに言われて、ゼンはすぐに格子をつかみました。重たい格子をあっという間に引き外して放り出します。

 ポチは変身すると、ゼンを乗せて穴に飛び込みました。穴の中から激しい風が吹き出してきたので、フルートは後ずさって見守ります。

 すると、いきなり風がやんで二人の声が聞こえてきました。

「こんちくしょうめ!」

「ワンワンワン、エスタ王! エスタ王!」

 フルートはまた穴に駆け寄りました。エスタ王はセイロスに殺されていたんだろうか。あの怪物に襲われて死んでいるんだろうか。そんな考えが激しい後悔と共に襲ってきます――。

 

 間もなく再び風の音がして、ポチが戻ってきました。背中には人を抱きかかえたゼンが乗っています。

「エスタ王!」

 と駆け寄ったフルートは、思わず立ちつくしました。

 ゼンが悔しそうな顔で降りてきて、腕の中の人物をそっと床に下ろしました。エスタ王です。でっぷり太った体は少し痩せていて、マントもはおっていませんでしたが、王の冠は頭にありました。床の上に自力で立ちますが、そのまま身動きしようとしません。

 フルートは我に返ると、首からペンダントを外しました。金の石をエスタ王に幾度も押し当てますが、王はやはり動きませんでした。

「ワン、セイロスのしわざですよ」

 と犬に戻ったポチが言いました。どうしていいのかわからない、という顔をしています。

 フルートは唇をかむと、両手でエスタ王の体にふれました。その掌に冷たく堅い感触が伝わってきます。ざらりとした砂のような手触りも……。

 彼は顔を歪めてうつむいてしまいました。

「すみません、エスタ王……すみません……」

 目から悔し涙がこぼれます。

 彼らの前にはエスタ王の石像が立っていました。

 彫刻ではありません。エスタ王はセイロスの魔法で石に変えられていたのでした──。

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