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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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19.驚愕

 カルティーナの上を幻のような怪物が飛び回っていました。風にたなびく長い体は白い蛇のようですが、よく見ると犬の頭と前足があります。

 それは、四年前にエスタの各地で住人を無差別に切り刻み、人々を恐怖のどん底に陥れた風の犬でした。風の犬は退治されて平和が戻っても、人々の心には今なお風の犬への恐れが巣くっています。

 衛兵もジャーガ伯爵の兵士も、ゴーレムではなく空へ矢を放ち始めました。彼らに呼びかけた声も風の犬がしゃべったのだと思い込んでいます。

 すると、風の犬は空を飛び回り、飛んできた矢を風の体に巻き込みました。そのまま都の壁へ急降下して、両側にいる二つの陣営の前を次々に飛び過ぎます。とたんに、たくさんの矢が地面に勢いよく突き立ちました。びぃいん、と音を立てて震える矢を見て、衛兵も兵士たちもあわてて後ずさります。

 

 そこへ、新たな風の犬が空へ駆け上がってきました。白い長い体の上に二つの人影が見えます。

 風の犬がゴーレムのすぐそばを通り過ぎていくと、人影はゴーレムの肩の上に移りました。折から昇り始めた朝日に照らされて、ひとりが金色に輝き始めます。その人物は金色の鎧兜を身につけていたのです。もう一人は黒衣を着ていますが、やはり朝日に星のようにきらきらと光り出していました。赤いおさげ髪が風になびいています。

 あれは……と兵士たちが見上げていると、ゴーレムの上からまた声がしました。

「ぼくたちは敵じゃない! この風の犬もぼくたちの仲間だ! ぼくは金の石の勇者! あなたたちに知らせたいことがあって来たんだ!」

 その声はカルティーナ中に響き渡りました。魔法で広げられていたのです。

 突然の大音声に、都の住人は目を覚まして家の外に飛び出し、エスタ城でも多くの人が窓やベランダに駆けつけました。都の防壁をまたいで立っている緑のゴーレムに、誰もが肝を潰して悲鳴を上げます。

 

「このゴーレムは無害だ! 心配しなくていい!」

 と少年はまた言いました。その声は都の隅々まで伝わっていきます。

 実際、ゴーレムはただ立っているだけで、歩き出したり暴れたりすることはありませんでした。

 二匹の風の犬も、その周りを飛び回っているだけです。

「金の石の勇者だって?」

「あのロムドの英雄の?」

「じゃあ、隣にいるのが魔法使いか」

「意外と小さいな」

「噂によると女の子らしいぞ──」

 正体がわかるにつれて、人々の動揺は少しずつ収まっていきました。衛兵や兵士も攻撃をやめて見上げています。

 エスタ中の誰もが注目する中、少年勇者は話し続けました。

「ぼくたちは重大な知らせを持ってきた! よく聞いてくれ――! エスタ国王は敵の手にかかって城から誘拐されてしまった! 今は敵によって幽閉されている! 皇太子も誘拐される危険があったから、ぼくたちはオグリューベン公爵と協力して皇太子をエスタ城から保護した! これから公爵と力を合わせてエスタ王の救出に向かう! 志のある者はぼくたちに協力してほしい! 以上だ!」

 一気にそれだけを言うと、少年は手を振りました。とたんに緑のゴーレムがまたざわめき始めます。無数の木の葉がこすれ合う音です。

 何が起きているのか人々が理解できないでいると、ゴーレムがいきなり形を失いました。ゴーレムの体を作る木の葉が崩れ出し、肩の上に立った二人を呑み込んでしまったのです。

 勇者たちの姿が見えなくなったので、人々は叫び声を上げました。思わず駆け寄ろうとした衛兵たちの目の前に、木の葉が滝のように降り注いで一面が緑色になります。

 するとまた、ごうっと風が吹いてきました。木の葉が宙に舞い上がり、渦を巻いて散っていきます――。

 

 気がつくと、木の葉はいつの間にか木々の枝で揺れていました。すべてが元の場所に戻って、何事もなかったようにそよ風に吹かれていたのです。緑のゴーレムはもうどこにもいませんでした。風の犬や勇者の少年少女も見当たりません。

 人々は夢から覚めたように近くの人と顔を見合わせ、やがて驚愕の表情へと変わっていきました。勇者の少年が伝えていったことの重大性に、ようやく気がついたのです。

「国王陛下が、敵に誘拐された!?」

 その知らせは人々を打ちのめし、都を大混乱に陥れてしまいました。

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