その夜遅く、オリバンとセシルはロムド城のフルートたちの部屋を訪ねました。
二人はセイロスの攻撃に備えて翌朝西へ出動することになっていて、夜更けの今も準備の真っ最中でした。オリバンはいぶし銀の鎧、セシルは白の鎧を身につけ、その上から揃いの濃緑のマントをはおって、腰には剣も下げています。
「こんな時間に呼び出しとは何事だ」
とオリバンはいささか不機嫌でした。時間が遅いのを怒っているのではなく、出動の準備を邪魔されたのが面白くなかったのです。
セシルがなだめるように言いました。
「彼らがなんの用もなく呼ぶわけがないんだ。きっと緊急の要件に違いない」
「だが、どんな急用だというのだ? エスタ王が捉えられている場所やセイロスの攻めてくるルートがわかった、とユギルが呼ぶならわかる。だが、フルートたちにはそんな用事はないはずだぞ」
「そ、それはそうかもしれないが……」
セシルにも理由はわからなかったので、説得には力がありません。
ところが、彼らが部屋に入ると、中には誰もいませんでした。テーブルや椅子、二つのベッドが並んでいるだけで、ベッドの中ももぬけの殻です。
オリバンはますます機嫌を悪くしました。
「わざわざ呼び出しておいて、いったいどこに行ったのだ!? 無礼だぞ、フルート!」
セシルも不思議に思いながら部屋を見回し、テーブルの上に折りたたんだ一枚の羊皮紙を見つけました。羊皮紙は封蝋で封がされて、表に「オリバンへ」と宛名書きがされています。
「私に手紙だと?」
オリバンは羊皮紙を受け取ると、いぶかしそうに封を開きました。とたんにその眉がつり上がって険しい顔つきになります。
セシルが驚いていると、彼はいきなり手紙を握りつぶして床にたたきつけました。わけがわからなくてあわてるセシルに、ぶっきらぼうに言います。
「読んでみろ――!」
そこで彼女は手紙を拾い上げました。どんな大変なことがしたためられていたのだろうと思ったのですが、予想に反して、そこに書いてあったのはたった三行の文章でした。
『オリバンを同盟軍の総指揮官に任命する。
セシルは副官としてオリバンを補佐するように。
同盟軍総司令官 フルート』
セシルは思わず頭を抱えてしまいました。フルートはまたオリバンに総司令官の役目を押しつけて、どこかへ行ってしまったのです。
オリバンは激怒してわめきました。
「許さんぞ、フルート! 何度私に総指揮官をやらせれば気がすむのだ! 総司令官として無責任きわまりないぞ! 今度という今度はもう許さん! 城に戻ってきたら、逃げ出せないように鎖をつけて塔に幽閉してやる!」
騒ぎを聞きつけて通路からは見張りの兵士が、守りの塔からは青の魔法使いが駆けつけました。
けれども、勇者の一行がいなくなったことに誰も気づいていなかったので、その行方を知るものはありませんでした――。