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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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5.矢

 フルートたちは思わず呆気にとられました。

「本当なの、ポポロ!? 何かの見間違いじゃないの!?」

 とルルに聞き返されて、ポポロは泣きそうな顔で首を横に振りました。魔法使いの目はその気になればどこまででも見通すことができます。その目で繰り返し何度も確かめたのですが、矢の先端に鎖で縛られているのは、やっぱりノームのピランだったのです。

 フルートが言いました。

「このままじゃピランさんは矢と一緒に障壁に激突する! 助けないと!」

「青さん、障壁を消しとくれよ!」

 とメールも訴えますが、青の魔法使いは信じられない顔でした。

「本当にピラン殿がいるというのですか? 私にはよく見えませんが。それに、障壁を消すわけにはいかんのです。あんな大きなものがディーラを直撃したら、とんでもない被害が出てしまいます」

「ポポロ、魔法は!?」

 とフルートに尋ねられて、彼女はますます泣きそうな顔になりました。

「今日の魔法はあとひとつしか残ってないのよ。さっき、ひとつ使ってしまったから……」

「ひとつはあるんだな!? よし、行くぞ! ピランさんを助けるんだ!」

 フルートがポポロを連れてポチと飛び出していったので、ゼンとメールはあわてました。

「待てよ、俺たちも行くぞ!」

「青さん、あたいたちが通るときだけ障壁を消しとくれね!」

「行くわよ、つかまって!」

 と風の犬になったルルがゼンとメールを乗せて窓から飛び出します。

 その頭上で青い光の天井の一部が薄くなって、ぽっかりと穴が空きました。青の魔法使いが障壁に通り道を開けてくれたのです。一行がそこから外へ飛び出すと、後ろで穴がまた閉じます──。

 

 フルートはポポロに尋ねました。

「矢はどっちから来る!? あとどのくらいの距離だ!?」

「あっちよ! もうすぐここまで飛んでくるわ!」

 とポポロが空の一点を指さしたので、一行はそちらへ飛びました。まもなくゼンが声をあげます。

「見えたぞ! まっすぐ向かってきやがる!」

「全速力! 矢に並ぶんだ!」

 とフルートが言ったので、犬たちは速度をあげました。どん、どん、と塊になって押し寄せる風に逆らって突き進みます。

 すると、フルートたちの目にも行く手から迫る黒い物体が見えてきました。

「一度後ろに回ってから並ぶわよ!」

「ワン、わかった!」

 犬たちは黒い物体の上を飛び過ぎ、方向転換をして、後ろから追いかけ始めました。じきに物体に追いつきます。

 とたんにメールとゼンが声を上げました。

「本当に矢だよ!」

「でけぇ!」

 ポポロたちを疑っていたわけではないのですが、それにしても桁違いな大きさだったのです。

 矢は風の犬になったポチやルルの体の部分とほぼ同じ大きさがありました。長さにしておよそ十メートルほどで、先端から尾羽まで銀色に光っています。全体が金属で作られていたのです。尾羽が空気を鋭く切り裂くヒュウヒュウという音が空に響いています。

「ピランさんはどこだ!?」

 とフルートに聞かれて、ポポロは指さしました。

「あそこよ!」

 とがった矢尻の根元の部分ですが、そこに人影のようなものは見当たりません。

 けれども、ゼンが目をこらして言いました。

「いるぞ、鎖が見えらぁ!」

 そこで犬たちは矢と並びながら、先端へ向かいました。じきに彼らの目にも矢に巻きつけられた鎖が見えてきます。

「ワン、矢の下側に何かある!」

「本当!」

 と犬たちはさらに速度を上げ、矢の下に回り込みました。ついに矢尻の根元に並びます。

 

 とたんにポポロを除く全員が息を呑みました。

 それは本当にピランでした。身長わずか五十センチあまりのノームの老人が、太い鎖で矢に縛りつけられていたのです。その全身は真っ白な霜でおおわれていました。顔にも霜がついていて、まるで凍ってしまったようです。

「空の上を飛んできたからよ! 早く助けないと凍死するわ!」

 とルルが言うと、ポポロも言いました。

「急いで! 障壁が近づいてるわよ!」

 矢はもうディーラのすぐ近くまでやってきていたのです。光の丸天井が行く手に迫っていました。このままではピランを救出する前に障壁に激突してしまいます。

「こんちくしょう!」

 ゼンは手を伸ばして鎖をつかむと、思いきり引きちぎろうとしました。が、凍りついているせいか、鎖はびくともしませんでした。何度やってもだめです。

「ワン、早く! もうディーラですよ!」

 とポチも言いました。

 四色の光の障壁は目前でした。障壁を透かして、その向こうに広がる町並みやロムド城が見えます。猛スピードで飛ぶ巨大な矢がその中に落ちれば、衝撃で大変な被害が発生するのですから、四大魔法使いが障壁を解くはずはありません。自分たちまでが障壁に激突しそうな気がして、メールは思わず目をつぶりました。

 すると、フルートが言いました。

「ポポロ、矢を停めろ!」

「レマート!」

 ポポロが呪文を唱えたとたん、矢はぴたりと停まりました。ディーラに向かって飛ぶ格好のまま、空中で停止してしまったのです。縛られたピランも一緒に停まっていましたが、鎖をつかんでいたゼンは巻き込まれていませんでした。

 一同がほっとしていると、フルートは言いました。

「ポポロの魔法はすぐ切れる! 早くピランさんを助けるんだ!」

「わかってらぁ! だが、この鎖が全然切れねぇんだよ!」

 とゼンが答えたので、ルルが言いました。

「私がやってみるわ。つかまってて」

 そのまま空中でひゅぅっと一回転して、長い尾で鎖をたたきます。

 すると、本当に鎖が切れました。停止の魔法はまだ効いていたので、ゼンは急いで鎖を引きはがすと、矢にへばりついていたピランを抱き取りました。霜だらけの体は氷のように冷えきっています。

 フルートがまた言いました。

「矢から離れろ! 動き出すぞ!」

 そのことばの通り、矢が本当にまた動き出しました。同時にピランまでが宙に飛び出していきそうにになったので、ゼンがあわてて抱きとめます。

 犬たちが上昇して離れる下で、矢はディーラめがけて飛んでいき、障壁に触れて二つに折れました。次の瞬間には燃え上がるように強く光って消え、大きな煙の塊が広がります。

「矢が蒸発したわよ!」

「ワン、危機一髪だったな」

 と犬たちが驚いていると、フルートが言いました。

「ピランさんを早くこっちに! 手当てをしないと!」

 その手には金の石のペンダントが握られていました――。

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