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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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第2章 ノーム

4.厳戒態勢

 角笛が鳴り響く中庭で、フルートとポポロはうろたえていました。いくらセイロスの攻撃が素早いといっても、こんなに前触れもなく襲撃されるとは想像もしていなかったのです。

 庭の一角に先端をのぞかせている守りの塔は、もやのような青い光に包まれていました。光がみるみる明るさを増して、塔全体が輝き出します。

 と、急にその光が暗くなって塔に吸い込まれていきました。見守っていると、今度は屋根から真上へほとばしります。

 空へ伸びる青い光の柱を見ながら、ポポロが言いました。

「やっぱりあれは護具の光よ! 青さんがディーラを守ろうとしてるんだわ……!」

 フルートは周囲を見回し、中庭の別な角の向こうに、同じような白い光の柱が立ち上っているのを見ました。さらに、別の方向には赤や深緑の光の柱も見えています。ロムド城の四大魔法使いが同時に護具を使っているのです。

 護具の光は空高く伸びながら次第に近づいていって、城の上空で出会いました。結び合うように留まると、そこから四方八方へ光の膜を広げていきます。都を守る光の障壁を作り始めたのです。

 フルートは空へ目をこらしました。襲来するセイロスや飛竜部隊を見つけようとしますが、四色の光の向こうには青空が広がっているだけで、敵の姿はどこにも見当たりません。

 遠いまなざしで周囲を見回していたポポロも、あせったように言いました。

「敵が見つからないわ」

「見つからない?」

「ええ。どこにも飛竜が見当たらないの」

「セイロスが闇魔法で隠しているのか――」

 フルートは唇をかみました。襲撃は春になってからかもしれない、などと呑気に構えていた自分が悔しくて、ことばが出なくなります。

 

 すると、ポポロが急に話し出しました。

「ええ、そうよ――あたしたちは薔薇の中庭にいるわ! みんなこっちに来て!」

 別の場所にいた仲間たちがポポロに呼びかけてきたのです。

 じきに風の犬になったポチとルルが中庭を囲む石壁を飛び越えてやってきました。ポチの背中にはメールが乗っています。

 一方、中庭に面した建物からはゼンが飛び出して来ました。台所でもらってきた大きなパンや骨付きの燻製肉を抱えていたので、犬に戻ったルルが怒り出します。

「なによ、ゼン! そんなもの持ってきて!」

「馬鹿野郎、んなこと気にしてる場合か! 何があったんだよ!?」

「敵の襲撃だ! 四大魔法使いが護具を使い始めている!」

 とフルートは言いました。青、白、赤、深緑、四つの色の光の膜は城の上に丸屋根のように広がっていました。敵の侵入を防ぐ魔法の防壁です。

 すると、ポポロが周囲を見回してまた顔色を変えました。

「障壁が頭上にしかないわ……! 横はがら空きよ!」

 仲間たちは驚きました。

「それってちゃんと城や都が包めてないってことかい!?」

「ワン、襲撃があんまり急だから障壁が間に合わないんだ!」

「青さんのところへ行こう!」

 とフルートは一番近い塔に向かって駆け出しました。ゼン、メール、ポポロが続きます。ゼンは走りながらパンや燻製肉をたいらげていきます。

「ワン、待って!」

「私たちに乗ったほうが早いわよ!」

 犬たちがまた変身して背中に彼らをすくい上げました――。

 

 ロムド城の守りの塔は四つあって、城の東西南北に建っていました。それぞれが堅固な石造りで、四大魔法使いがひとつずつ受け持っています。

 フルートたちが向かったのは、武僧の青の魔法使いが守る東の塔でした。階段を通らずに窓から最上階に飛び込み、青い長衣の大男へ駆け寄ろうとします。

 とたんに青の魔法使いがどなりました。

「近寄ってはいけません! 巻き込まれますぞ!」

 彼はこぶだらけのクルミの杖を床に突き立てていましたが、杖全体が青く輝き、青い光が床を通って部屋の中央へ流れていたのです。光の流れの先では、台座に据えられた細い棒が青く輝いて、先端の玉から光の柱を激しく噴き上げていました。その細い棒が護具でした。魔法使いの魔力を増幅して城や都の守りに変えているので、うっかりその間に割り込んだら、無事ではすまなかったのです。

 一行は窓際にかたまって立ちました。犬たちはまた元の姿に戻ります。

 フルートは尋ねました。

「これは何事ですか!? セイロスはどこから来るんです!?」

 ところが青の魔法使いは首を振りました。

「セイロスの襲撃ではありません――。いや、奴のしわざかもしれんのですが、飛竜が来襲したわけではないのです。巨大な矢が一本、こちらへ飛んでくるのです」

 矢? と一行は驚きました。

「たかが一本の矢にこんな厳戒態勢を敷いてんの? 大袈裟なんじゃないのかい?」

 とメールが言ったので、自分の弓矢を命の次に大事にしているゼンが、じろりとにらみました。

「矢を馬鹿にするなよ。細い先端に力が集中するから、意外なくらい破壊力があるんだからな。うまく飛ばせば敵の防御もすり抜けられるしよ」

「ワン、でも角笛が警報を鳴らしてから、けっこう時間がたってますよ。それなのにまだ矢が届いてないんですか?」

「それって本当に矢なの?」

 と犬たちが尋ねます。

 武僧の魔法使いは護具に魔力を流し続けながら言いました。

「本当に矢です。おそらく城攻めに使う矢なのですが、とんでもなく遠くからやってくるのです。ユギル殿が飛来に気づきました」

「遠くってどのくらいです?」

 とフルートも尋ねました。きっとセイロスのしわざだ、と予想はしていましたが、まだ口にはしません。

「出どころはまだわかりません。ただ、矢はエスタ国の上空を飛び越え、我が国の上も飛んで、このロムド城までやってくるのです。とんでもない飛距離です」

 武僧の答えに、全員はまたびっくり仰天しました。

「じゃあ、矢はエスタ国の向こうから撃ち出されたっていうのかい!?」

「馬鹿野郎! いくらなんでも、そんなに飛ぶ矢があるかよ!」

「だって、本当に矢が飛んでくるんでしょう!?」

「ワン、きっとイシアード国から飛んできたんですよ! セイロスのしわざだ!」

 口々に言い合う仲間たちの横で、フルートはポポロに尋ねました。

「どう? 見つかった?」

 ポポロは先ほどから魔法使いの目で矢を探していたのです。

「もっと東寄りです、ポポロ様。あっちをご覧下さい」

 と武僧がひげだらけの顎で、ぐいと示しました。

「え、でも、イシアードの方角は……」

 とポポロはとまどいましたが、すぐに教えられた方角へ目を移しました。遠いまなざしで矢を見つけようとします。

 とたんに、彼女は息を呑みました。

「見つかった!?」

 と全員が尋ねます。

 ポポロはうなずきました。

「本当に大きな矢よ……小船の帆柱くらいありそう。まっすぐこっちへ飛んでくるわ……」

「ワン、障壁で防げますか?」

 とポチは青の魔法使いに尋ねました。障壁だけで足りなければ自分も出動しようと、身を低くして、すぐにも変身できる態勢をとります。

「大丈夫なはずです。矢に闇魔法がかかっていれば話は別ですが」

 と青の魔法使いが答えると、ポポロは言いました。

「闇の気配は感じないわ。大きいけど普通の矢みたい」

「普通の矢がそんなに飛ぶかよ!?」

 とゼンがまたどなります。

 フルートはポポロに言いました。

「もう一度よく見てくれ。本当に普通の矢だね? 青さんたちの障壁で防げそうなんだな?」

「う、うん……」

 ポポロはもう一度矢が飛んでくる方角を見つめました。

 青の魔法使いは仲間の魔法使いから連絡があったようで、空中に向かって大声で話し始めます。

「それで!? ユギル殿は矢があとどのくらいで到達しそうだと――」

 

 そのとき、ポポロは、えっと大きく目を見張りました。

「どうした!?」

 仲間たちが思わず身を乗り出すと、彼女はひどくとまどった顔になって振り向きました。

「矢に……矢の先に妙なものが見えるのよ……」

「ワン、妙なものって?」

「火矢の材料じゃない?」

「ああもう、じれったいなぁ! さっさと教えなよ!」

 仲間たちにせっつかれて、ポポロは両手を頬に当てました。自分で自分の目が信じられずにいるのです。

「そんなはずないと思うんだけど……でも……矢の先に鎖で縛られているのって、ピランさんに見えるのよ」

 とポポロはエスタ国の鍛冶屋の長の名前を言いました――。

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