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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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第1章 話し合い

1.話し合い

 「失礼します。ぼくたちです」

 とフルートはロムド城の一室の扉をたたきました。フルートは普段着姿、後ろには白い上着に赤いスカートをはいたポポロがいます。

 すると、二人の前でさっと扉が開いて、落ち着いた色合いの部屋が現れました。中で数人の男女が待っています。若い男性が二人、若い女性が二人、緑の髪を後ろで束ねた細身の少女、という顔ぶれです。ぱちぱち音をたてて燃える暖炉の前には、茶色い毛並みの犬と白い小犬もいます。

 部屋の中に入りながら、フルートは扉に向かって言いました。

「ありがとう、ゼン」

「遅ぇぞ。みんな待ちくたびれたじゃねえか」

 扉の後ろから毛皮の上着をはおった少年が現れて言い返しました。フルートより頭ひとつ分も背が低いのですが、がっしりした体と、ふてぶてしいくらいたくましい顔つきをしています。

「ごめん。呼ばれてるなんて知らなかったから、ベランダにいたんだよ」

 すると、大柄な青年が椅子の中から話しかけてきました。

「ポポロがずっとおまえに呼びかけていたのに気がつかなかったのか? しかたがないので直接呼びに行ってもらったのだぞ。だがまあ、とにかく座れ。これで全員が揃った」

 彼はこの部屋の主でした。

「すみません、オリバン」

 とフルートはまた謝りながら、ポポロと一緒に長椅子に腰を下ろしました――。

 

 ここに集まっているのが、世界に名をはせる金の石の勇者の一行と仲間たちでした。と言っても意外なくらい若い面々です。特に勇者の一行はそうでした。全員がまだ少年少女の年代です。

 守りと癒やしの魔石を持つフルートは金の石の勇者と呼ばれていますが、金髪に青い瞳の優しい顔立ちをした、それは心優しい少年でした。小さい頃はしょっちゅう女の子に間違えられましたが、十六歳になった今はさすがに背が伸び体もたくましくなってきたので、もう少女と間違えられることはありません。

 ドワーフと人間の血を引くゼンは同じく十六歳、フルートの無二の親友です。焦げ茶色の髪に明るい茶色の瞳の外見は、どちらかといえば人間に近いのですが、自分はドワーフだという信念を持っていて、北の峰のドワーフ猟師であることを誇りにしています。生きることや食べることに抜群の力を発揮する頼もしい少年です。

 緑の髪のメールは、西の大海を治める渦王(うずおう)の娘で、やはり十六歳でした。王女だというのにおてんばで、気が強くて負けず嫌い、それでいて少女らしい優しさや繊細さも持ち合わせています。

 フルートと一緒に部屋に入ったポポロは、天空の民と呼ばれる魔法使いです。年齢はフルートたちよりひとつ下ですが、あと数日で誕生日を迎えて、束の間の同い年になります。赤いお下げ髪に緑の瞳の、ものすごい泣き虫の少女です。

 一方、暖炉の前にいる犬たちも、れっきとした勇者の一員でした。

 茶色い長い毛並みのルルは、ポポロと姉妹のように育ってきたもの言う犬で、魔法の首輪の力で風の犬に変身することができます。一行の中では一番年上の十七歳なので、ちょっと口うるさいお姉さんのような存在です。

 白い小犬のポチもルルと同じように人のことばを話し、魔法の首輪で風の犬に変身することができます。もの言う犬は人と同じような成長をするので、十三歳になってもまだ子どもなのですが、世界中の様々な知識を小さな頭に詰め込んだ、とても賢い犬です。

 フルート、ゼン、メール、ポポロ、ルルとポチ。この四人と二匹が金の石の勇者の一行と呼ばれていました。二千年の時を経てよみがえった闇の竜と幾度も死闘を繰りひろげてきた、守りの勇者たちです。

 そして――つい先日、フルートたちは闇大陸のパルバンでポポロとルルの出生の秘密を知ってしまいました。特にポポロに関しては闇の竜に関わる重大な真実があったのですが、少年たちが口を閉ざしていたので、彼女たちは何も知らずにいました。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない、あのセイロスのことだ」

 とオリバンが口火を切りました。暗灰色の髪に灰色の瞳、威風堂々としたロムド国の皇太子です。

「奴はこのディーラを壊滅させようと飛竜部隊を引き連れて襲撃してきたが、魔法軍団の活躍で兵をすべて失い、遁走(とんそう)していった。だが、その際に飛竜を連れ去ったのだ。奴が飛竜部隊を再編して襲撃してくるのは間違いない。このまま何もせずに手をこまねいているわけにはいかん」

 セイロスというのは人の姿になった闇の竜のことでした。元々は二千年前にロムド国の場所にあった要(かなめ)の国の皇太子で、初代の金の石の勇者だったのですが、闇の竜の誘惑に負けて彼自身が闇の竜になってしまったのです。

 すると、隣にいたセシルも言いました。

「間もなく国王陛下が作戦会議を開かれるが、その前に我々だけで話し合っておいたほうがいい、とオリバンは考えたんだ。私もそのほうがいいだろうと思っている。飛竜部隊の力は侮れない。対策は一刻も早く考えた方がいい」

 男装をして男ことばを話す彼女はメイ国の王女で、故国では女騎士団を指揮してきた軍人でした。長身に長い金髪の絶世の美女で、今はオリバンの婚約者です。

「セイロスがイシアード城に戻ったのは間違いないんだから、飛竜で襲撃される前にこちらから乗り込むのがいいんじゃないのか?」

とキースが言いました。甘い顔立ちに柔らかな物腰の青年です。

「そうね。セイロスは二千年前の人物だし、闇の竜とひとつになっているから、占いでも光の魔法でもその姿を捉えることはできないわ。私の鏡だけがセイロスを捉えられるけれど、あまり近づきすぎるとこちらが捕まってしまうし。飛竜で出撃してくる前に先手を打つほうがいいと、私も思うわ」

 とアリアンも言いました。こちらは長い黒髪に憂いを秘めた瞳の美女です。

 キースもアリアンもとても優しげで美しい二人なのですが、彼らの正体は闇の民でした。特にキースは闇の国を司る闇王の第十九番目の王子です。二人は悪意と残酷に充ちた闇の国を嫌って地上へ逃れ、ロムド城に身を寄せて共に戦っているのです。

 オリバンが重々しく言いました。

「イシアードについては、エスタ国王がすでに軍隊を差し向けた。イシアードは長らくエスタに追従してきた国だが、エスタの同盟国である我が国を襲撃した以上、エスタにも反旗をひるがえしたことになるからな。間もなくエスタとの間で戦いが起きるだろう。だが、その前にセイロスが飛竜部隊と出撃してしまう可能性は高い」

 

 すると、部屋の窓枠に座って足をぶらぶらさせていたメールが口を尖らせました。

「裏竜仙境の住人がイシアード王の城に集められてたからだろ? あの連中も竜仙境の住人と同じで、飛竜の扱いは得意だもんねぇ」

「だな。あいつらは飛竜を自分の手足みたいに飛ばすことができるぞ。手綱や鞍(くら)さえ使わねえんだからよ」

 とゼンも言います。

 裏竜仙境とはユラサイ国にあった隠れ里でした。長年飛竜を育成してきた竜仙境から分かれた里ですが、掟を破って飛竜を外国に売り渡したために、ユラサイの皇帝に里を解体されたのです。

「イシアードの王様はユラサイ人を毛虫みたいに嫌っていたんでしょう? それなのに、ユラサイ人のはずの裏竜仙境の住人を城に集めたりしたんですもの、目的は見え見えよねぇ」

 とルルは溜息をつきました。

 セイロスはイシアード王と手を組んで飛竜の卵をかえし、飛竜部隊を作り上げて、このディーラを襲撃しました。ところが、イシアードの兵士たちが飛竜を扱いきれなかったこともあって、あと一歩のところで戦いに敗れ、生き残った飛竜を連れて姿をくらましたのです。セイロスが裏竜仙境の住人を新たな乗り手に飛竜部隊を再編しようとしていることは、火を見るより明らかでした。

「セイロスが連れ去った飛竜は何頭くらいいたんだろう?」

 とフルートが言ったので、オリバンが答えました。

「およそ百頭だな。我が国に侵入してきたときには二百頭ほどの部隊だったが、その半分は生き残ってしまったのだ」

「飛竜が百頭もいれば、国を潰すのは簡単だ。どの国も空からの攻撃にはとても弱いんだからな」

 とセシルも厳しい顔で言います。

「ワン、だからこそ、少しでも早く対策を考えるのが大事になるんですね」

 とポチも深刻な声になります。

「よし。それじゃ、話し合いがしやすいように地図を出そうか」

 とキースが指を振ると、部屋の壁に掛けられたタペストリーが白く光り、織り込まれた模様が消えて、茶色や緑や灰色で彩られた地図が浮き上がってきました。魔法のしわざです。一同は地図の前に集まりました──。

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