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第25巻「囚われた宝の戦い」

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84.秘密

 やがて海がすっかり落ち着くと、彼らは一カ所に集まりました。ペルラに言われて全員がシィの頭の上に乗ります。

「それで?」

 とペルラは少年たちに尋ねました。

「さっき変な怪物が言っていたわよね? 闇大陸で竜の宝の正体を確かめたって。本当なの?」

 ペルラが言う変な怪物とはランジュールのことです。ゼンとレオン、ポチとビーラーはうろたえて顔を見合わせました。とっさには返事ができません。

 その様子に少女たちはいぶかしい顔になりました。

「どうしたのさ? あたいたちには言えないっていうのかい?」

「あら、何故よ!? 竜の宝の正体がわかったんでしょう!? 私たちも知りたいわよ!」

 とメールやルルが詰め寄ったので、ますます困ってフルートを見ます。

 フルートはまだポポロの肩を抱いていましたが、彼らの視線を受けて静かに言いました。

「確かに竜の宝の正体はわかった。だけど、それを君たちに教えるわけにはいかないんだ」

 少女たちは驚き、たちまち怒り出しました。

「どうして!? どうしてあたしたちには言えないのよ!?」

「わかったんだろ!? あれだけさんざん探し回った竜の宝の正体がさ!? だったら、あたいたちだって知りたいに決まってるだろ!」

「そうよ、教えてよ! 竜の宝ってのはなんだったの!? 話してよ!」

 ポポロだけは怒ってはいませんでしたが、代わりに大きな目に涙をいっぱいに溜めてフルートを見上げていました。お願い、教えて、と無言で訴えてきます。

 フルートは頭を振り返しました。

「だめなんだ。何故って――」

 

 そのとき、海の上に雷のような声が響き渡りました。

「なんの騒ぎかと思えば、またおまえたちか!! 今度はここで何をしている!?」

「父上!」

 メールが声をあげると、彼らの前の海にひとりの男性が姿を現しました。青い髪に青いひげ、金の冠と緑がかった青いマントを身につけた渦王です。

 渦王は地面に立つように海の上に立っていました。腕組みをしてシードッグの上の一行を眺めます。

「ここで非常に強力な魔法を使ったな。何をしようとしていた。よもや、また闇大陸に渡ろうとしていたのではないだろうな」

 厳しい声にメールやペルラは思わず首をすくめましたが、それでも訴えるように口々に言いました。

「フルートたちはもう闇大陸に行ってきたんだよ、父上。そこから戻れなくなってたから、ポポロとペルラが協力して連れ戻したんだ」

「レオンの魔法と力を合わせて、ここに新しい出口を開いたんです。だから、魔法の反動が海に広がったんだけど……でも、叔父上、彼らはデビルドラゴンの宝も確かめてきたって言うんですよ。それなのに、それがどんなものだったのか、あたしたちに教えてくれないんです」

「なに?」

 渦王は顔つきを変えると、すぅと海面から空中に浮き上がりました。シードッグに乗った彼らと同じ高さまで来ると、フルートに向かって尋ねます。

「闇大陸に隠されている竜の宝を見てきたというのか。それはどんなものだったのだ。何故それを話そうとせん」

 厳しい声は、今すぐ話せ、と言外に命令していましたが、フルートは静かにまた首を振りました。

「話せないんです。もしも話してしまったら、ぼくたちは消えてしまいますから」

 少女たちはたちまち顔色を変え、渦王も驚いた顔になりました。

「何故だ? まさか、おまえたちも闇の竜の呪いにかかってしまったというのか?」

「そうです」

 とフルートは答え、落ち着き払った声で話し続けました。

「ぼくたちはレオンの魔法で過去の闇大陸へ行きました。闇大陸とこちらとでは時間の流れる速さが違うし、今のぼくたちは長期間ここを留守にすることができなかったからです。そうして、竜の宝を消滅させるためにパルバンへ行ったんですが、パルバンは強烈な魔法が渦巻いている場所だから時間も歪んでいて、ぼくたちは二千年前のパルバンの戦闘を見てしまったんです。竜の宝の正体もわかったけれど、それを話そうとすると、デビルドラゴンの呪いが発動して、ぼくたちは消えてしまいます。だから、どうしても話すことができないんです」

 少女たちはびっくり仰天しました。

「ロズキさんは二千年前の戦いを話そうとすると消えかけたわ! あんなふうにフルートたちも消えてしまうっていうの!?」

 とポポロが真っ青になったので、フルートは安心させるように彼女の肩を抱き直しました。

「話そうとしなければ消えないよ。それに、竜の宝の正体を教えられないのは申し訳ないけど、竜の宝はもう消滅していたんだ。ほら、前に闇大陸に行ったときに、パルバンの番人の岩の顔が教えてくれただろう? パルバンから竜の宝がなくなった、だから自分たちももう番人じゃなくなったんだ、って。あれは本当だったんだよ。誰かが盗んだりしたんじゃなくて、寿命が尽きて消滅していたんだ。だから、闇大陸にはもう竜の宝はない。もう心配する必要はないんだよ」

 フルートの話に、ゼンとレオンとポチとビーラーはまた顔を見合わせていました。非常によくできた話ですが、大半は嘘なのです。こっそり少女たちや渦王の反応を伺ってしまいます。

 渦王は腕組みしたまま、難しい顔で考え込んでいました。

「闇の竜の呪いは強力だ。無理に話をさせようとすれば、たちまちその存在をこの世から消し去ってしまう。それではおまえたちに話をさせるわけにはいかないな」

「ポチ! フルートもゼンも! 本当に大丈夫なのね!? 話そうとさえしなければ消えちゃったりしないのね!?」

 とルルが心配すると、ペルラも言いました。

「いいわ、あたしたちはもう聞かないから。だからあなたたちも何も話さないで。竜の宝が消滅してたっていうなら、それだけでもう充分よ」

 渦王や少女たちの優しいことばに、少年たちはまたうろたえました。ひどく後ろめたい気持ちになりますが、だからといって、本当のことを話すわけにはいきません。

 フルートだけはひとり落ち着いていて、泣き出したポポロの肩をたたいて慰めていました。

 

 やれやれ、とメールは溜息をつきました。

「そういうことなら、ホント、しょうがないよね。竜の宝の正体は知りたかったけど、あたいたちは我慢するしかないかぁ――。じゃあさ、いい加減、ロムドに戻ろうよ。あんたたちが急にいなくなったんで、ロムド城では大騒ぎになってるんだよ。どうやらセイロスがまた動き出してるみたいで、みんな集まって頭を悩ませていたんだ。早く戻んないと、どんどん状況が不利になると思うよ」

 それを聞いて、フルートもあわてだしました。

「そういえば、今はいつだ!? ぼくたちはどのくらい闇大陸に行っていたんだ!?」

「まだ一日よ。天空の国に行く途中で私が元気になったから、そのまま引き返して、フルートたちがいなくなってるのに気がついたの」

 とルルが答えたので、ポチは改めて体をすり寄せました。

「そういえば本当だ。ルルはすっかり元気になったんだね。良かった」

「ったく。あっちが終わったら次はこっちか。今度こそセイロスの奴を徹底的にぶっとばさねえとな。二度と世界征服なんか考えねえようによ――」

 とゼンは言って、ちらりとポポロを見ました。また新たな戦闘が始まりそうだというので、彼女は一生懸命涙をぬぐっていました。彼女は何も知りません。少年たちが真実を口にしない限り、ずっと真実を知ることはないのです。

「君たちはロムドに戻るんだな。じゃあ、ぼくたちは天空の国に戻るよ。いろいろ天空王様に叱られそうだけれどな」

 とレオンは言って、風の犬になったビーラーに乗りました。じゃあ、と手を振って空に舞い上がりますが、すぐに引き返してきてペルラの前にやってきます。

「忘れるところだった。これを君に返さないと」

 レオンがポケットからあのピアスを差し出したので、あら、とペルラは顔を赤らめました。ピアスを押し返しながら言います。

「いらないわよ。あなたが持ってて。あなたって、しっかりしてるようで本当にドジなんだもの。これからもお守りに持っていなさいよ」

「ぼくはドジなんかじゃない! 闇大陸がとんでもないところだっただけだ! ――でも、ありがとう」

 レオンは急に素直に感謝すると、ペルラの目の前で大切そうにピアスをポケットに戻しました。ペルラはまた真っ赤になり、レオンも照れたように眼鏡を押し上げます。

 

 天空の国へ帰っていくレオンを、フルートとゼンとポチは空の途中まで送りました。

 渦王や少女たちの姿が広い海原にぽつんと遠ざかった頃、おもむろにフルートが言います。

「さっきぼくが話したとおりだ。ポポロやルルのことは、ぼくたちの胸の中だけに収めておく秘密だ。絶対に洩らしちゃいけないし、誰かに問いただされたら、デビルドラゴンの呪いのせいで話せない、と言ってくれ。そう言われて聞き出そうとする人はいないはずだからな」

「あの話を聞いたときには、マジで消えるのかと思ったんだが、どうやら俺たちは大丈夫みたいだな。そういやランジュールも平気でポポロのことをしゃべってたしよ。なんでだ?」

 とゼンが不思議がると、フルートは言いました。

「よくはわからないけれど、ぼくたちが別空間から二千年前の出来事を見ていたからかもしれないな。デビルドラゴンの呪いも別空間まで届かなかったんだろう」

「それこそ、理のしわざか」

 とレオンが溜息をつきます。

 すると、ビーラーが口を開きました。

「本当に彼女たちに教えなくていいのか? 彼女たちにだって真実を知る権利はあると思うんだが……」

 けれどもフルートはきっぱりと頭を振り返しました。

「ポポロはポポロだし、ルルはルルだ。そして、彼女たちはぼくたちの大事な仲間だ。それ以外の真実なんてない」

「ワン、そのとおりです。ポポロもルルも、最初からポポロとルルなんだから」

 とポチも言い切ったので、レオンはちょっと苦笑しました。

「君たちには本当にかなわないな。君たちがいれば彼女たちもきっと大丈夫だろうな」

「あったりまえだ! 俺たちは金の石の勇者の一行だぞ!」

 とゼンが胸を張って威張ります。

 

 じゃあな、また会おう、と言い合って少年たちは別れました。レオンとビーラーは空へ、フルートたちは少女たちが待つ海へ向かいます。

 遠ざかるフルートを見ながら、レオンがぽつりとつぶやきました。

「本当に、かなわないよな……」

「え? 何か言ったか?」

 とビーラーが聞き返しました。風を切って飛ぶ音がうるさくて、よく聞き取れなかったのです。

「なんでもない。何も言っていないよ」

 とレオンは答えると、ビーラーの背中で目を天に向け直しました――。

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