「乱暴反対ぃ! 意地悪も反対ぃ! ボクもそっちに行くったらぁ!」
飛竜の鼻先でランジュールがわめきました。長い飛竜の首をくねらせて、フルートの攻撃をかわします。
ポチは身をひるがえすと、飛竜へ突進しました。フルートがまた炎の剣で切りつけますが、ランジュールにかわされてしまいます。
闇大陸への出口は、飛竜の体が挟まっているので、完全には閉じていませんでした。飛竜が身をよじると首が前にせり出してきます。
「この野郎! 出てくるなと言ってるだろうが!」
とゼンは百発百中の矢で射ようとしましたが、ランジュールは首をくねらせて狙いをつけさせませんでした。少年たちの背後を見て声を上げます。
「あぁ、そこにいるのは海のお姫様だぁ! お嬢ちゃんや茶色いワンワンちゃんもいたねぇ! うふふっ、これはステキ。役者さんがみんな揃ったじゃないかぁ。ねぇねぇ、お嬢ちゃんたち、ボクは闇大陸で面白いコトを見てきたんだよぉ。それを教えてあげるねぇ――」
ランジュールがそんな話を始めたので、少年たちは誰もがあわてました。少女たちのほうは、いきなり目の前で戦闘が始まったので、わけがわからなくて呆気にとられています。
「こんちくしょう! 黙って戻れって言ってんだよ!」
とゼンは矢を放ちましたが、充分狙いをつけられなかったので、明後日のほうへ飛んでいってしまいました。
フルートはポチを飛竜へ突進させました。目の前で急降下し、背後に回り込んで切りつけようとしますが、またかわされてしまいます。
うふっ、とランジュールが笑いました。
「ねぇねぇ、お嬢ちゃん、ボクの話が聞こえるよねぇ? あのねぇ、ものすごい秘密がわかったんだよぉ。世界中の誰もがびっくり仰天するよぉな、本物の秘密さぁ。竜の宝ってキミたちは言ってたっけぇ? それの正体についての話だよぉ」
竜の宝の正体と聞いて、少女たちは、はっとしました。
メールが思わず聞き返します。
「なにさ、ランジュール!? 竜の宝の正体がわかったとでもいうのかい!?」
「そぉそぉ、わかったんだよぉ。それがねぇ、聞いてびっくりのものすごい正体でねぇ――」
「馬鹿野郎! 奴にしゃべらせるな!」
とゼンはさえぎりました。フルートは炎の弾を撃ち出しますが、またランジュールにかわされてしまいました。彼はこちらの世界に細長い首だけを出した状態なので、そこに攻撃を命中させるのは難しかったのです。
「ねえ、ランジュールはなんの話をしているのよ? あなたたちは闇大陸で何を見てきたっていうの?」
とルルが尋ねてきたので、ポチは彼女を振り向きました。ルル……と言ったきり、先が続けられなくなります。
すると、レオンが出口に向かって叫びました。
「飛竜を引き戻せ、戦人形! 奴を外に出すな!」
とたんに、飛竜の首が、ずずっと出口に引き込まれていきました。出口の向こうで戦人形が飛竜を引き戻し始めたのです。ランジュールは身をよじり、懸命に前へ進もうとしますが、みるみる出口の中へ呑み込まれていきます。
「やだやだ、やだぁ! 放しなよぉ! ボクはあんな場所にいるのはイヤだってばさぁ! 大事な話だってしたいのにぃ! あぁのねぇ、お嬢ちゃん、聞こえてるぅ!? 荒野の真ん中の塔に二千年間も閉じ込められてた竜の宝ってのはねぇ、実はなんと、キミ――」
とたんにランジュールの顔面に炎の塊が激突しました。フルートが炎の剣を振ったのです。怖いほどの険しさでどなります。
「去れ、ランジュール! 二度とこの世界に戻ってくるな!」
ずずっとまた飛竜の体が出口に引き込まれました。飛竜の頭が呑み込まれるように消え、出口が透き通った球体になります。
「ロエキヨチグーデ!」
レオンが呪文を唱えたとたん、球体が弾けました。とたんに周囲に猛烈な風が巻き起こり、大波が立ち、しぶきが空高く飛び散ります。
「きゃぁ!」
「ワン!」
ルルとポチは雨のようなしぶきを浴びて、犬の姿に戻ってしまいました。背中に乗せたポポロやフルートやゼンと一緒に海に落ちます。
ビーラーはしぶきを避けて空高く舞い上がり、レオンに言いました。
「結局、戦人形をあっちに残したのか」
「しかたないさ。あそこでずっとランジュールの番をしていてもらおう」
とレオンは肩をすくめ、海の上を眺めました。
墜落したフルートたちは海中に沈んでいました。荒れた海の上でペルラがレオンに拳を振り回しています。
「急に何をするのよ、乱暴ね! どういうことか説明しなさいよ! それに――」
怒っていた声が、急に調子を変えました。涙ぐむような声になって続けます。
「それに、そこじゃ話が遠いわ! 近くに来てよ……!」
レオンは思わず真っ赤になりました。ビーラーが気を利かせてさっと下りていくと、ペルラはレオンの両手を握って言います。
「おかえりなさい……! 本当に心配したのよ。無事で良かったわ!」
ペルラは涙ぐみながら笑っていました。その輝く笑顔にレオンはどぎまぎして、う、うん、と間の抜けた返事をするのがやっとでした――。
一方、フルートたちもすぐに海面に浮いてきました。水中でも息ができるのですから、海に落ちてもどうということはありません。ポチとルル、フルートとポポロがそれぞれに泳ぎ寄り、ゼンには花鳥に乗ったメールが舞い降りていきます。
一番先に出会ったのはポチとルルでした。
「本当にあなたたちったら! 戻れなくなったらどうするつもりだったのよ! 私たちに無断で勝手に行くから――!」
いつものようにお小言を始めたルルに、ポチは強く体を寄せました。驚く彼女の顔をなめ、また体をすり寄せて言います。
「ルル、ルル――大好きですよ、ルル!」
「え? な、なによ、いきなり」
唐突なことばに雌犬は目を丸くします。
フルートとポポロも海上で一緒になりました。ポポロは目に大粒の涙を浮かべて、フルートと手を取り合おうとしました。
すると、フルートは先に彼女の手をつかんで引き寄せました。そのまま力一杯抱きしめたので、反動で二人ともまた海中に沈んでしまいます。
「フ、フルート……?」
驚くポポロをフルートは海の中で強く抱き続けました。腕の中に、胸の中に、大切な宝のように――。
「なにさ、ポチもフルートも? いったい何があったっていうわけ?」
と呆気にとられているメールに、ゼンは濡れた頭を振り返しました。
「いろいろあったんだよ……いろいろとな」
今はそれ以上のことは話せません。
闇大陸への出口が消えた海上では、ようやく荒波が消えようとしていました――。