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第25巻「囚われた宝の戦い」

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82.出口

 ランジュールと合体した目のない飛竜へ、フルートは駆け出しました。その手には炎の剣が握られています。

「おっとぉ」

 ランジュールが声をあげると、飛竜は大きく後ろへ飛びのきました。ランジュールが飛竜の目の代わりになっているのです。翼を羽ばたかせてフルートとの間に距離を取ります。

 フルートがそれを追ってさらに走ると、背後から仲間たちの声がしました。

「馬鹿野郎、戻ってこい!」

「レオンがもうすぐ出口を開くんだぞ!」

「ワン、早く戻って!」

 それを聞きつけて、ランジュールが笑いました。

「みんながああ言ってるよ、勇者くん。早く戻ったほぉがいいとボクも思うなぁ。そして、みんな一緒に元の世界に帰ろぉよぉ。ボクをのけ者なんかにしないでさぁ」

 けれどもフルートは険しい顔で走り続けました。

「そうはいかない! おまえは戻れば必ずセイロスの元へ行く! そしてポポロの秘密を伝えるからな! そんなことは絶対にさせるもんか!」

「もぉ。勇者くんったら、お嬢ちゃんのこととなるとホントにむきになるんだからさぁ。でも、それも無理はないかぁ。なにしろ、お嬢ちゃんは実はセイロスくんの婚約者の生まれ変わりだったんだもんねぇ。あ、いや、婚約者じゃなくてもう奥さんだったのかなぁ。うん、きっとそぉだよね。しかも、セイロスくんの大事な力の一部まで持ってるんだから、セイロスくんがそれを知ったら、ぜぇったいにお嬢ちゃんを奪い返しに来るよね。勇者くんとしては、それは断固として阻止したいよねぇ――。でもさぁ、こんなふうにボクを追いかけてたら、キミまでここに取り残されちゃうよぉ? キミも戻れなくなるんだけど、それでいいわけぇ?」

 ランジュールはそんな言い方で、早くあっちへ戻れ、と言っていましたが、フルートは従いませんでした。そのときにはもう飛竜の目の前まで来ていたので、鋭く剣を振り下ろします。

 とたんに炎の弾が飛びだして、飛竜の胸に激突しました。あちっ! とランジュールが飛び上がります。

「ああもぉ、ほんっとに分からず屋さんだなぁ、勇者くんは! こんなコトしてたら元に戻れないって言ってるんだよぉ!? 帰らないつもりぃ!? それでいいのぉ!?」

「フルート! このすっとこどっこい! ランジュールなんかほっといて早く戻ってこい!」

「ワンワン、レオンの魔法が完成しましたよ!」

「出口が開き始めたぞ! 早く!」

 仲間たちも呼び続けていましたが、フルートは振り向きませんでした。ランジュールを見据えて言います。

「ポポロの秘密はここに閉じ込めていく。おまえと一緒にだ」

 炎の剣を構え直し、再び切りつけようとします。

 

 右手を掲げたレオンの頭上には、透き通った球体が生まれていました。空中に浮かびながらゆっくりと大きくなり、やがてそれが内側へ落ち込んでトンネルに変わっていきます。

 すると、トンネルの向こうから声が聞こえてきました。

「レオン、出口ができたわ! 成功よ!」

 ペルラです。歓声のはずなのですが、その声はひどく苦しそうでした。同じくらい苦しそうなポポロの声も聞こえてきます。

「ペルラが出口を作って、あたしが支えているわ。でも、長くは持たないから急いで――!」

 レオンも出口へ両手を向けて顔を歪めていました。異空間のこの場所からペルラたちの場所へ出口を開いたとたん、ものすごい反動が襲ってきたのです。出口が閉じないように支え続けますが、すさまじい力が必要なので、レオンの中の魔力がみるみる減っていきます。

「待ってくれ……」

 とレオンはうめくように言いました。

「フルートが来ないんだ……ランジュールと戦っている……」

 そのとたん、出口の向こうで息を呑む気配がしました。

 一瞬の沈黙の後、ポポロの声が響き渡ります。

「だめよ、フルート!! そんなところにいないで早く戻ってきなさい!!」

 それは普段の彼女からは想像もつかないほど強い声でした。フルートを叱り飛ばしています。フルートは思わず飛び上がって声のほうを振り向きました。

 

「今だぁ!」

 とランジュールは飛竜の首を伸ばしました。大口でフルートの胴に食いつくと、そのまま、ぐんと引き寄せます。

 少年たちは叫び声をあげました。

「こんちくしょう!」

 とゼンが助けに飛び出そうとします。

 すると、ランジュールが長い首をしならせました。頭を大きく振って、ぶんとフルートを投げ返してきます。

 ゼンは驚き、あわててフルートを受け止めました。ところが勢い余って吹き飛ばされたので、ポチが風の犬になって二人を抱き止めます。

 それを見てレオンが叫びました。

「出口が閉じ始めている! 早くくぐれ!」

 ポチはそのまま風の体にフルートとゼンを巻き込み、空のトンネルへ突進しました。

 ビーラーも変身してレオンを乗せ、出口に向かいます。

「やったぁ! ボクも脱出しよぉっと!」

 とランジュールは言いました。そのためにフルートを仲間のほうへ投げ飛ばしたのです。地面を助走して空に舞い上がり、少年たちを追いかけて出口をくぐろうとします。

 レオンはすでにトンネルの中にいましたが、振り向いて叫びました。

「奴をここから出すな! 引き留めろ!」

 すると、飛竜の体が首を出口に突っ込んだ状態で急に停まりました。どんなに翼を羽ばたかせても前に進まなくなります。

「え、なぁに、どぉしてぇ――!?」

 首をねじって振り向いたランジュールは、飛竜の尻尾を捕まえている白い人形を見ました。人形の両足は二本のロープのように長く延びて、地面に深々と突き刺さっています。

「ちょぉっとぉ! なにさ、これぇ!? めーないちゃんを放してよぉ!」

 ランジュールがわめいても暴れても、戦人形は飛竜を放しませんでした。空に開いた出口がどんどん狭まって閉じていきます――。

 

 

「戻ってきたわよ!」

 とペルラが歓声を上げました。シィの上で両手を高く掲げ、頭上に開いた出口を見上げています。

 その周囲では海が大荒れに荒れていました。空は青く晴れ渡っているのに、白波がしぶきを立ててシードッグに打ち寄せています。

 ポポロは風の犬のルルに乗って、やはり両手を出口へ向けていました。苦しそうに歪んだ顔を大量の汗が流れています。こちらは出口を支えるのに精一杯で口をきく余裕がありません。

 花鳥に乗ったメールは、まだ少年たちが現れないので、やきもきして出口を見守っています。

 すると、出口の奥にきらりと金色に光るものが見えてきました。たちまちフルートとゼンが風の犬のポチに抱かれて飛び出してきます。光っていたのはフルートの鎧でした。続いてビーラーに乗ったレオンも飛び出してきます。

 少女たちは同時に少年たちの名を呼びました。それぞれが違う名を呼んだので、声が重なり合ってしまいます。

 ところが、フルートとゼンは返事もせずにポチに乗り直しました。剣や弓矢を構えます。

 レオンも閉じかけた出口を振り向いて叫びました。

「ロジートヨチグデニグース!」

「ど、どうしたのよ?」

 少年たちの様子に少女たちが驚いていると、閉じていく出口からいきなり竜の頭が飛び出してきました。続いて蛇のような長い首が出てきます。その鼻先にはランジュールの顔がありました。

「奴を外に出すな!」

 とフルートは叫ぶと、竜の頭に斬りかかっていきました――。

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