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第25巻「囚われた宝の戦い」

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78.毛虫

 フルートに急に指さされて、ランジュールは驚いた顔になりました。

「え、なぁに? ボクのことまで攻撃しようっていうのぉ? ボクは善良なただの幽霊だよぉ。争いごとなんかに巻き込まないでほしいなぁ」

 相変わらずのランジュールに、ゼンはどなり返しました。

「どこをどう解釈したら、てめえが善良になるんだよ!? 腹黒い問題児のくせに! おい、レオン! あいつが余計なことを吹聴しねえように、思いきりぶっ飛ばしてやれ!」

「そうだな。確かにそれはぼくが適任だ」

 とレオンは答えると、力を集中させてから呪文を唱えました。

「ロエラートオイレノキーテ!」

 光が自分へ向かってきたので、ランジュールは飛び上がってかわしました。

「嫌だったらぁ! 魔法使いなんかに攻撃されたら、幽霊だって怪我をするんだからねぇ! こんな危ない場所に長居は無用。モーちゃん、ロクちゃん、後は頼んだよぉ――うわ!?」

 姿を消していこうとしたランジュールは、何かに突き当たって跳ね返され、空中で尻餅をつきました。探るように両手を突き出してわめきます。

「空間移動できなぁい! どぉしてさぁ!?」

「もちろん、ぼくが魔法で移動を封じたからだ。ビーラー、行くぞ!」

「よし!」

 風の犬のビーラーはレオンを乗せて舞い上がりました。まっすぐランジュールへ向かっていきます。

 ランジュールは大慌てで空を飛び始めました。

「えぇ、まずい! 眼鏡くんったら魔法が得意なんじゃないかぁ! ずっと大した魔法を使ってなかったから、魔法が苦手なんだと思ってたのにぃ!」

「馬鹿言え、レオンは次の天空王になると言われているんだぞ! 魔力の強さは抜群なんだ!」

 とビーラーは自分のことのように腹を立てて、逃げるランジュールを追いかけます。

「ロクちゃん! 助けてぇ!」

 ランジュールがロック鳥を呼ぶと、ポチに乗ったフルートが飛んできて割って入りました。

「行かせない。おまえの相手はこのぼくだ!」

 とロック鳥へ炎の弾を撃ち出し、かわして逃げた鳥の後を追い始めます。

 ランジュールを追うレオンとビーラー、ロック鳥を追うフルートとポチ。二組の追跡者たちが空に縦横無尽の軌跡を描きます。

 

 一方、地上に残ったゼンは背中から弓を下ろして弦を張り、矢筒から白い矢を抜き取りました。まだ矢はつがえずに、モジャーレンの観察を始めます。

「あいつは馬鹿でかいし、魔法も効かねえが、五さんたちは槍一本で仕留めていた。てぇことは、どこかに槍でとどめを刺せる急所があるってことだ。それはどこだ――?」

 ゼンは槍は持っていませんが、百発百中の弓矢を持っていました。急所さえ正確にわかれば、矢でも充分に倒せそうな気がします。

 モジャーレンは頭の上に突き出た三本の触手を振り回して、空を飛び回るレオンやフルートたちの動きを追いかけていました。そちらのほうが動きは派手なので、じっとしているゼンには注意が向かないようです。

 ゼンはひとりごとを言い続けました。

「動きに反応する習性があるか。さっき突進してきたし、意外と運動能力は高そうだな。動きを封じないと攻撃できねえか」

 ゼンが見つめていたのはモジャーレンの触手でした。頭からひときわ長く延びた三本の先端には黒い目玉があります。

「あいつを潰して見えねえようにするか?」

 とゼンがつぶやいたとき、モジャーレンの真上をロック鳥が飛び過ぎていきました。後を追ってフルートとポチも飛んできて、モジャーレンの触手をかすめていきます。

 すると、モジャーレンは目のある触手を素早くひっこめました。フルートたちが飛び過ぎると、また伸びてきて先端に目が現れます。まるでカタツムリの目のようです。

 はん、とゼンはうなずきました。

「急いで引っ込めるからには、やっぱり目は急所か。ルルがいれば風の刃でちょんぎってもらうんだが――」

 レオンたちはランジュールを、フルートたちはロック鳥を追いかけていました。そちらに応援は頼めません。

 

 ゼンは少し考えてから、腰の荷袋を空けました。中から大きなパンの塊を取り出します。

「カザインにもらっておいた非常食だが、しょうがねえな」

 とひとりごとを言いながら背中の矢筒から次々に矢を抜き、パンに突き刺し始めます。矢筒は魔法の道具なので、いくら引き抜いても矢が尽きることはありません。じきにパンの塊は周囲をぐるりと矢羽根で取り囲まれました。元が丸い形なので、まるでたてがみに囲まれたライオンの頭のようになります。

「野生の動物は目玉に反応する奴が多いから、目も入れねえとな」

 とゼンは今度は荷袋から二つの赤いリンゴを取り出しました。これもカザインたちからもらったものです。それをパンの上に押し込むと、赤い大きな目玉のライオンの顔が出来上がりました。

「こんなもん、これまで見たことがねえだろう? 驚けよ、モジャーレン」

 とゼンは言いながら、ライオンの顔に細い紐をくくりつけ、それを新しい矢に結びつけました。立ち上がり、矢を弓につがえて、きりりと引き絞ります。

 ばしゅっ。

 音を立てて矢が飛び始めました。ライオンの顔をぶら下げたまま、モジャーレンの頭上を飛び越えていきます。

 すると、モジャーレンの三本の触手がいっせいにそちらを見ました。矢の後ろの奇妙な物体に気を惹かれたのです。長い体を伸ばして身を乗り出します。

 その間にゼンはモジャーレンの後ろへ走りました。

「どこが急所かわからねえから当てずっぽうだ」

 と矢をモジャーレンの横腹へ放ちます。

 とたんに上空からランジュールが叫びました。

「モーちゃん、防御ぉ!」

 たちまちモジャーレンは全身の毛を逆立てました。一回り大きくなった体に矢が弾かれます。

 ちっ、とゼンは舌打ちしましたが、最初から期待していなかったので、外れても悔しそうな顔はしませんでした。

「モジャーレンの毛はいろんな方向に生えてやがるな。だから、毛を逆立てると毛が体を守る鎧になるんだ。やっかいだな」

 と冷静に分析していると、今度はフルートたちが叫びました。

「ゼン、後ろだ!」

「ワン、攻撃が来ますよ!」

 モジャーレンが長い体の尾の部分をゼンに向けて動かしていたのです。

 と、その尾の先にも三本の触手が伸びてきました。先端に黒い目玉が現れます。

 ゼンは、ぎょっとしました。

「尻尾も頭なのか!?」

 それを証明するように、モジャーレンは尾のほうを先頭にして突進を始めました。たちまちゼンに迫ってきます。

 やっほぉ! と空でランジュールが歓声を上げました。

「モーちゃんには頭が二つあるんだよぉ! 前も後ろもどっちも万全! さぁ、モーちゃん、ドワーフくんを踏み潰して毒をくらわせちゃぇ!」

 モジャーレンがゼンに迫ってきました。ゼンはあわてて逃げますが、速度がまるで違うので、すぐに追いつかれてしまいます。モジャーレンの巨体が壁のように迫ってきます――。

 

 そのときレオンの声が響きました。

「ゼンを守れ!」

 次の瞬間、ゼンの姿が消えました。モジャーレンが何もない場所を足音を立てて駆け抜けていきます。

 ランジュールは目を丸くしました。

「あれれ、まただぁ! どぉしてキミたちは急に消えることができるのさぁ!? 魔法使いの眼鏡くんならまだしも、ドワーフくんもだなんてぇ!」

 すると、ゼンが元いた場所に姿を現しました。その下には長い手足の白い人形がいて、ゼンを肩に担ぎ上げていました。

「戦人形だぁ!」

 とポチは歓声を上げました。パルバンでもずっと自分たちを守ってきた人形ですが、普段姿を見せないので、つい存在を忘れてしまうのです。

 ゼンも、にやりと笑い顔になりました。

「なるほど、こいつがさっきからレオンを守っていたんだな。おい、レオン、こいつに俺の言うことを聞かせることができるか?」

「それは無理だ。戦人形はぼくの言うことしか聞かない。君を守り続けることだけはできるけどな」

 とレオンが空から答えます。

「そうか。じゃぁ、こいつにこのまま俺を担がせといてくれ。背が高くなってちょうどいいんだ。んで、だ――」

 ゼンは体勢を変えて戦人形に肩車される格好になると、レオンに襲いかかろうとしたロック鳥へ矢を放ちました。矢が翼に命中したので、ロック鳥は悲鳴を上げて離れていきます。

「これで当分襲って来れねえだろう。おい、フルート、レオン、俺の言うとおりにしろ! モジャーレンの頭と尻尾に同時に攻撃するんだ! 俺が奴を仕留めてやる!」

 ゼンはそう言うと、戦人形の肩で新しい矢を弓につがえました――。

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