少女たちがロムド王の執務室にいきなり飛び込んできたので、部屋の中の人々は非常に驚きました。
「ポポロ! メール! おまえたちは天空の国に出発したはずではなかったのか!?」
「ルル、もう大丈夫なのか!?」
とオリバンとセシルが尋ねると、彼女たちは口々に言いました。
「もちろん大丈夫よ! すっかり元気になったわ!」
「だから戻ってきたのに、フルートたちがいないじゃないか! いったいどこに行ったってのさ!?」
「教えてください! あたしたちもすぐに追いかけます!」
部屋の人々は顔を見合わせてしまいました。ロムド王も重臣たちも答えることができません。
ユギルが占盤から顔を上げて少女たちに言いました。
「わたくしたちも勇者殿たちの行方を捜しているところでございました。そちらの象徴を追っていたために、お嬢様方がこちらに向かっておいでだったことに気づかずにおりました。申しわけございません」
少女たちは顔色を変えました。
「フルートたちが行方不明なの!?」
「どうしてさ!? あたいたちがフルートやゼンと別れたのは、ついさっきのことだよ!?」
「どこへ行ったのか全然わからないんですか!?」
すると、興奮する少女たちをなだめるように、ゴーリスが言いました。
「だから俺たちも驚いているんだ。なにしろ、連中が部屋を抜け出すところを誰も見ていないんだからな」
それを聞いて、ルルはポポロを見ました。
「ってことは、きっと――」
「うん、きっと魔法だわ! 部屋に行ってみましょう!」
少女たちはポポロを先頭に部屋を飛び出していきました。メールの操る花が虫の集団のようにうなりながら追いかけていきます。
「待て! 我々も行くぞ!」
「ぼくも行こう」
とオリバンとセシルとキースが後を追いかけました。ロムド王の指示を受けて、ゴーリスも続きます。
嵐のような集団が部屋を出ていくと、ロムド王はまたユギルを振り向きました。
「そなたは先ほど、占いに勇者たちの象徴が見当たらない、と言ったな。よもや、勇者たちがどこかで命を落としてしまった、ということではないだろうな?」
深刻な声でしたが、占者は銀髪を揺らして頭を振りました。
「そうではございません。人の象徴はその人物が亡くなれば消えますが、それでも痕跡は残ります。勇者殿たちの場合は、その痕跡さえ見当たらないのですから、前回と同様、私たちがいるこの世界とは別の世界へ行った、と考えるのが妥当かと存じます」
「とすると、やはり魔法のしわざですな」
とワルラ将軍が言うと、白の魔法使いが考え込みました。
「ポポロ様がいなかったのに、誰がそれだけの魔法を使ったのでしょう? 気づかない間に、何ものかが城に侵入していたのかもしれません。我々が城を守っておりましたのに――」
女神官が唇をかんだので、ロムド王は言いました。
「セイロスがこの城に乗り込んできたのならば、城が無事なはずはない。おそらく天空の国の魔法使いがやってきて、勇者たちを連れ去ったのだろう。城の魔法使いが彼らにかなわないのは当然だ。気に病むことはない」
「天空の民が……。なんのために勇者殿たちをお連れになったのでしょうね」
とリーンズ宰相は言うと、勇者の少女たちが飛び出していった出口を心配そうに見ました――。
一方、フルートたちの部屋に駆け込んだ少女たちは、あちこちを確かめながら話し合いました。
「フルートとゼンの防具と武器がないよ! 荷物もない! やっぱり装備して出発したんだ!」
「どう、ポポロ? 何か感じる?」
「ええ。かすかにだけど、魔法の波動が残ってるわ。光の魔法の痕跡よ」
そこへオリバンとセシルとキースも到着しました。
キースが言います。
「四大魔法使いにも気づかれずに魔法で移動したとなると、相当な魔法の使い手ということになるね。天空の国の魔法使いのしわざかい?」
「ええ、たぶん……」
とポポロが言っていると、ルルは部屋中の匂いをかぎ周り、壁の鏡の前でぴたりと止まりました。
「ここに、いるはずがない人たちの匂いが残ってるわよ!」
「それは誰だ?」
とようやく到着したゴーリスが尋ねました。途中で衛兵にこの騒ぎについて説明していたので、少し遅れたのです。
「レオンとビーラーよ! あの二人が来て、フルートたちを連れていったんだわ!」
ゴーリスは眉をひそめました。
「おまえたちの天空の国の友人か。では、フルートたちは天空の国に行ったのだな」
「ううん、そんなら、あたいたちと途中ですれ違ったはずさ! ポポロが呼んだときには返事をしたはずだし!」
とメールが言うと、ポポロが鏡を見ながら言いました。
「フルートはもう一度パルバンに行きたがっていたわ。どうしても確かめなくちゃいけないことがあるから、って」
「そうね。私たち、この前は三の風に邪魔されて、竜の宝のところまでたどり着けなかったんだものね」
とルルも言いました。自分たちがそのパルバンや竜の宝と深い因縁があるとは、想像もしていません。
「では、フルートたちはまたパルバンがある闇大陸に行ったというのか!? この状況で!?」
とオリバンは傍らのテーブルに拳をたたきつけました。セシルも青ざめます。
「闇大陸はこちらとは時間の早さが違っているはずだ。あちらに行ってしまったら、こちらに戻ってくるまでにものすごく時間がかかるんじゃないのか?」
「そういうことになるよね」
とメールは言いました。怒りの涙がにじむ目で窓の外をにらみつけます。
ゴーリスは頭を振りました。
「陛下の執務室に戻るぞ。どうしたらいいか、陛下やユギル殿たちと相談するんだ」
と言って足早に部屋を出ていきます。
オリバンとセシルとキースも戻ろうとしましたが、少女たちが動こうとしなかったので、振り向きました。
「ここにいてもフルートたちは戻らないよ。とにかく戻ろう」
とキースが呼びかけると、ポポロが言いました。
「フルートたちが出発してからまだ時間がたってないから、きっとまだ闇大陸には渡っていないと思うのよ。全速力で追いかければ、きっと追いつけるわ」
「だね。みんながロムド王のところに集まって相談してたってことは、セイロスがまたどこかから攻めてこようとしてるってことだろ? あいつらを呼び戻さなくちゃ!」
とメールはすぐに窓を大きく開けました。一面白い雲におおわれた空が現れると、ルルと花たちが飛び出していって、風の犬と花鳥に変わります。
ポポロとメールは窓を乗り越えて飛び乗りました。
「それじゃ、いってきます!」
「みんなによろしく伝えておくれよね!」
と言い残すと、うなりながら舞い上がって雲の中に飛び込んで行きます。フルートたちを連れ戻しに出発したのです。
呆気にとられて見送ったオリバンが、みるみる顔を真っ赤にしていきました。拳を握ってどなります。
「おまえたち――また私を置き去りか! いいかげんにしろ――!」
セシルはあわててそれをなだめました。
「オリバン、気持ちはわかる! だが、セイロスがまた攻めてくる。今度やってくるのは、裏竜仙境の人間を乗り手にした、超一流の飛竜部隊だ。一刻も早く迎撃態勢を整えなければ、今度こそこのディーラは敵の手に墜ちるぞ。フルートが不在のときには、あなたが連合軍の総指揮官なのだから」
「そんなことはわかっている!!」
オリバンは大声と共に拳をまたテーブルにたたきつけました。とたんにテーブルの脚が折れてひっくり返ってしまいます。
その様子に、キースは頬をかきました。
「こりゃ、ぼくが空を飛んで追いかけたりしたら、オリバンに恨み殺されるな」
とつぶやいて、広げかけた翼をそっとたたんで隠します。
ひとつに戻った時間の中、事態は急速に動き出していました――。