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第25巻「囚われた宝の戦い」

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65.囚われた宝・2

 フルートたちの前から過去の場面が消えていきました。

 過去の人々や獣も姿を消しますが、黒い塔だけは残って空に刺さるようにそびえていました。二千年の間に展望台はさらに崩れて跡形もなくなり、中心の円筒が塔の最先端になっています。円筒の表面に見えているのは、やつれきったエリーテ姫の頭部でした。体は塔に同化して見えなくなっています――。

 夢から覚めたような顔をしているカザインたちへ、エリーテ姫は言いました。

「これがセイロスと私たちに関する過去の真実です。セイロスが私にかけた呪いは解けることなく続き、私はこの場所にずっと囚われ続けました。長い長い間……。光の戦士たちがあらゆる防御魔法をかけたので、パルバンでは魔法の嵐が吹き荒れるようになりました。それを越えて私の元へたどりつく者はほとんどいなかったし、たどりついても私が追い返しました。竜の宝を手に入れて世界を支配しようとする者ばかりだったからです。その間、私はずっとひとりきりでした。けれども、どんなに孤独に絶望しても、私は死ぬことができません。闇の竜の魔力が強く私に作用しているので、狂うことさえできないのです。たったひとりでこの塔に縫いつけられながら、私は待ち続けました。梟の王が私に予言した『希望』が訪れるときを――」

 エリーテ姫の声が震えました。落ちくぼんだ目からまた涙があふれ出します。

 

 それを見上げながら、カザインは聞き返しました。

「我々がここに来たとき、あなたは我々に、待ち続けた、やっと来てくれた、と言ったな? ひょっとして、ぼくたちのことをその希望だと思ったのか? だが、残念ながら、ぼくたちにあなたをそこから解き放つ力はないぞ。我々は天空王様に仕えるただの貴族なんだ」

 すると、エリーテ姫は首を横に振りました。

「いいえ、そうではありません……」

「では、ひょっとして、セイロスを待っているの? あなたは本当は彼を愛していたのでしょう? だからこそ、彼を止めたくて光の軍勢に加わったのよね。彼が改心するのを今でも待っているの?」

 とフラーも尋ねると、姫は急に泣き笑いを始めました。むせぶような声で笑いながら言います。

「いいえ、いいえ、そんなものはもう微塵も期待していません……! 確かに、初めのうちはまだ期待しました。彼も私と同じようにひとりきりで囚われていて、考える時間だけは無限にあるのだから、いつか自分の過ちに気づいて闇から立ち返ってくれるのではないか。私の元へ戻ってきてくれるのではないか……そんなふうに。でも、二千年もの間、繰り返し繰り返しあのときのことを思い出して考えるうちに、私は気づいてしまったのです。セイロスにはいつだって、私よりも大事なものがあったのだと……」

 姫は笑うのをやめて大きな溜息をつきました。遠いまなざしを虚空に向けて話し続けます。

「もし、セイロスが本当に私を愛していたのなら、私が別れ話を切り出したときに、彼は本気で引き留めてくれたはずです。確かにロズキと私の関係を誤解したこともあったでしょう。でも、彼が潔く身を引いたのは、ロズキのためではなく、婚約者を引き留めるようなみっともない真似をすることが、自分自身で許せなかったからなのです。私を無理やり連れ去ったことも、パルバンまで私を連れ戻しに来たことも、同じです。私にそばにいてほしくて来たのではありません。私が彼を裏切り、彼の言いつけに従わないことが許せなくて、彼は私を縛りつけたのです。彼は最初から私を欲してはいませんでした。彼が私よりも大事に思っていたのは、誰からも尊敬される強くて立派な自分です。そのためには誰もが彼に従わなくてはいけないし、彼を裏切ってもいけません。彼にとっては、私に愛されている自分こそが何より大切だったのです……」

 エリーテ姫の声は乾ききっていました。いつの間にか涙も止まっています。姫の遠いまなざしは虚ろです。

 カザインとフラーは何も言えなくなって、姫を見上げ続けました。ハーピーも塔を見上げています。エリーテ姫の話はハーピーには難しいはずでしたが、姫の悲しみや苦しみはちゃんと伝わっているようでした。

 

 すると、エリーテ姫はまた彼らに目を向けてきました。もちろん、カザインたちのすぐそばにはフルートたちの一行もいます。けれども、姿が見えなくなっているので、姫はカザインたちだけを見て話し続けました。

「セイロスの本当の気持ちがわかってから、私は光の戦士がここを訪ねてくることを待ちました。そして、ついにあなた方が来てくださった――。あなた方に過去の真実を見せる前に、私の願いを聞く約束をしたことを覚えていますね? 私はあなた方にすべてを見せました。今度はあなた方が約束を守る番です」

 カザインたちはとまどいました。

「確かにそれは約束した。だが、あなたをそこから解放することが願いでないのだとしたら、あなたは何を望んでいるんだ?」

 とカザインが聞き返すと、エリーテ姫はまた笑いました。今度は声をたてずに静かにほほえみながら言います。

「私は本当に長い間、ここに縛りつけられてきました。私はもうこれ以上この苦しみを続けたくありません。お願いです。どうか私をこの塔と一緒に破壊してください。この塔と一緒であれば、私を消滅させることができるのです。私を消滅させて、私を苦しみから解放してください。それが私の唯一の望みです」

 姫は切々と訴えると、濃い青い瞳でカザインたちをひしと見つめました――。

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