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第25巻「囚われた宝の戦い」

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第22章 囚われた宝

64.囚われた宝・1

 繰り広げられる過去の場面の中で、セイロスは闇の竜と共に竜の紐に捕らえられ、地中へ引きずり込まれていきました。その行き先は地下ではありません。世界の最果ての、この世ならざる場所です。

 セイロスたちが消えていった場所に巨大な竜王が降りてきて、天空王と琥珀帝に言いました。

「これですべてが終わった。だが、梟(ふくろう)の王が予言し、セイロス自身が語ったとおり、いつの日かまた奴は世界の最果てからよみがえり、世界の支配と破壊をもくろむようになるだろう。我は奴を封じるためにこの世を去るが、琥珀帝と取り交わした契約に新たな約束を加えることにする。奴がまたこの世によみがえり、世界を破滅に至らせようとしたときにも、我を呼ぶがいい。その頃にはそなたの子孫がシュンの王になっているだろうが、我はその呼びかけに応えて姿を現し、世界を守るために力を貸そう。世界はすべての命の住処(すみか)だ。闇が破壊して良いものではない」

 彼らの前で竜王はいっそう白さを増し、自ら光を放って周囲を照らすようになっていました。

 その神々しい姿に琥珀帝が言いました。

「本日よりあなたに神竜という名を奉り、我が子孫だけでなく、国中の民にあなたを敬うように命じます。また、闇の竜との戦いを記念するために、シュンという国名を改めることにしましょう。私はすでに琥珀帝と呼ばれていますが、これからは代々の王を帝(みかど)と呼ぶことにします。奴がよみがえってくるのは何百年後か、何千年後か――遠い未来のことであることを祈りますが、そのときまで決してあなたとの契約を忘れないよう、帝は最初の務めとしてあなたを招き帝の挨拶を捧げることを、末代までお約束します」

「なるほど、代々の帝が、帝になったときに我を呼ぶというわけか。それは良い」

 と竜王、いえ、神竜は笑いました。雷のような笑い声を響かせながら、世界の最果てへと消えていきます。

 

 すると、瓦礫(がれき)に留まっていたフクロウが、近くの大猿と大狐を示して言いました。

「闇の竜が復活したとき、ここにいるふたりも世界を守るために協力するだろう。二千年の後、世界を救うために新たな勇者が現れる。彼に出会ったときに真実を伝えるチャンスが訪れるのだ」

 未来を告げる声に、猿たちは驚きました。

「二千年後だと!? それはいくらなんでも不可能だぞ、梟の王! その前に我々は死んでいる!」

「そうだ! 我々は獣だから、竜たちのように長く生きることはできないぞ!」

 けれども、フクロウは厳かに言い続けました。

「おまえたちもやがて人間たちから神と呼ばれるようになり、本当に神に変わっていく。セイロスはこの世界に呪いをかけて、神にも獣にも戦いについて語ることを禁じたが、いつか必ず真実を語れるときが来る。おまえたちが神でも獣でもなくなったときに、必ずな」

 これだけのことを言うと、灰色のフクロウは翼を広げて飛び立ちました。高い塔をかすめて飛びながら、頂上で青ざめているエリーテ姫に話しかけます。

「哀れな姫よ。絶望があなたを長く支配するだろう。だが、希望は必ず来る。信じて待つのだ」

 フクロウはそれだけを言い残して、どこかへ飛んでいきました。

「わしたちは神になるらしいぞ、狐の王」

「そうらしいな。だが、どんな神になるというのだ。お互い柄でもないのに」

 猿と狐はとまどって話し合っています。

 猿の王は本当に猿神グルに、狐の王は火の神アーラーンに、梟の王はお告げの神ノワラになっていくのですが、それはこの場面からずっと後のことでした――。

 

 天空王は背後の塔を振り向きました。塔は黒く染まり、頂上の展望台の屋根は崩れていますが、エリーテ姫が無事でいるのは地上からも見えていました。そびえ立つ塔は空に突き刺さる黒い棘(とげ)のようです。

 天空王は溜息をつきました。

「姫には本当に怖い想いをさせてしまった。しかも、セイロスがかけた闇魔法を解くのに、また時間がかかるだろう。急がなくては」

 次の瞬間、天空王は塔の頂上付近まで移動していました。半分崩壊した展望台に空中で並ぶと、中央の円柱に貼り付くようにしがみついているエリーテ姫に話しかけます。

「見ての通り、セイロスは去った。もうこれ以上、あなたへ危害を加える者はいない。この塔からあなたを下ろすのには、もう少しだけ時間が必要なのだが、そこから落ちる心配はもうない。その点だけは安心してほしい」

 けれどもエリーテ姫は円柱にしがみついたまま首を振りました。蒼白な顔で目をつぶります。

 天空王はさらに話しかけようとして、急に顔つきを変えました。真剣なまなざしで姫と円柱を見つめ、突然大声を上げます。

「セイロスめ! なんということをしたのだ!!」

 地上にいた者たちは、驚いて塔を見上げました。

「何事だ、天空王!?」

 と琥珀帝が尋ねると、天空王は握った拳を震わせて言いました。

「奴は姫をこの塔に縫いつけていった! 姫の体が塔と同化していて、引き離すことができない!」

 塔の中心の円柱に背中と両腕を押し当てたエリーテ姫は、その格好のまま、動くことができなくなっていたのです。まるではりつけにされた罪人のように、塔の円柱に縫いとめられています。姫は閉じた目から涙を流し始めました……。

 

 やがて――様々な方法でエリーテ姫を解放しようとして、ことごとく失敗した後――天空王はまた塔の上に並びました。

「許してほしい、姫。あなたをここから解放する手段が、我々にはないのだ。奴の闇魔法はあまりにも大きい上に、魔法を継続させる力を、あなた自身の中にある闇の竜の力から取っている。だからあなたの体が塔と同化しているのだ。我々が力を合わせれば、この塔を破壊することができるが、そうするとあなたまで破壊してしまう。奴の魔力を上回る闇魔法でなら解除もできるが、闇の竜を上回る魔力の者などいるはずがない。あなたを助けることができないのだ……」

 天空王は沈痛な声をしていました。光の軍団で最も強力な魔法使いの彼が敗北を認めたのです。

 天空王の横には飛竜に乗った琥珀帝がいました。やはり悲痛な面持ちで言います。

「神竜ならば、ひょっとしたらあなたを助けることができるかもしれない。だが、彼もセイロスを封印するためにこの世を去った。次に彼が現れるのは、私が死んで息子が次の帝になったときか、世界に大いなる危機が迫ったときだ。かなり先のことになるだろう」

 地上では猿の王と狐の王が、天空の国の貴族たちと一緒に塔を見上げていました。その周囲に広がる荒野に闇の怪物の姿は見当たりません。戦人形が怪物を闇大陸から追い払ったのです。闇大陸に平和が戻ったというのに、エリーテ姫だけが今も闇に捕らえられています――。

 

 すると、エリーテ姫が目を開けて天空王と琥珀帝を見ました。相変わらず蒼白な顔ですが、彼女はもう泣いてはいませんでした。震える声で言います。

「どうかこの闇大陸を閉じてください。世界からこの場所を切り離し、誰も訪れることができないようにしてほしいのです」

「何故そんなことを!?」

 王たちが驚いて聞き返すと、姫はちょっと口元を歪めました。ほほえんだのかもしれませんが、あまりにも力のない笑顔でした。

「セイロスが私を取り戻しに来ては大変だからです……。私は永遠に死ぬことができません。何百年、何千年の時が過ぎても、私はやっぱりこの場所にこうしています。それが私に対する彼の呪いです。やがて、予言の通りに彼が復活したら、きっと彼はまた私の元へやってくるでしょう。そして、私の中から抑止力という名の竜の力を奪っていきます。そうなれば彼はもう無敵です。ためらうことも遠慮することもなく世界中を破壊し、命を蹂躙(じゅうりん)して人々を服従させ、世界を破滅に追い込みます。そんなことがあってはなりません。どうかこの場所を閉じてください。セイロスが二度と来ることができないように」

 エリーテ姫……と二人の王は言いました。少し考えてから、天空王が続けます。

「わかった。我々全員で力を合わせて、闇大陸を世界から切り離そう。さらに、あなたがいる場所を守るために魔法の障壁を張り、有志を募ってここへ近づく者を追い払うことにする。心配なのはセイロスだけではない。竜の宝の存在を知った誰かが、その正体を知らずに、力と権力だけを求めてここへやってくる可能性もあるのだ」

 すると、地上から数人の貴族たちが声をあげました。

「そのお役目は私たちにお任せください!」

「我々が闇大陸各地に散って、パルバンに近づく侵入者を追い払います!」

「ご安心ください! 我々にはこれもついています!」

 そう言った貴族の隣には、白いのっぺりした戦人形がいました。パルバンから怪物を駆逐したので、今は何もせずにただ控えています。

 すると、地上に新たな人物が現れました。青い髪とひげの青年で、うろこでできた鎧兜を着けて三つ叉の矛を持っています。

「闇大陸の入り口は、海王である私が守ることにしよう!」

 と青年は言いました。海の軍団を率いて参戦していた、この時代の海王です。

「我々は誰も闇大陸には近寄らせない! むろん、セイロスが復活したときには、奴も追い払う! これは海の王としての契約だ!」

「よろしく頼む、海王」

 と天空王と琥珀帝は答えました。

「ありがとうございます」

 とエリーテ姫も感謝しました。新たな涙を浮かべながら人々へ言います。

「さあ、どうぞ闇大陸を閉じてください! 世界が再びセイロスに蹂躙されることがないように! すべての命が守られるために!」

 姫の頬の上を、二粒の涙がまた転がり落ちていきました……。

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