「俺たちが見えないのか!? マジかよ、おい!?」
とゼンはカザインたちに尋ねました。
「ワンワン、カザイン、フラー!」
「ハーピー、ぼくたちはちゃんといるぞ! わからないのか!?」
と犬たちは彼らの足元にまとわりつき、服の裾などを引っ張ろうとしましたが、歯は彼らの体を素通りしてしまいました。くわえることもつかむことも、触れることさえできないのです。
「カザイン! フラー! ハーピー!」
フルートも必死に呼びかけましたが、やはり彼らは気がつきませんでした。すぐそばにいるフルートたちを探して、周囲を見回し続けています。
すると、レオンが言いました。
「来い、戦人形!」
たちまち白い人形が一行の前に立ちましたが、カザインたちは相変わらず無反応でした。気がついていないのです。
レオンは手を伸ばし、戦人形に触れることができるのを確かめてから言いました。
「どうやら、ぼくたちとカザインたちは異なる空間に分けられてしまったようだな。こちらからあちらの様子は見えるし、声も聞こえるけれど、こっちの様子はあっちからはわからないんだ」
「なんでそんなことになったんだよ!? たった今まで一緒にいたじゃねえか!」
とゼンがどなると、フルートは眉をひそめました。
「ひょっとして、これも理(ことわり)のしわざか……?」
「ありうるな。ぼくたちはこの時代に所属していないから、理がぼくたちに世界に関わることを禁じたのかもしれない」
とレオンが言いますが、この説明はゼンには抽象的すぎました。ゼンは顔をしかめて、怒ったように聞き返しました。
「要するにどういうことなんだよ、それは!?」
「これから、この時代でしか行えないことが起きる可能性があるってことだ」
とレオンは答えましたが、ゼンがまだ要領を得ない顔をしているので、フルートが代わりに説明を始めました。
「この先にあるのは竜の宝だ。何重もの結界や魔法の壁で守られていたけれど、ぼくたちはとうとう最後の結界も越えた。あとは竜の宝を消滅させるだけだ。でも、どうやらそれは、この時代の人間のカザインたちにしかできないことらしい。未来から来た人間のぼくたちには許されていないんだ。だから、ぼくたちは理によって別の空間に飛ばされてしまったんだよ」
これでもまだゼンには少し難しいようでしたが、ゼンは首をひねり続け、ようやくそれなりに納得しました。
「要するに、理が俺たちをのけ者にしたんだな? 『ここから先は手を出すな』って言ってよ」
「そういうことになるな」
とフルートは言って、また考え込みました。
ポチはすぐそばにいるカザインたちを見て、しゅんと尻尾を垂らしました。
「竜の宝を見つけて消滅させるところまで、カザインたちと一緒に行けると思ったのになぁ」
「彼らの様子を見られるのは救いだけど、ぼくたちは何もできないなんて。これじゃ、なんのためにここまで来たのかわからないじゃないか」
とビーラーも文句を言います。
レオンがなだめるように言いました。
「それはそうだが、ぼくたちが同行したおかげで、カザインたちはここまでたどり着くことができたんだ。ぼくたちが来たことは無駄ではなかったはずさ――」
フルートたちがこんなに大騒ぎをして話し合っているのに、カザインたちは相変わらず彼らに気がつきませんでした。
ハーピーが翼をばたばたさせながらカザインたちに尋ねています。
「彼らはどこに行ってしまったんだ!? どうして急に消えたんだ!?」
「私たちにもわからないのよ。彼らのおかげで、私たちはここまで来ることができたのに。竜の宝は、もうすぐそこのはずなのよ」
とフラーが言うと、カザインが頭を振りました。
「ひょっとすると、フルートたちはそのためにぼくたちの元に来ていたのかもしれないな――。彼らはとても普通の人間じゃなかった。天空の民だと考えたって特殊な力がありすぎる。彼らは精霊を呼び出していたけれど、彼ら自身が強力な力を持つ精霊だったのかもしれない。役目を終えたから、ぼくたちの前から姿を消したんだ」
「おいこら、俺たちは精霊なんかじゃねえぞ!」
とゼンはカザインの話に反論しました。
「ぼくたちはちゃんと一緒にいるのに!」
とビーラーも文句を言い続けますが、カザインたちには聞こえていません。
フルートは溜息をつきました。
「しかたないよ。彼らからは見えないけれど、とにかく彼らと一緒に行こう。竜の宝は本当に目と鼻の先だ。彼らと一緒に行って宝を確かめて――もしできるようならば、彼らが宝を消滅させるのを手助けしよう」
「空間が違っていると、魔法も作用しないんだ。魔法で彼らを手助けすることはできないぞ」
とレオンが言いましたが、フルートは繰り返しました。
「それでもさ。ひょっとしたら、この先、何かできることが出てくるかもしれない。そのときにはそれをして、カザインたちを助けよう」
「やれやれ、まどろっこしいなぁ」
とビーラーがまた愚痴を言います。
一方、カザインたちはフラーとハーピーにこんな話をしていました。
「フルートたちの話によれば、竜の宝はあの黒い柱に隠されているらしい。幸い、さっきから三の風がやんでいる。今のうちにあそこへ行って、竜の宝を消滅させよう。ハーピーはぼくたちに協力してくれるな? もしも宝が高い場所に隠されていたら、君が飛んでいって破壊してほしいんだ」
ハーピーは首をかしげました。頭部は美しい女性でも、動きは相変わらず鳥にそっくりです。
「それが私の順番か? 私はまたキョウリョクできるのか?」
「ああ、できるとも。君の力が必要なんだ」
と熱心に言うカザインの横で、フラーも言いました。
「あなたは元々パルバンの番人だったから、竜の宝を消滅させるのには抵抗があるかもしれないけれど、竜の宝というのはこの世界を破滅させる恐ろしいものなの。そうなったらこの闇大陸だって破壊されてしまうから、その前に消してしまわなければならないのよ。お願い、ハーピー、私たちに協力してちょうだい」
ハーピーはまた首をかしげました。言われた内容を理解するためにしばらく考えてから、こう言います。
「我々の役目はパルバンに侵入しようとするものを追い返すことだ。竜の宝を守るのは我々の役目ではない」
「よし、決まった! 出発だ!」
とカザインは言うと、さっそく先頭に立って歩き出しました。行く手彼方には、黒い枯れ木のような柱がそそり立っています。
フラーとハーピーはカザインに続いて歩き出しました。ハーピーはもう翼が治っているし、彼らを守ってきた繭や金の光がなくなったので、空を飛んでも良いはずなのですが、なんとなくまだ一緒に歩き続けているようでした。
「よし、ぼくたちも行こう」
とフルートたちも歩き出しました。カザインたちのすぐ横を並んで進むのですが、彼らはまったく気がつきません。
ゼンがちょっと後ろを振り向いて舌打ちしました。
「俺たちの後には足跡が残らねえ。幽霊にでもなったような気分だな」
「ワン、幽霊のほうがもう少しましですよ。姿を見せることができるんだから」
とポチが言いました。存在しているのに存在していないような状況は、なんとも落ち着かない気がします。
カザイン、フラー、ハーピー。そして、彼らから見えなくなっているフルート、ゼン、レオン、ポチとビーラー。
奇妙な形で分断されてしまった一行は、黒い柱を目ざして、パルバンの最後の区間を歩いていきました――。