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第25巻「囚われた宝の戦い」

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第16章 黒い柱

46.結界

 「ぅおっと?」

 巨大な繭を持ち上げて歩いていたゼンが、急に変な声をあげて立ち止まりました。

 繭が大きく揺れて、中に座っていたカザインとフラーが倒れそうになります。

「どうした、ゼン!?」

 とフルートが風の犬になったポチの背中から尋ねました。ビーラーに乗ったレオンと一緒に繭の中に浮いています。

 ハーピーは空中で羽ばたくのに疲れてしまったのか、ゼンが握る太い横棒にちゃっかり留まって、翼をたたんでいました。ゼンが立ち止まったとたん棒に振動が伝わってきたので、首をかしげます。

「何かにぶつかったみたいだぞ」

「ああ、確かにぶつかった。何も見えねえんだけどな」

 とゼンも言って、光る繭越しに行く手を見ました。パルバンの灰色の荒野は、なだらかな丘や窪地を作りながら地平線まで続いています。石や小さな岩はごろごろしていますが、繭にぶつかって行く手をさえぎるようなものはありません。

「いよいよ結界まで来たな!」

「この奥に竜の宝があるのよ!」

 とカザインとフラーが身を乗り出したので、フルートはレオンを振り向きました。

「わかるか?」

「そうだな。ぼくにも見えないが、ぼくたちを押し返そうとする力が最大になってるのは感じる。どうやら本当に結界までたどり着いたようだな」

「で? どうやったら中に入れるんだ? これ以上無理に進むと、繭が壊れるぞ」

 とゼンが言って、二、三度繭を動かしてみせました。見えない壁にぶつかるように、繭が跳ね返ってまた揺れます。

「繭を下ろしてほどいてくれ。ぼくたちが結界に穴を開ける」

 とカザインが言いました。

「三の風はまだ吹いてくる。結界の側だけ繭をほどこう」

 とフルートも言ったので、ゼンはゆっくり繭を下ろしました。地面に体が触れたので、カザインとフラーは立ち上がりました。ポチとビーラーも舞い降りて犬に戻ります。

 その目の前で繭が消えていきました。横や背後には繭が残っているので、本当に前面の部分だけです。戦人形のしわざなのですが、人形は超高速で動いているので、一行の目には映りません。

 やがて、前面からすっかり繭が消えると、カザインとフラーが進み出ました。両手を伸ばして探るような手つきをするうちに、ぱちっと小さな火花が散ります。

「これだな。光の魔法以外の魔法も使ってあるが、なんとかこじ開けられそうだぞ」

「反動があると思うし、敵が現れるかもしれないから、下がっていてちょうだいね。あなたたちは防護服を着てないんだから」

 そこでフルートたちは彼らの後ろに立ちました。ハーピーは繭の横棒から二人の様子をのぞき込みます。

 カザインとフラーはまた手を伸ばし、見えない結界に触れて呪文を唱えました――。

 

 とたんに大きな爆発が起きました。目がくらむような光が広がり、大量の煙が湧きあがります。

「金の石!」

 とフルートが叫ぶと、金の光が強まって全員を包み、爆発から守りました。その外側で銀の繭が激しく揺れます。

 煙が薄れると、その痕にうっすらと何かが見え始めていました。カザインとフラーが再び呪文を唱えると、また爆発が起き、空中の何かがはっきりしてきます。

 それは、枯れ木のように彼方にそびえる柱でした。霧にかすみながらそそり立っています。

 一行は思わず息を呑みました。

「あった……」

 とフルートは思わずつぶやきます。前回パルバンを立ち去るときに見た黒い柱が、また目の前に現れたのです。

 ところが、案の定、柱の陰から巨大な生き物が現れました。蛇のような体に馬の頭の怪物です。脚はなく、身をくねらせて飛んでくると、カザインたちに襲いかかります。

 カザインはとっさに迎撃魔法を繰り出しましたが、怪物に命中する前に空中で爆発してしまいました。強烈な爆風がカザインたちを吹き飛ばします。あたりに充満している魔法とカザインの攻撃魔法が反応してしまったのです。

 ゼンが二人を助けに飛び出しましたが、間に合いませんでした。怪物が倒れたフラーに食いつこうとします。

 とたんにフルートが叫びました。

「ハーピー、頼む!」

 ハーピーは羽音と共に舞い上がると、怪物へ口を開けました。どん、と音がして、怪物の頭部が吹き飛びます。ハーピーが空気弾を撃ち出したのです。怪物は地面に落ちて動かなくなります。

「うまいぞ、ハーピー!」

 とフルートが誉めると、ハーピーが言いました。

「今のは私の順番だった。私はキョウリョクできたか?」

「うん、協力できていたよ。ありがとう!」

「どういたしまして」

 ハーピーがとても得意そうな声と表情になります。

 

 ところが、馬の頭の怪物は柱の陰から次々に現れました。たちまち数十頭に増えてこちらへ飛んできます。

 ハーピーはまた空気弾を発射しましたが、一頭倒している間に、他が一行に迫りました。

 馬の頭がライオンのような牙で襲いかかってきます。

 フルートは炎の剣を抜いて怪物に切りつけました。

 ゼンも素手で怪物を殴って、地面にたたきつけてしまいます。

 一方、レオンは怪物を見据えながらつぶやいていました。

「距離を置いて攻撃すると、間に充満している魔法と作用して爆発する。距離を開けずに攻撃すればいいはずだ――」

 その目の前に怪物が迫りました。レオンが頭から食われそうになります。

 とたんに、ごぅっとビーラーが風の犬になりました。怪物に絡みついて引き止めると、レオンへどなります。

「どうしたんだ!? 早く逃げろ!」

「そのままそいつを抑えていてくれ! 魔法をたたき込む!」

 とレオンは答えて両手を怪物に押し当てました。呪文へ魔力を送り込んで発動させ、さらに自分の内側の力を送り込んでいきます。

「ロケダクヨツブイーカ!」

 すると、怪物はびくりと大きく震えました。体のあちこちで皮膚が裂けて光がほとばしり、次の瞬間、体全体が輝いて粉々になってしまいます。ビーラーはその前に怪物から離れていたので無事です。

「レオン、魔法が使えるようになったのか!」

「一瞬で怪物を破壊したよね!? 君、もしかしたら、ものすごい魔力の持ち主なんじゃないの!?」

 カザインとフラーが驚いて言いましたが、レオンには答えている余裕がありませんでした。また新しい怪物が襲いかかってきたからです。ビーラーがまた引き留めたので、手を押し当てて、内側から怪物を破壊します。

 フルートがカザインたちに言いました。

「怪物はぼくたちが倒す! 完全に結界を開けてくれ!」

 彼方に見える黒い柱は、まだかすんだままでした。向こうからこちらへ怪物は押し寄せてくるのに、こちらから向こうへ行くことはできません。

 そこでカザインとフラーは立ち上がり、もう一度、結界に手を触れました。結界は目には見えないので、おぼろな景色へ手をかざしたように見えます。

「ケラーヒニンゼンカヨーイカツケー!!」

 二人が唱えた呪文と共に、また大きな爆発が起きました。光と煙が湧き起こり、それが消えた後、彼方にくっきりとそびえる黒い柱が姿を現します。

「よし、つながったぞ!」

 とカザインが叫びます。

 

 すると、不思議なことが起きました。

 何十頭と押し寄せていた馬蛇の怪物が、薄れて見えなくなっていったのです。襲いかかろうとしていた怪物だけでなく、先に彼らが倒した怪物も消えてしまいます。

 一行は驚きました。

「なんで消えるんだ?」

「ワン、結界が消えたら怪物も消えましたよ」

 と犬たちが話していると、ハーピーが大声をあげました。

「彼らはどこに行った!?」

 カザインとフラーも目を見張ってあたりを見回していました。

「たった今まで一緒にいたはずなのに!」

「いったいどこへ行ったのよ!?」

 そのあわてぶりに、フルートたちはまた驚きました。

「誰の話をしてるんだよ? 怪物のことか?」

「あれはきっと結界を守る怪物だったんだろう。結界が消えたから、怪物も消えたんだ」

 とゼンやレオンが話しかけましたが、カザインたちは聞く様子がありませんでした。しきりに周囲を見回しています。

 そのとき、フルートは自分たちの周りから繭が消えていることに気づきました。前面は結界を解くために消しましたが、三の風を防ぐために、側面や後方は残しておいたはずなのです。

 どういうことだ? とフルートはいぶかり、カザインたちと話そうとして、ぎくりとしました。カザインとフラーは、フルートからほんの数十センチの場所に立って、こちらを向いていました。フルートは二人の目の前にいるのに、彼らはまるでフルートなど存在しないように、遠い場所を見ていたのです。

「カザイン!? フラー!?」

 フルートは大声で呼びましたが、二人は反応しませんでした。遠いまなざしでフルートの向こう側の荒野を見るだけです。 すると、ハーピーが羽ばたきながら叫びました。

「フルート! ゼン! レオン! ポチ! ビーラー! おまえたちはどこに行った!? どうしておまえたちまで消えたんだ!?」

 フルートたちは愕然としました。

 少年たちは、カザインやフラーたちから姿が見えなくなってしまったのでした――。

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