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第25巻「囚われた宝の戦い」

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41.大地の記憶・1

 怪我をした仲間たちは、フルートが金の石を輝かせると、あっという間に元気になって起き上がりました。

 そのときには彼らの周囲を数え切れないほどの怪物が通り過ぎていたので、目を丸くして見回してしまいます。

 ハーピーは今回は怪我をしなかったので、先ほどから興奮して羽をばたばたさせていました。

「こいつらはなんだ!? どこから来た!? どこへ行く!?」

「番人の君も、こんなものは見たことがなかったのか」

 とフルートは言うと、ハーピーの背中をたたいてなだめながら、改めて守りの光を広げました。光を強めると、ようやくその中から怪物が消えていきます。溶けたのではなく、光に打ち消されて見えなくなったのです。証拠に、守りの光の場所を通り過ぎると、怪物はまた姿を現して前進をしていきました。うねりとなって進んでいく怪物たちは、いつ終わるのかわからないほどの大群です。

 レオンは壊れた眼鏡を魔法で直すと、さっそく眼鏡を押し上げて言いました。

「この怪物は現実のものじゃない。幻だ。おそらくパルバンに充満する様々な魔法が作用し合って、大地の記憶を呼び起こしているんだろう」

「大地の記憶ってなんだよ?」

 とゼンが聞き返しました。彼は大地の子と呼ばれるドワーフですが、そんなものは聞いたことがありません。

 疑問に答えたのはカザインとフラーでした。

「大地の記憶というのは、その場所で昔起きた出来事のことだよ。魔力を持った場所に出来事が刻み込まれていて、何かの拍子によみがえってくるんだ」

「昔、パルバンに闇の怪物の大群が現れたことがあったのね。そのときの様子なんだわ」

「ということは、見えているだけで、ぼくたちにはなんの危害もないんだな?」

 とビーラーはほっとしました。

「ワン、この怪物たちはなんのためにパルバンに来たんでしょうね? なんだか、どこかに向かってるように見えるけれど」

 とポチは首をかしげます。

 

 そのとき、怪物たちの行く手で、ぱぱぱっと白い閃光が走りました。続いて激しい爆発が起きます。

 爆風と共に醜い象の頭が宙に飛んだので、フルートたちは、ぎょっとしました。反射的に身構えながら言います。

「誰かが攻撃してきたぞ!」

「これも幻なのか!?」

 状況がわからなくて動けずにいると、また爆発が起きました。先より大きな光が広がってまた怪物が吹き飛び、地面にばらばらと落ちて消えていきます。

「光の魔法だ!!」

 とレオンとカザインが同時に叫びました。

「向こうから何かが出てきたわ!」

 とフラーも言います。

 フルートやゼン、犬たちは周囲を取り囲む怪物に視界をさえぎられていましたが、すぐにフラーの言う方向にたくさんの生き物を見つけました。大きな翼を持った純白の馬、蛇に似た姿の竜、全身炎のような羽毛に包まれた鳥などが、何百と空に駆け上がってきたからです。

「ペガサスだ!」

 とフルートとゼンは驚きました。

「ワン、ユラサイの竜もいる!」

「あっちはフェニックスの大群だ!」

 とポチとビーラーも言います。

 すると、空飛ぶ集団の間から、さらに別の空飛ぶ生き物が姿を現しました。犬の上半身に透き通った長い体をなびかせ、背中には人を乗せています――。

「風の犬だ!!」

 と彼らは叫んでしまいました。

 風の犬と乗り手たちは先頭に飛び出し、空飛ぶ集団を率いて闇の怪物へ急降下しました。また魔法がひらめき、怪物たちを吹き飛ばします。

「あれは天空の民なのか?」

 とカザインは疑わしそうに言いました。風の犬に乗った人々は確かに光の魔法を使っているのですが、黒い星空の衣を着ていなかったのです。服装はそれぞればらばらですが、同じチームであることを示すように、首に白い布を巻いています。

 すると、闇の怪物たちも反撃を始めました。大群の中から翼を持つ怪物たちが舞い上がり、奇声を上げながら突進していきます。

 白い布の人々は落ち着き払って手を向けました。また光の魔法が飛び出し、飛んできた怪物を消滅させてしまいます――。

 

「わかった!」

 とレオンは声をあげました。

「あれは光の軍勢だ! こっちにいるのは対抗する闇の軍勢! これは第二次戦争の記憶だ!」

「ということは、パルバンの戦いか? 二千年前の――!」

 とフルートは言って、目の前で繰り広げられる戦闘を呆然と見つめました。

 ペガサスが蹄の音をたてて空から駆け下り、闇の怪物の中へ突っ込んでいきました。黒い血しぶきが上がり、怪物たちが踏み潰されていきます。

 フェニックスも炎の翼をひらめかせて急降下すると、怪物めがけて炎を吐き始めました。最前列の怪物が火だるまになり、それを見て後ずさろうとした怪物と後方から押し寄せる怪物がぶつかり合ったので、大変な騒ぎになります。力の弱い怪物が押し倒されて、仲間に踏み潰されていきます。

 白い布の天空の民も、風の犬と縦横無尽に飛び回り、怪物へ魔法攻撃を繰り返していました。いたるところで爆発が起き、怪物が消滅していきます。

「これが二千年前の戦いかよ。ここでこんな戦いがあったんだな」

 とゼンが言うと、レオンがうなずきました。

「第二次戦争の最後の戦いだよ。この戦いで、闇の竜は光の軍勢に敗れて捕らえられたんだ」

「ワン、光の軍勢がパルバンに竜の宝を隠してデビルドラゴンを誘い出したんですよね」

 とポチも言います。

 ということは……と一同は闇の軍勢がやってくる方向を振り向きました。

 空が明るくなるにつれ、パルバンも見通しが利くようになっていました。怪物たちは黒い濁流のように一帯を埋め尽くしています。

 その大群の上に巨大な影を落としながら、地平線から怪物が飛んでくるのが見えました。その背中にはコウモリのような四枚の翼があります――。

 

 するとフルートたちを包む金の光が急に明るさを増しました。ペンダントの魔石が輝きを強めたのです。

 同時に彼らのすぐそばに小さな少年が姿を現しました。黄金色の髪と瞳をして、テト風の衣装を着ています。

「金の石の精霊!」

 あまりにも久しぶりの登場なのでフルートが驚いていると、精霊の少年の横に背の高い女性も姿を現しました。こちらは燃えるような赤いドレスを着て、同じ色の髪を高く結って垂らしています。

「願い石!?」

 また驚くフルートたちを無視して、少年は女性に言いました。

「闇の竜の影響力は強い。たとえ過去の残像であっても、何かの弾みで現在とつながって本体を呼び込んだら、とんでもないことになる。奴から彼らを完全に隠すぞ。力を貸せ、願いの」

「こんな場所で最終戦争の再燃はありえない。喜んで力を貸そう、守護の」

 願い石の精霊もいつになく協力的でした。彼女がフルートの肩をつかむとペンダントがまばゆく輝き出し、強烈な光の中に一行を包み込みます。

 カザインとフラーは、いきなり現れた精霊たちにびっくりしていました。まぶしい光に目を細めて言います。

「彼らは何者だ!? どこから来たんだ!?」

「人間じゃないわよね! 精霊? なんの?」

 ハーピーは明るくても平気だったようで、目を丸くして精霊たちを眺めていました。

「精霊が人間を助けているのか? どうして? 面白いな」

 と尋ねてきます。

 けれども、フルートは答えるどころではありませんでした。願い石から注ぎ込まれた力が、熱い奔流となって体を駆け抜けていたからです。体の内側を焼かれるような激痛を、歯を食いしばって耐えるのがやっとです。

 他の仲間たちは光越しに空を見上げていました。四枚翼の竜があたりを真っ暗にしながら迫ってきます。巨大な体が空をおおいながら飛んでくるので、地上がデビルドラゴンの影に呑み込まれているのです。過去の幻だとわかっていても、大変な迫力です。

 影におおわれた地上の中、フルートたちだけは影を追い払うように、明るい金の光に包まれています。

 

 すると、急にゼンが言いました。

「おい、デビルドラゴンの背中に誰か乗ってやがるぞ!?」

「え、まさか!」

 仲間たちは驚いて目をこらしましたが、周りの光がまぶしいせいもあって、見極めることができませんでした。

「あれは闇の竜だぞ。人が乗れるはずがないだろう!」

 とカザインが言いますが、ゼンは言い張りました。

「いいや、いる! 俺の目を信じろ!」

 すると、ハーピーも言いました。

「確かに竜の上に人が立っている。紫色の殻を身につけているぞ」

「紫色の殻?」

 誰もが首をひねっていると、フルートがうめくように言いました。

「それはきっと、紫水晶の鎧だ……セイロスが、乗っているんだよ……」

 竜は四枚の翼をゆっくりと動かしながら、彼らの頭上に差しかかっていました。

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