「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第25巻「囚われた宝の戦い」

前のページ

33.阻止

 背後からハーピーたちの攻撃を食らったカザインとフラーは、大きく吹き飛んで自分たちの障壁にぶつかりました。そのまま折り重なるように地面に倒れます。

 魔法の障壁が消えていくのを見て、少年たちは焦りました。緑の毛皮の番人がまた二人に向かって槍を振り上げています。

「いけない!」

 とフルートは飛び出そうとして、すぐに立ち止まりました。番人が槍の矛先を自分たちに向けてきたからです。大きな火の玉が飛んできて守りの光にぶつかり、周囲をまた火の海にします。

「フルートの剣のような槍だな」

 とビーラーが言うと、レオンが答えました。

「火力や威力はフルートの剣のほうがずっと上だよ。だが、これでは身動きが取れないな。守りの光はフルートと一緒にあるんだから」

 すると、フルートは頭を振りました。

「そういうわけにはいかない。あの二人を助けないと」

 あっという間に首からペンダントを外すと、ゼンに押しつけます。

「あ、おい、フルート――!!」

 仲間たちが引き留めようとしたときには、フルートはもう倒れている二人へ走っていました。守りの光を放つ金の石をゼンに預けて、自分はその外へ飛び出していったのです。

 緑の毛皮の番人がまた槍をふるいました。真っ赤な火の玉がフルートへ飛びます。

「危ない!」

 ビーラーが叫んだとたん、フルートは炎に呑み込まれましたが、すぐにその向こうへ飛び出していきました。金の鎧が炎を映して赤く輝いています。

「大丈夫だ。あいつの鎧は火に強いからな」

 とゼンは言って、すぐに舌打ちしました。ハーピーたちが空からフルートを狙っていたからです。

「ったく、しつこい連中だぜ!」

 と言いながらペンダントを自分の首にかけ、すばやく弓矢を構えます。放たれた矢はハーピーたちめがけて飛んでいきました。ハーピーがかわそうとしても追いかけて、一羽を撃墜します。

 キーィッ!

 黒いハーピーは振り向きざま、自分を追ってくる矢へ鋭く鳴きました。とたんに矢は空中で粉々になります。

 ああっ、とポチとビーラーが思わず声をあげると、レオンが言いました。

「いや、これでいいんだ。ゼンが矢を撃っている間、ハーピーはフルートを攻撃できないからな」

 

 その間にフルートは倒れている二人へ駆け寄りました。緑の毛皮の番人がまた槍を振り回したので、自分も剣を引き抜き、前へ飛び出します。

 すると、番人はフルートめがけて火の玉を撃ち出してきました。フルートはカザインとフラーを背後に守ったまま、剣を大きく振りました。切っ先から炎の弾が飛びだし、火の玉に激突します。

 勢いに負けて砕け散ったのは、番人が撃った火の玉のほうでした。フルートの炎の弾は砕けることなく飛んで番人に襲いかかります。

「ファアー……!」

 番人は奇妙な叫び声を上げて飛びのき、かたわらの木陰に隠れました。その間にフルートはカザインとフラーにかがみこみます。

「しっかりしてください! 大丈夫ですか!?」

 するとカザインが目を開けました。緑の瞳がフルートを見て驚いたように丸くなります。

「また助けてくれたのか……!」

 フラーのほうも目を開け、頭を押さえながら身を起こしました。

「気を失ってたわ……。このマント、衝撃に対する防護力が足りなかったわね。次の課題だわ」

 フルートはすぐに立ち上がって剣を構えました。毛皮の番人が攻撃してきたら、また炎の弾を撃ち出そうとします。

 そこへゼンが弓矢を構えながら駆けつけてきました。レオンとポチとビーラーも一緒です。

 ハーピーはゼンの矢を用心して、頭上高い場所を飛び回るようになっていました。まだ六、七羽はいます。

「どうする!? 近づかねえようにはしてるが、矢を砕かれるから撃ち落とすのは難しいぞ」

 とゼンが言うと、フルートは木立の間に見える黒い霧の壁を示しました。

「パルバンに逃げ込もう。ハーピーもあの人もパルバンの番人だから、中までは追ってこられないはずだ」

 話しながらゼンからペンダントを受け取り、カザインとフラーに押し当てたので、二人はたちまち元気になりました。

「え、もしかしてそれって聖守護石?」

「君たちはぼくたちのような防護服を着てないじゃないか! それでパルバンに入るなんて無茶だ!」

 てんでに違うことを言う二人を、フルートは無視しました。仲間たちへ言い続けます。

「パルバンの霧の壁まで走れ! 先に着いたらぼくが来るのを待つんだ! 金の石に守ってもらいながらパルバンに入る!」

 そこで彼らはいっせいに走り出しました。成りゆきでカザインとフラーも一緒に走ります。たちまちハーピーが襲いかかってきましたが、カザインたちが魔法で防いでくれました。毛皮の番人が撃ち出した火の玉は、フルートが炎の弾で砕きます。

 ただ、そのせいでフルートは最後尾になりました。他の仲間たちが先にパルバンの入り口にたどり着いて、立ち止まります。

 小石だらけの地面からは、黒い霧が激しく渦を巻きながら噴き出していました。左右にどこまでも続く巨大な霧の壁です。その向こうはパルバンなのですが、黒い霧にさえぎられて景色はおぼろにしか見えません。

「ったく、相変わらず不気味な入り口だぜ」

「ワン、勝手に入っちゃ駄目ですよ。魔法の霧にばらばらにされちゃうから。フルートと一緒でないと」

「わかってる。異体系の魔法同士が複雑に絡みあっていて、光の魔法だけじゃ打ち消せないからな。聖守護石がなければ、中には入れないんだ」

 少年たちがそんな話をしたので、カザインとフラーはまた驚きました。

「君たちは前にもパルバンに入ったことがあるというのか!?」

「光の魔法だけでは打ち消せないって本当なの!? じゃあ、この防護服だけじゃ不可能だってことだわ!」

 そこへフルートが追いついてきました。首からまたペンダントを外して言います。

「中に入るぞ。みんな、ぼくから遅れないでついてきてくれ」

 彼らとカザインたちの間に少し距離があったので、全員を守りの光で包もうと、ペンダントを高く掲げます。

 

 ところが、その瞬間、番人たちが追いすがってきました。茶色いハーピーがフルートに襲いかかって、手からペンダントをもぎ取ったのです。

「金の石!」

 振り向いたフルートに毛皮の番人が飛びかかってきました。フルートの胸のあたりまでしか身長がないのに、意外なほどの力でフルートを押し倒します。

「フルート!」

 仲間たちは助けに駆けつけようとしましたが、番人は槍を短く持ち直すと、フルートの顔へ振り下ろしました。魔法の鎧のたったひとつの急所です。

 フルートはとっさに腕で顔をかばいました。槍が籠手に当たって、穂先が折れてしまいます。

 フルートは番人と上になり下になりもつれ合いながらどなりました。

「ぼくは大丈夫だ! それより金の石を取り返してくれ!」

 ペンダントを奪った茶色いハーピーは、また空高い場所に上昇していました。黒いハーピーが何かを命じたようで、向きを変えてどこかへ飛んでいこうとします。

「待て、この野郎!」

 ゼンは矢を放ちましたが、黒いハーピーが飛んできて矢を砕いてしまいました。茶色いハーピーが飛び去っていきます――。

 すると、どこからともなくもう一羽のハーピーが現れました。青灰色の髪と羽根をした、あのハーピーです。

 青灰色は茶色へまっすぐ飛んでいくと、いきなり襲いかかりました。ばさばさと空の上で翼同士がぶつかり、激しくもつれ合います。

 やがて、茶色は逃げるようにその場から離れ、青灰色がこちらへ飛んできました。

 目をこらしていたレオンが叫びます。

「あいつがペンダントを持っているぞ!」

 一方、フルートは毛皮の番人を蹴り飛ばして、ようやく起き上がりました。レオンの声を聞きつけて空を見ます。

 青灰色のハーピーは頭上までやってきていました。女性の上半身に翼の腕、鳥の体の怪物です。フルートの上に舞い降りると、足につかんでいたペンダントをぽとりと落とします。

 それを手の中に受け止めて、フルートはまたハーピーを見上げました。

「取り戻してくれたのか? でも、どうして?」

 パルバンの番人ならば、フルートたちの味方をする必要はないはずです。

 すると、離れた空から黒いハーピーも言いました。

「オマエは何をしている! ナゼ、そんな真似をする!? 連中は侵入者だぞ!」

 美しい女性の顔をしていても、話す声はどこか無機質なハーピーです。

 青灰色は短く答えました。

「彼らは面白い」

 黒いハーピーはいぶかしそうな顔になりました。

「面白い? 面白いとはナンだ?」

「面白いは面白いだ。興味深い。彼らは何故か仲間のために自分を危険にさらす」

 青灰色の答えに、黒はじっと相手を見つめました。やがて、ゆっくりと言います。

「オマエの話は理解不能。オマエに重大な欠陥が生じたと見なして処分する」

 黒が口を大きく開けたとたん、青灰色の体が吹き飛びました。ものすごい勢いで地面にたたきつけられて動かなくなってしまいます。

 フルートたちは仰天しました。ハーピー同士いきなりの仲間割れです。

 フルートは青灰色にかがみ込んで、はっとしました。ハーピーの胸から腹にかけて大きな傷がありましたが、紅い血が流れていなかったのです。裂けた皮膚の奥に、いやにのっぺりとした組織が白く光っています――。

 けれども、フルートはすぐに我に返って、ペンダントを押し当てました。どんな傷でもたちまち癒やしてしまう金の石ですが、ハーピーの傷は治りませんでした。身動きするので生きてはいるのに、傷はそのままです。

 フルートは眉をひそめました。傷が治らない理由がわかりません。

 

「他のハーピーがまた来るぞ!」

「ワン、あっちの番人も魔法を使いそうです!」

 と犬たちが言いました。

 レオンもフルートに言います。

「急ごう。パルバンに入るんだ!」

「ゼン――」

 フルートに呼ばれて、ゼンは肩をすくめました。フルートが何を言いたいのか、彼にはすぐわかったのです。

「ったく、おまえはほんとにどうしようもねえお人好しだぜ。でもって、それにつきあっちまう俺もやっぱりお人好しだ。そら、くたばるなよ、ハーピー」

 ゼンは傷ついたハーピーをひょいと肩に担ぎ上げると、レオンたちと一緒にフルートの横に立ちました。

 レオンはカザインとフラーに呼びかけます。

「あなたたちも早くこっちへ。彼と一緒でないとパルバンには入れないんだ」

「あ、ああ……」

 二人はとまどいながら近くにやってきました。フルートはペンダントを首にかけると、魔石に呼びかけました。

「頼む、金の石」

 たちまち守りの金の光が広がって全員を包みました。カザインたちも光の中に入っています。

「やっぱりそれは聖守護石なのか。本当に、君たちは何者なんだ?」

 カザインが尋ねてきますが、フルートは首を振り返しました。

「それは言えないんです。でも、あなたたちと同じ志(こころざし)の者です」

 フルートが歩き出したので、一行も一緒に歩き出しました。青灰色のハーピーはゼンに抱かれて行きます。

「待て!」

「パルバンには行かせない!」

 番人たちが攻撃をしかけてきますが、それはすべて金の光に弾かれました。

 一行は守りの光に包まれながら黒い霧の中に進んでいき、やがて見えなくなりました――。

素材提供素材サイト「スターダスト」へのリンク