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第25巻「囚われた宝の戦い」

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29.騒ぎ

 「こんちくしょう、やっと場所が変わったぞ! 凍え死ぬかと思ったじゃねえか!」

 二の風が吹いて新しい場所に出たとたん、ゼンが言いました。

 仲間たちも安堵の息を洩らします。

 彼らは頭の先からつま先まで真っ白になっていました。犬たちは全身の毛に氷のかけらがへばりつき、ゼンやレオンの服や顔には霜がつき、フルートの鎧は全体が氷におおわれてしまっています。

「場所が変わったとたん一瞬で凍ったぞ。ここはもう寒くないのに、どうしてだろう?」

 とビーラーが驚いていると、レオンが言いました。

「さっきの場所が寒すぎたせいだよ。ぼくたちの体が冷え切っていたから、ここの空気の中の水の粒がぼくたちの上で凍りついたんだ」

 ゼンは顔をしかめました。

「なんだかよくわかんねえが、霜や氷はよく落としておけよ。そのままにしておくと、しもやけになるからな」

 と、さっそく自分の体をたたいて霜や氷を払い落とします。レオンや犬たちも払ったり体を振ったりしましたが、フルートだけはその必要がなかったので、周囲の景色を眺めました。深い森が広がっていますが、行く手の木々の間に白く光るものが見えていました。

「どうやら、ここは森の外れみたいだな。もう少し行くと、森が終わるようだよ」

「いいな。もうちょっと暖かいところに行こうぜ。金の石が守ってるのに、それでもめちゃくちゃ寒かったからな」

「ワン、さっきの場所、たぶん北の大地と同じくらい寒かったんだと思いますよ。ゼンたちは何の装備もしてなかったんだから、寒くて当然ですよね」

「二の風が吹くのがあと三十分遅かったら、誰か凍死していたかもしれないな。場所が変わってくれてよかったよ」

 そんなやりとりをしながら、彼らは歩き出しました。森の出口が近づくにつれて、フルートの鎧の氷も次第に溶けていきます――。

 

 とたんに彼らの背後から、ざぁぁっと雨のような音が迫ってきました。何かが森の上をかすめながら飛んできたのです。驚いて振り仰いだ一行は、木々の梢の間にハーピーの大群を見ました。何十羽というハーピーが、翼を広げ髪をなびかせながら、黒雲のように頭上を飛び過ぎていきます。

「ワン、ハーピーだ!」

「さっきの奴らがまた襲って来やがったのか!?」

 一行は思わず身構えましたが、ハーピーたちは森の中の彼らには目もくれませんでした。羽音をたてながら森の先へと飛んでいきます。

 すると、ハーピーがいきなり鳴き出しました。ギャァギャァとしわがれた声に混じって、女性の声も聞こえてきます。

「いた!」

「いたぞ!」

「人間だ!」

「侵入者だ!」

 一行は、はっとしました。例の二人組がハーピーに発見されたのだと察したのです。

 レオンが遠い目になって言いました。

「この先に凍りついた大きな川がある。そこを逃げて行く二人組がいるぞ」

「よぉし! とうとう宝泥棒に追いついたな!」

 とゼンが張り切ったので、ポチはあきれました。

「ワン、二人組はハーピーに見つかってるんですよ? きっと襲われます。そこに近づいたら、ぼくたちまでまた巻き込まれますよ」

「ばぁか、誰が連中に近づくと言った。連中を追い抜くチャンスだって言ってんだよ。ハーピーが連中を足留めしてる間に、俺たちが先にパルバンに入って竜の宝を壊しちまおうぜ」

「ああ、それは確かにゼンの言うとおりだな」

 とビーラーが納得します。

 フルートは気がかりそうにレオンに尋ねました。

「侵入者はどんな人間だ? ハーピーに見つかってどうしている?」

「詳細はわからないな。二人とも紫のマントとケープですっかり身を隠しているんだ。凍った川の上を必死に走って逃げているよ」

「逃げている? 反撃する様子がないのか?」

 フルートが心配そうにまた尋ねたので、ゼンは兜の上からフルートを殴りました。

「何を考えてやがる、このすっとこどっこいのお人好し野郎! 宝泥棒の心配なんかする必要はねえんだぞ!」

「ぼくもゼンの意見に賛成だな。ぼくたちは彼らより先にパルバン入りして、竜の宝を見つけて破壊しなくちゃいけないんだろう? 連中がハーピーと戦っている今が、そのチャンスだ」

 とレオンも言うと、魔法使いの目を別方向へ向けて続けます。

「こっちへ行こう。川が蛇行しているから、ハーピーや二人組に気づかれないで向こう岸に渡れる。それに、パルバンももうすぐそこだ。川の先に黒い霧の壁が見えている」

「ワン、いよいよなんですね」

「ぐずぐずしてる暇はねえぞ。行こうぜ」

 仲間たちに促されて、フルートもしぶしぶ承知しました。後ろ髪を引かれる様子で、森の中をレオンが示した方角へ進み始めます。

 

 そのとき、激しい爆発音が聞こえてきました。

 同時に、キィーッ、ギャァギャァ、と騒々しく鳴き立てるハーピーの声も聞こえます。

「始まったな。ハーピーが空気弾で攻撃してるんだ」

 とビーラーが言いました。ベキベキ、と何かが砕けていくような音も伝わってきます。

 爆発音はその後も幾度となく響いてきました。敵の上を飛び回っているらしいハーピーの姿も、森の梢を通して見え隠れしています。

「ワン、集中攻撃ですね」

 とポチは思わず言って、あわてて口をつぐみました。フルートから心配そうな匂いがまた伝わってきたからです。フルートは騒ぎが起きている方向を振り向いています。

 すると、突然女性の悲鳴が聞こえてきました。アーッと細く響いて消えていってしまいます。ハーピーの声ではないようです。

 続いて男の声が聞こえてきました。

「フラー! フラー……!」

 大切な人を呼ぶ声です。

 とたんにフルートは身をひるがえしました。彼らが進んでいたのとは違う方向へ飛び出します。

「フルート!?」

 驚く仲間たちを置き去りにして、フルートはハーピーたちが群がっている場所へと走っていきました――。

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