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第25巻「囚われた宝の戦い」

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15.ハーピー・2

 「ゆっうしゃくんは、どぉこかなぁ。どぉこかなったら、どぉこかなぁぁ……」

 ロック鳥の首の付け根にまたがって、ランジュールは大声でそんな歌をうたっていました。

「それでもって、こぉこはどぉこかなぁ。どぉこかなったら、どぉこかなぁ。るるるんるんるん、るるるんるん」

 上機嫌に聞こえる歌声ですが、実際にはランジュールはかなり退屈していました。ロック鳥と共にずっと飛び続けているのですが、荒れ地が続くばかりで、面白そうなものが何も見つからなかったのです。探し求めるフルートたちも、どこにも見当たりません。

 やがてランジュールは歌うのにも飽きて大きなあくびをしました。

「あぁあ、勇者くんたちがぜぇんぜん見つからないなぁ。町や人間もちっとも見当たらないしぃ。ここっていったいどこなのかしら。勇者くんたちはいったいどこぉ?」

 ランジュールがどんなにぼやいても、ロック鳥は大きな翼で悠々と飛び続けていました。その下には岩だらけの荒野が広がっています。

 ふぅん、とランジュールはロック鳥の首の上に寝そべりました。不安定な場所ですが、元々彼は幽霊ですから落ちるようなことはありません。地上を見下ろしながら話し続けます。

「ここってずいぶん広いよねぇ。いくら飛んでも赤っぽい岩や地面が続いてるだけだもんねぇ。ロクちゃんは飛ぶスピードが速いのに、それでも全然変わらないってコトは、ここがものすごく広いってコトだよぉ。もしかして大陸なのかしらん」

 ここは闇大陸なのですから、ランジュールの推察は当たっていましたが、それを肯定してくれる相手がいませんでした。ランジュールは首をひねりながら地上を見回し続けます。

 

 すると、ふいにロック鳥が、ぐるるっと咽を鳴らしました。鋭い目で行く手をにらみつけます。

「え、何かいるって!? どこ、どこぉ!?」

 ランジュールは期待して伸び上がりました。勇者の一行ではないかと思ったのですが、そこにいたのは一羽の鳥でした。空ではなく地面に降り立って、しきりに何かをついばんでいます。

 ランジュールはがっかりしました。

「ただの鳥さんだよ、ロクちゃん。お友だちが見つかって嬉しかったのかなぁ? でも、ボクたちは今、勇者くんたちを探してるんだよぉ。鳥さんなんて――」

 ぐるる、ぐるるる。ロック鳥はさらに鳴きました。何かを教える声です。

 ランジュールは目を丸くしました。

「えぇ、鳥じゃないってぇ? じゃあ、あれって何さぁ?」

 そんな会話をしている間もロック鳥は飛び続け、地上の生き物が見極められるくらいの距離まで近づきました。ランジュールは目をこらし、ぽん、と手を打ちました。

「あれってセイレーン、うぅん、ハーピーだぁ。へぇ、珍しいなぁ。最近じゃハーピーなんてあんまり見かけなくなったのに。でもねぇ、せっかく教えてもらったけど、ハーピーじゃねぇ……」

 ランジュールは魔獣を捕まえて飼い慣らす魔獣使いですが、彼が好きなのはとにかく強い怪物です。しかも大きなものほど好みなのですから、人の大きさ程度しかないハーピーは趣味に合わなかったのです。

「無視しちゃおうかなぁ。ボクには強くて大きなロクちゃんがいるから、これ以上鳥さんも必要ないしねぇ」

 などと言いながらハーピーから離れようとします。

 

 すると、ハーピーのほうでもロック鳥に気づいて顔を上げました。美しい女性の顔に似合わないしゃがれ声で、ギャァギャァと鳴きます。

 ランジュールは顔をしかめました。

「ほらほらぁ。これなんだよねぇ。ハーピーって鳴き声がかわいくなくてさぁ。お食事のしかたも下手くそだから、後片付けが大変だし――あれぇ?」

 彼が急に頓狂(とんきょう)な声を出したのは、ハーピーがついばむ餌を見たからでした。人面鳥体の怪物は赤茶けた地面の上でソーセージを食べていたのです。

 ランジュールは考えました。

「この近くに人が住んでるところってなさそうだよねぇ。でも、あれはどぉ見たって人が作ったソーセージだよぉ。ってコトはぁ――勇者くんからもらった餌なのかなぁ!?」

 と鋭く推理すると、嬉しそうにロック鳥の頭をたたきます。

「あのハピちゃんの近くまで行ってぇ。聞いてみたいことがあるからさぁ」

 そこでロック鳥はハーピーのほうへ飛びました。翼の強いロック鳥ですから、一度羽ばたいただけでハーピーのすぐそばまで行ってしまいます。

 すると、ハーピーがまたしわがれ声で鳴きました。餌を奪いに来たと考えたのでしょう。敵意のある声です。

 ランジュールは両手を振りました。

「違う、ちがぁう、だいじょぉぶだよぉ、ハピちゃん。ボクたちはキミの餌が欲しくて来たんじゃないんだから。ただ、その餌をどこから手に入れたか教えてほしいなぁって――」

 けれどもハーピーは聞いていないようでした。ランジュールに向かって威嚇するように口を開きます。美しい女性の赤い唇ですが、その中には白い牙が並んでいます。

 とたんにランジュールの腹に大きな穴があきました。腹部の一部が突然吹き飛ばされて、丸い穴がぽっかり口を開けたのです。

 あれぇ? と彼は自分の腹を見ました。前屈みになって大穴から向こう側の青空をのぞくと、ぽりぽりと頭をかきます。

「うぅん……ボクったら、ハーピーのデータを覚え違いしてたかしら? ハーピーがこんな攻撃をできるなんて知らなかったよねぇ」

 のんびり話すうちに腹の大穴はふさがっていきました。彼は幽霊なのですから、こんな傷はなんでもないのです。

 すると、ハーピーがまた口を開けました。今度は人のことばでこう言います。

「オマエは何者だ。ここでナニをしている」

 若い女性の声ですが、いやに平板な口調です。

 ランジュールはさらに目を丸くしました。

「ハーピーがしゃべったよぉ? セイレーンならしゃべって歌えるけど、ハーピーが話せるなんてのは初めてだなぁ。これってもしかして特殊なハーピーかも。よぉし、そぉとなったら」

 

 ランジュールはがぜん張り切り出しました。魔獣使いの血が騒ぎ出したのです。とはいえ、彼は幽霊なので、体内に血液は流れていませんでしたが。

 ロック鳥をハーピーの前に着地させると、片手を突きつけて呼びかけます。

「おいでぇ、かわいいかわいいハーピーちゃん! 特別にボクのペットに仲間入りさせてあげるからさぁ! ボクのところに来て、で、その餌をどこで誰からもらったか教えてよねぇ。うふふふ……」

 ところが、ハーピーはそれに応えませんでした。猛禽類の目でランジュールたちを見つめているだけです。

 ランジュールはさらに強い魔力を込めて呼びかけました。

「おいでおいで、かわいいハピちゃん! おいしいご飯がほしいのぉ? それとも髪の毛をとかしてあげよぉかぁ? ハピちゃんは美人さんだから、きっともっと美人になるよねぇ。かわいがってあげるからさぁ、ボクのところへおいでよぉ」

 すると、ハーピーがまた口を開けました。ランジュールのすぐ横をかすめて何かが飛び過ぎていきます。

「え、なにぃ……?」

 ランジュールが思わず振り向いたとたん、百メートル以上も離れた場所にあった大岩がいきなり爆発しました。地響きをたてながらこっぱ微塵になり、跡形もなく吹き飛んでしまいます。

「え、まさか。え?」

 彼は呆気にとられました。ハーピーのしわざだと気づいたのです。もちろん、ハーピーがこんな攻撃をするなどということは、これまで聞いたことがありません。

 ランジュールは歓声を上げました。

「すっごぉい、ハピちゃん! キミ、すごく強いじゃないのぉ! これはぜぇったいボクのペットにしなくちゃねぇ! さぁ、抵抗しないでボクの言うことを――あれ?」

 彼が向き直ったとき、そこにはもうハーピーはいませんでした。飛び立った気配はなかったのに、忽然と姿を消してしまったのです。ランジュールはあわててロック鳥を飛び立たせてハーピーを探しましたが、人面鳥体の怪物はどこにも見つかりませんでした。

 ランジュールとロック鳥のはるか上空には二の風が吹いていましたが、彼らはその意味に気がつきませんでした――。

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