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第25巻「囚われた宝の戦い」

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12.探検

 「あれ、あれ、あれれれぇ?」

 赤茶けた大地がなだらかな丘やくぼみを作る荒れ地に、すっとんきょうな声が響きました。それまで誰もいなかった空に、ふぅっと人影が現れます。

 それは裾の長い白い上着を着た青年でした。長い前髪で片方の目を隠し、半ば透き通った姿で空中に浮いています。ご存知、幽霊のランジュールです。

 ランジュールは地上をきょろきょろ見回していました。

「おっかしぃなぁ。勇者くんたちはそこで道に迷っていたはずなのにぃ。いったいドコに行っちゃったんだろぉ?」

 ここは闇大陸でした。つい先ほどまでフルートたちがいた荒野に、彼も来ていたのです。乾いた赤茶色の大地を見回し続けますが、一行が見当たらないので、またひとりごとを言います。

「変だよねぇ。今ここには勇者くんとドワーフくんとワンワンちゃん、それから見たことのない眼鏡の子ともう一匹のワンワンちゃんがいたんだよ。眼鏡くんは天空の国の魔法使いみたいだったけど、呪文が聞こえなかったから、魔法は使わなかったはずなんだよねぇ。それなのにどぉして消えちゃったんだろぉ? 魔法使いのお嬢ちゃんは一緒にいなかったのにさぁ」

 ランジュールが言う「魔法使いのお嬢ちゃん」というのは、ポポロのことです。

 

 ランジュールはセイロスがこの世に復活してから、ずっと彼と行動を共にしてきました。得意の魔獣を使いながら、フルートたちをさんざん悩ませてきたのですが、先の戦いの終わりにセイロスと仲違いをして、陣営を離れてしまいました。今は闇大陸の空にひとりで浮かびながら、荒野にフルートたちを探しています。荒野に生える丸い茂みが、風にあおられて地面から離れ、ボールのように荒野を転がっていきますが、やっぱり一行は見つかりません。

 他に話し相手もいないので、ランジュールはまた自分を相手にしゃべり出しました。

「それにしても、ここってどこなのかなぁ? この前、セイロスくんが勝ち戦を捨ててクロンゴン海に駆けつけたから、きっと何かあるんだろぉと思って、海で見張ってたんだけどさぁ。そこに勇者くんたちが現れたから、やっぱりぃ! と思って追いかけたら、不思議な扉をくぐって、海の上のトンネルも通ってぇ……で、ここに来たんだよねぇ。おかげでどこにいるのかぜぇんぜんわかんなくなっちゃった。勇者くんたちもどこかに行っちゃったし。さぁて、どぉしよぉかなぁ」

 ランジュールは腕組みをして首をひねりました。いくら考えてもわけがわからないので、首をひねりすぎてぐるりと頭を一回転させてしまいます。

 ところが、頭をもう一回転させかけて、ランジュールはぴたりとそれを止めました。頭を元に戻して遠くを眺めます。

「ちょっと、あれって何ぃ……?」

 荒野の彼方にかすんで見えていた山々が、ゆっくりと動き出していたのです。んん? とランジュールが目をこらすと、山脈はランジュールの正面から左手へ移っていって、代わりに黒々とした森が現れます。

「場所が入れ替わった!? なぁにぃ、ここ!? どぉなってるのぉ!?」

 ランジュールは目を丸くして驚いていましたが、やがて、ふぅん、と言うと、にやりと笑いました。

「面白そぉなトコだねぇ、ここ。どぉやらセイロスくんに関係ある場所みたいだし、勇者くんたちも来てることだしぃ。勇者くんたちを探しながら、ボクもちょっと探検してみよぉかなぁ。案外ステキな宝物が見つかったりしてぇ? うふふふ……」

 竜の宝のことなど何も知らないくせに、いやに真実に近いことを言っています。

 

「さぁってとぉ」

 ランジュールは片腕を伸ばすと、大きく振り回しました。

「ヘイ、ロクちゃん、お待たせぇ! 一緒にステキな空の旅行といこぉかぁ」

 すると、傍らに大きな鳥の怪物が現れました。鋭い爪で象三頭を一度に捕まえることができると言われる、怪鳥ロックです。

 ランジュールは鳥の巨大な頭を、よしよし、となでてから言いました。

「ロクちゃん、待たせてごめんねぇ。キミをここに呼びかけたら、勇者くんたちが見えなくなっちゃったものだからさぁ。あのね、ボクを乗せてくれるかなぁ? ボクも自分で飛べるんだけど、ここってすごく広そうだから、飛んでいったら時間がかかりそぉなんだよねぇ。でも、キミは力も翼も強いから、ボクみたいな軽い幽霊を運ぶのはなんでもないよねぇ?」

 グルルッポ。

 ロック鳥は得意げに咽を鳴らしました。乗れ、と言っているのです。

 ランジュールは鳥の首の付け根にひょいと座ると、勇んで行く手を指さしました。

「さぁ、出発しよぉか! 未知の場所の探検開始ぃ! ついでに勇者くんを見つけたら、キミの爪で引き裂いて殺してあげよぉよねぇ。勇者くんの魂はボクのものだけど、体のほうはキミが食べちゃっていいからね。うふふ、ホントにステキな旅だなぁ」

 いつものように残酷なことを楽しそうに言いながら、ランジュールはロック鳥と空を飛び始めました。あっという間に空の彼方に遠ざかって小さくなってしまいます。

 後には赤茶けた大地だけが残りました。風がやむと丸い茂みも転がるのをやめ、地面に留まります。

 岩陰から鎧のようなうろこを身にまとったカエルが姿を現し、すぐにまたどこかへ行ってしまいました――。

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