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第25巻「囚われた宝の戦い」

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第4章 闇大陸

11.闇大陸

 トンネルをくぐって闇大陸へ出たとたん、ビーラーが言いました。

「ああ、良かった! 湖じゃなかったぞ!」

 彼らの下には、黒っぽい茂みがまばらに生えた荒れ地が広がっていたのです。赤茶けた大地がなだらかな丘やくぼみを作りながら続いています。

 フルートは地上の様子をざっと見渡し、危険に思えるものがないことを確認してから言いました。

「よし、下りよう」

 そこでビーラーとポチは高度を下げて着地しました。フルートたちが背中から降りると、すぐに犬の姿に戻ります。

「今回は変身が解けなかったな。レオンの守りの魔法のおかげかい?」

 とビーラーが尋ねると、レオンは首を振りました。

「そうじゃない。たぶん、ここが変身を妨げない場所なんだろう」

「ワン、場所によって、ぼくたちが変身できるところとできないところがあるんですね」

「ったく。相変わらずでたらめな場所だな」

 仲間たちが話し合っていると、フルートが言いました。

「確かに、闇大陸はものすごく予測が難しい場所だ。だけど、ぼくたちがここに来るのは二度目だ。前回の経験があるから、前回よりはうまく行けるはずだよ」

「わかってる。俺だって前の経験で学んだことがあるぞ。どこにいるかわからなくなったときには、わかるようになるまでその場を動かねえで待つ。山ん中で霧に巻かれて道がわからなくなったときと同じだ」

「ワン、ここから移動しないってことですか? でも、ぼくたちはパルバンに行かなくちゃいけないのに」

 とポチが驚いて聞き返すと、ゼンは親指を立てて背後の荒れ地を示してみせました。

「そう言うけどな、おまえはパルバンがある方向がわかるか? 俺にはわからねえぞ。なにしろ初めて来た場所だし、闇大陸には方角ってのがねえからな。でもよ、ここで待っていれば――」

 

 すると、荒野に赤い砂埃をたてながら、さぁっと風が吹いてきました。一行の間を吹き抜けていきます。

「二の風だ!」

 とレオンが叫びました。場所が入れ替わる合図の風です。

 一同が身構えていると周囲の景色が薄れ始め、荒野は消えて、代わりに奇妙な形の石柱群が現れました。何十本もの岩の柱は見上げるように巨大で先端が丸く、まるで熱に当たった飴の棒のようにぐにゃりと曲がって、地面に垂れ下がっています。柱の間の地面には、先端から溶け落ちたらしい丸い岩がごろごろしていました。

「ここは知っているぞ!」

 とビーラーが声をあげました。

「うん、五さんと一緒にパルバンに向かったときに通った場所だ」

 とフルートも言いました。五さんというのは、先に闇大陸に来たときに出会った、パルバンの番人の青年のことです。本当の名前は五万五千五百五十五というのですが、長すぎるのでフルートたちは五さんと呼んでいました。

 ゼンは得意そうに、にやりとしました。

「な、待てば居場所がわかるようになっただろう。二の風が吹けば場所が入れ替わるんだからよ。そのうちに俺たちが知ってる場所にも出くわすんだ」

「ワン、ここならぼくも覚えてますよ。五さんと一緒にどっちへ向かったのかもわかります」

 とポチが言い、レオンは、ふむと眼鏡を押し上げました。

「そういえば、五さんも、進みにくい場所が出てくると止まって待って、進みやすくなってから前進していたな。それに、闇大陸ではどんなに場所が入れ替わっても、パルバンがある方向は変わらない。つまり、パルバンのある方向がわかったということか」

「おう、そういうことだ。俺とポチは絶対に進む方向を見失わねえからな。任せとけ」

 とゼンは胸をたたいてみせましたが、レオンが、くすりと笑ったので、たちまちむくれました。

「なんだよ。なんで笑うんだ?」

「いや、馬鹿にしたわけじゃないよ。その反対さ。君たちは本当にたくましいな、と思ってね――。闇大陸はわけがわからない場所だし、怪物もいれば危険な風も吹くのに、全然困らないんだからな。君たちは魔法も使えないのに」

 レオンに感心されて、ゼンはちょっと目を丸くしました。顎をかきながら言います。

「まあな……俺は難しいことを考えるのは苦手だが、やることがはっきりしてることなら得意なんだよ。こういう場所だって、町や城なんかより好きかもしれねえ」

「ワン、なにしろゼンは野生児ですからね」

 とポチがからかうように言ったので、なんだとぉ!? とゼンはどなり返しました。今度はゼンとポチで口喧嘩になってしまいます。

 

 フルートはふたりを放っておいて、レオンとビーラーに言いました。

「方向はわかったから、まっすぐそっちへ進んでいこう。日が暮れたら休んで、明るくなったらまた進む。そうやって歩き続ければ、いつか必ずパルバンに着くはずだ」

 するとゼンが喧嘩をやめて口をはさんできました。

「暗くなる前に狩りもするぞ。なにしろ、食い物をほとんど持ってこなかったからな。食料は全部現地調達だ。協力しろよ、ポチ、ビーラー」

「ワン、もちろん!」

「わかった!」

 二匹の犬は張り切って返事をしました。尻尾をちぎれるほど振っています。

 レオンは何かを言いかけ、思い直したように口をつぐみました。自分の右手をじっと見つめて、静かに握ります。

「さあ、じゃあ行こう! パルバン目ざして出発だ!」

 フルートの号令にゼンが先頭に立ち、一行はねじ曲がって垂れ下がる巨大な石柱の間を歩き出しました――。

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