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第25巻「囚われた宝の戦い」

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第3章 古の扉

8.説明

 フルートたちが運び込まれた鏡の中には、ほの明るい光で充たされた空間が広がっていました。

 さまざまな色のカーテンが垂れ下がるように、光の幕がそこここに広がっていて、先を見通すことができません。しかも、光の幕は揺れながら色合いや形をどんどん変えていきます。まるで北の大地の空にかかるオーロラのようです。

「ここは……」

 と驚くフルートたちに、レオンは言いました。

「光の通り道だよ。ぼくたち魔法使いはここを通ってあちこちに移動するんだ。天空の国と地上の間だけは風の犬に乗らないと行けない決まりになっているんだけど、ぼくと君たちの間には特別な契約があるから、こうして直接来ることも可能なんだ」

「この光の通り道は以前にも通ったことがあるな。神の都の戦いで、山の中からミコンの都に行くときに」

 とフルートが思い出して言うと、ポチも言いました。

「ワン、魔王になった大司祭長の妨害で、フルートが迷子にさせられたんですよね。あのときは焦ったっけなぁ。でも、ぼくたちとレオンの間の特別な契約って?」

「ぼくは金の石の勇者の君たちから協力を求められたら必ず応える、と誓っているんだよ。それが契約さ」

 レオンの答えに、勇者の一行は思わず感激しました。

「ありがとう、レオン」

 とフルートが彼の手を握ります。

 一方、ビーラーは行く手を示して言いました。

「足元に白い光の線が続いているのが見えるだろう? レオンがつけた道しるべだ。これをたどっていけば絶対迷子にはならないよ。風の犬になって飛んで行くこともできるんだけど、ポチは慣れていないから、歩いていくほうが無難だろうな」

「この道は天空の国のどこに続いているんだ? レオンの家かい?」

 とフルートが尋ねると、魔法使いの少年は首を振りました。

「古の扉は呼ぶことができるから、直接闇大陸の入り口に向かおう。そっちにも通り道を開いておいたんだ」

「ワン、準備万端ですね」

 とポチが感心します。

 

 そこで、フルートとゼンは部屋から持ち出してきた防具や武器を装備し、荷袋を背中や腰につけました。フルートは金の鎧兜に二本の剣と荷袋を背負い、左腕に盾をつけた姿、ゼンは青い胸当てに弓矢を背負い、小さな丸い盾とショートソードと荷袋を腰に下げた姿になります。ただ、二人ともマントははおっていませんでした。急いで出発してきたので、持ってくるのを忘れたのです。

 光の通り道は揺れながら刻一刻と姿を変え、光のカーテンを目の前に広げたりたたんだりを繰り返していましたが、ひと筋の白い光が足元に伸びているので、本当に、迷う心配はありませんでした。

 その上を歩きながら、ゼンがフルートに言いました。

「よう、さっきの話だけどよ。レオンの魔法で昔に行けるらしいってのはわかったんだが、それでどうして都合がよくなるのか、俺にはまだわかんねえんだ。もう一度よく説明してくれよ」

 先ほどはポチと少し言い合いになりましたが、彼にわかるように説明できるのは、やっぱりフルートしかいなかったのです。

「うん、つまりね――」

 とフルートは説明を始めました。

「闇大陸ではこっちの世界より時間の進み方が遅いから、あっちに三日いれば、こっちでは三カ月が過ぎてしまう。これじゃ、どんなに急いだって、こっちで起きることには間に合わないよな? でも、例えば魔法で三カ月前に飛んで、そこから闇大陸に行けば、あっちで三日過ごして戻ってきたときに、こっちは三カ月が過ぎて最初の出発の時間になっている。周りの人たちにはぼくたちがどこにも行かなかったように見えるんだよ」

 ん? とゼンは腕組みして考え込み、やがて、ぽんと手を打ちました。

「そうか! あらかじめ闇大陸にいる時間の分だけ過去に行けば、帰ってきたときには、こっちでは時間がたってねえって寸法か!」

 やっと理解できたのです。

 すると、今度はポチが首をひねりました。

「ワン、だけど本当にそんなに厳密に時間を設定できるんですか? この前は闇大陸での三日がこっちの三カ月だったけど、いつもそんなふうに規則正しく違うものなんですか?」

 レオンはうなずきました。

「数は非常に少ないが、闇大陸に行ってこの世界に戻ってきた人の記録が、天空城の図書館には残っていたんだよ。人によって、戻ってくるまでの時間が数ヶ月だったり、数十年だったりするんだが、みんな口を揃えて、もっと短い時間しか滞在していなかった、と言っているんだ。そこから換算して、向こうの一日がこっちの一カ月に該当することがわかっている。天空王様もそうおっしゃっていたんだ」

「てぇことは……向こうに一日いようと思ったら、こっちの一カ月前に行かなくちゃならねえってことか。三日いたかったら三カ月前で、四日いたかったら四ヶ月前だ。俺たちはどのくらい昔に行くつもりなんだ?」

 とゼンに聞かれて、レオンは答えました。

「十七年くらい前にさかのぼろうと思っているよ。正確には十六年と九ヶ月。これで向こうに二百日くらいいられる」

 二百日! と一同は驚きました。かなりまとまった日数です。

 フルートは考えながら言いました。

「それだけいられれば、パルバンで竜の宝を見つけ出すことも、それを破壊することもできそうだけど……何故二百日にしたんだ?」

 レオンは肩をすくめ返しました。

「ほら、前に闇大陸に行ったとき、パルバンの番人が、パルバンから竜の宝が持ち出されたようだ、と話していたじゃないか。それが二百日くらい前のことだったらしいから、宝を破壊するには、持ち出される前にしなくちゃいけないと思ったのさ。誰が宝を盗もうとしたのかも確かめたかったしな。でも、実際には竜の宝はまだパルバンにあった。結局はどの時点のパルバンに行ってもいいことになったんだが、もう準備をしてきてしまったからな」

「準備――どんな?」

「これさ」

 とレオンが上着のポケットから取り出したのは、鶏の卵より一回り小さな卵でした。青みを帯びた灰色の殻に白い斑点が散っています。

「これは知らせ鳥という魔法の鳥の卵だ。非常に丈夫で、落としてもぶつけても、孵化(ふか)の時が来るまで絶対に割れないし、孵化の時を自由に決めることができる。ぼくはこれを二百日後に設定してきたんだ。闇大陸に渡って発動させれば、ちょうど二百日目に卵からかえって知らせてくれるんだよ」

「なるほど。それじゃ、この鳥がかえったら、ぼくたちはこの世界に戻らなくちゃいけないんだな」

「闇大陸での二百日は、正確にはこっちの十六年と八ヶ月だ。でも、知らせ鳥がかえってからぼくたちが戻るまでに時間が必要だろうから、少し余裕を持って、十六年と九ヶ月前に行くんだ」

 そんなふうに説明するレオンの横で、ビーラーもポチに話していました。

「天空の国の人間だって、何十日、何百日も後の予定は忘れてしまうことがあるからね。この鳥の卵を準備して忘れないようにするんだよ」

「なんだ。要するに、目覚ましの鶏を卵のうちから持ち歩くってことか」

 とゼンがぼやきます。

 

 話しながら歩く間も、周囲では光のカーテンが揺らめき、色合いを変えながら、広がったり縮んだりを繰り返していました。足元に白い光の道がなければ、たちまち迷って、どちらへ進めばいいのかわからなくなってしまいます。

 そんな道しるべを眺めながら、フルートはまたレオンに言いました。

「君は本当にいろんな準備を整えてきてくれたんだな。他にも何か準備してきてくれたのかな? 本当にありがとう」

 フルートから大真面目で感謝をされて、レオンはまた顔を赤らめました。

「いや、別に。君が絶対にまたパルバンに行きたがると思ったから、準備を整えていただけさ。前回はパルバンにしてやられて敗退したから、今度こそ目的地まで行ってやりたかったしな。それに――」

 言いかけてレオンは何故かいっそう顔を赤らめ、そのまま言うのをやめてしまいました。

「なんだ? それに、なんだよ?」

 とゼンが聞き返しても、口をつぐんだままです。

 ははぁん、とビーラーはうなずき、隣を歩くポチにこっそりささやきました。

「きっとペルラのために念入りに準備したんだ。彼女も、絶対にまたパルバンに行くと言っていたからな」

 ポチはぴんと耳を立てました。

「へぇ? そういうことなの?」

「きっとね。だってレオンは――うっぷ!」

 ビーラーの顔に突然口輪が現れて口を締め上げてしまったので、ビーラーは声が出せなくなって目を白黒させました。

 レオンがにらむように振り返って言います。

「くだらないおしゃべりはやめろ、ビーラー。もうすぐ目的地だ」

 そんな彼からかすかに甘酸っぱい恋の匂いが漂ってきたので、ポチは納得しました。自分まで魔法で口輪をはめられては大変なので、しっかり口はとじておきます。

 一行の行く手から、光のカーテンの迷路が少しずつ薄れ始めていました――。

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