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第25巻「囚われた宝の戦い」

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6.解決策

 扉を開けて入ってきたのは、フルートの剣の師匠のゴーリスでした。

 半白の黒髪に黒い服を着た逞しい男性で、腰には大剣を下げています。まるで剣士のような格好ですが、実はロムド国の大貴族で、ロムド王の片腕とも言われる重臣でした。フルートたちの部屋を厳しい目で見回すと、疑わしそうに彼らを見ます。

「今、誰かの話し声がしたな。おまえたちの声ではなかったようだが。誰と話していたんだ?」

 入り口が開いた瞬間、レオンが魔法で自分とビーラーの姿を消したので、ゴーリスには彼らが見えなかったのです。

「誰もいないよ。ぼくたちだけで話をしていたんだ」

 とフルートは床に座ったまま答えました。声も表情も落ち着き払っていて、とても嘘をついているようには見えません。

 ゴーリスはそれでもまだ納得しない顔で少年たちと部屋を見回していましたが、やっぱりレオンたちを見つけられなかったので、しかたなく話を変えました。

「女の子たちが天空の国へ行ったそうだな。いつ頃戻ってくる予定だ?」

「それはわからないよ。ポポロたちはルルを診てもらうために、天空王に会いにいったから――。彼女たちがいないと何か困るの?」

 とフルートは聞き返しました。子どもの頃から彼を庇護(ひご)してくれたゴーリスは、彼のもうひとりの父親のような存在です。

 ゴーリスは上の階をちょっと示して見せました。

「陛下がおまえたちをお呼びなんだ。偵察のためにイシアード国に潜入した間者から知らせが入った。おまえたちだけでかまわんから、急いで陛下の執務室に来い」

 フルートやゼンは顔色を変えました。

「やっぱりセイロスはイシアードに戻ったんだ!?」

「あの野郎、また攻めてくるつもりかよ!?」

「まだセイロスは確認されていない。奴が連れている飛竜もまだ見つからん。ただ、イシアードで明らかに開戦の準備が進んでいるんだ。協議しなくちゃならん。いいか、すぐに来るんだぞ」

 ゴーリスはそう念を押すと、部屋から出ていきました。靴音が足早に遠ざかっていきます。

 

「ローデヨタガース」

 呪文の声がして、レオンとビーラーの姿が元の場所に現れました。ゴーリスが出ていった扉を見ながら、レオンが言います。

「状況は予断を許さない、という感じだな。いつどこからまたセイロスが攻めてきてもおかしくない状況じゃないか」

「それなんだよなぁ」

 とゼンはまたため息をつきました。

「フルートはパルバンにもう一度行かなくちゃならねえって言うし、俺たちだってそう思うんだが、状況が許さねえんだ。俺たちはここを離れられねえ」

「ワン、ディーラは今、セイロスに破壊された箇所の復旧中です。すごく急いでるけど、魔法も組み込まなくちゃいけないから、簡単には元に戻りません。そこをセイロスに攻撃されたら、今度こそ守り切れなくなって、セイロスにディーラを壊滅されるかもしれないんです」

 とポチも言って、ちらりとフルートを見上げました。ゼンからは困惑の匂いがするのに、フルートからはその匂いがしなかったからです。代わりにフルートから伝わってくるのは、強い決意の匂いでした。

 フルートが口を開きました。

「本当はもうちょっと竜の宝について話したかったんだけど、今は時間がない。その話はまた後ですることにして、先にレオンに来てもらった要件を話す――。レオン、ぼくたちをまた闇大陸に連れていってくれ。ぼくたちはやっぱりパルバンに行って、竜の宝を破壊しなくちゃいけないんだ。宝はルルの仲間の黒い翼に守られているだろう。ぼくたちが破壊しようとしたら、翼が攻撃してくるかもしれない。でも、セイロスは先の戦いで、ぼくたちが竜の宝を探して闇大陸に行ったことに気づいてしまった。おそらくぼくたちを妨害しようとするだろうし、直接宝を奪い返しに行く可能性もある。彼に宝を取り戻させるわけにはいかないんだ。セイロスが取り戻す前に、宝を破壊する。これは早急の使命だ」

 フルートは本当に強い声になっていましたが、ゼンやポチはとまどってしまいました。ビーラーも困ったように首をかしげて言います。

「それはその通りだけど、それができないから難しいんだろう? なにしろ、闇大陸とこっちの世界では時間の流れる速さが違う。あっちに三日いただけで、こっちでは三カ月が過ぎていたんだから、またあっちに行ったら、今度はどのくらい時間が過ぎるかわからないぞ。セイロスが今にもまた攻めてくるかもしれないってときに、それでも闇大陸に渡ろうと言うのかい?」

「ワン、そうですよ。闇大陸に行って、パルバンに入って、竜の宝を見つけて破壊して、また戻ってくる……例えばそれを一週間で片づけたとしても、こっちの世界ではきっと何ヶ月もの時間が過ぎちゃうんですよ」

 とポチも言ったので、ゼンはうなりました。

「あっちで手間取って何ヶ月もかかったら、こっちじや何年、何十年か。そりゃまずいぞ。戻ってみたらメールも他の連中も婆さん爺さんになってた、なんてのは、絶対にいただけねえ!」

 すると、レオンが言いました。

「それだけじゃないよ。闇大陸から戻ってから間もなく、ぼくは急に背が伸びたし、ビーラーも急に三カ月分くらい歳をとった。見たところ君たちもそうだな。フルートもゼンも背が伸びているし、ポチも大きくなっている。こっちの時間がぼくたちを捕まえて、過ごしていなかった三カ月間を返してきたんだ。闇大陸に長居すればするだけ、戻ってきたときに、ぼくたちは一気に歳をとることになる。そうなっては困るから、ぼくは――」

 

 すると、レオンの先を越すように、フルートが言いました。

「だから、ぼくはレオンに来てもらったんだよ。時間の問題を解決する方法を思いついたから、力を貸してほしかったんだ」

 レオンは目を丸くしました。確かめるようにフルートを見つめてから、また言います。

「奇遇だな。実はぼくもその方法を思いついたんだよ。だから、なんとしても君たちのところに行きたいと思っていたら、君たちが呼んでくれたんだが」

「なんだ、二人して名案が浮かんだってのか?」

「時間の流れが違う場所の問題は大きいぞ。それが解決できるっていうのか?」

「ワン、いったいどんな方法なんです?」

 ゼンやビーラーやポチが口々に尋ねたので、レオンはまたフルートを見ました。

「まず、そっちの方法を聞こう。ぼくの魔力が必要なことみたいだから、できることかどうか、聞いて判断するよ」

「ありがとう」

 とフルートは言うと、仲間たちを改めて見回しました。誰もが、いったいどんな方法なのだろう、と彼に注目しています。

 フルートはおもむろに話し出しました。

「ぼくたちが闇大陸に行けば、とたんにぼくたちはあっちの時間に支配されてしまう。その間にこちらの世界の時間はどんどん過ぎるけれど、それを遅くしたり、時間の進みを揃えたりすることはできない。だから、時間を『稼ぐ』んだ――。ぼくたちはパルバンの過去に行こう。過去ならば、そこからどんなに時間が過ぎても、この世界に戻ってきたときに時間は先に進んでいない。パルバンに行って、竜の宝を見つけて、破壊して戻ってきても、『今』の時間に間に合うはずなんだよ。レオン、そういう魔法は可能か?」

 そう言って、フルートは眼鏡をかけた銀髪の少年をまっすぐに見つめました――。

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