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第25巻「囚われた宝の戦い」

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第1章 決心

1.心配

 ロムド城の一室で、フルートはベッドに仰向けになっていました。

 鎧兜を脱いで私服姿ですが、寝ているわけではありません。両手を頭の下で組み、目を開けて、じっと部屋の天井を見つめています。

 綺麗な青い瞳と少し癖がある金髪の顔は、相変わらずとても優しげですが、顔つきに精悍(せいかん)さが増してきたので、もう少女のようには見えませんでした。今は十一月の下旬。来月の誕生日が来れば、フルートは十七才になるのです。

 すると、彼の胸の上でペンダントがきらりと輝いて、空中に少年が姿を現しました。鮮やかな金色の瞳に黄金をすいて糸にしたような髪、異国風の服を着た金の石の精霊です。追いかけるように現れた願い石の精霊と一緒に、空中からフルートを見下ろします。願い石の精霊は背の高い女性の姿をしていて、赤い長い髪を高く結って垂らし、炎のような色合いのドレスを着ています。

 二人の精霊が揃って見下ろしているのに、フルートは天井を見つめたままで、彼らを見ようとはしませんでした。そこに精霊たちがいることに気づいていないのです。

 精霊たちはそれでもしばらく宙に浮いていましたが、フルートがいつまでたっても気づかないので、顔を見合わせると、黙って姿を消していきました。少年はペンダントの魔石に、女性はフルートの中に戻っていったのです。

 その気配を察したのか、ベッドの足元からポチが起き上がりました。全身真っ白な毛並みの小犬で、首に緑の石をはめ込んだ銀の首輪をしています。くんくんと匂いをかぐように鼻を鳴らすと、首をかしげてベッドの上を見上げ、フルートがずっと同じ姿勢でいるのを確かめると、また床にうずくまりました。体を丸めて自分の脚を枕にします。

 フルートは何も言いませんでした。部屋の天井の向こうに何かがあるように、はるかな目でじっと上を見つめ続けていました――。

 

 

 ゼンは昼食を受け取りに城の台所へ行く途中、階段の真ん中で思いがけずメールに出会いました。

 ゼンはがっしりした体格の背の低い少年、メールは痩せて長身の少女で、緑の髪を後ろで束ねています。冬が目前に迫って、城の中でも寒さを感じるようになってきたので、ゼンは布の服の上に毛皮の上着をはおっていましたが、メールのほうはまだ袖なしのシャツに半ズボン、編み上げサンダルという軽装でした。夏と同じ格好なのですが、特に寒そうな様子はしていません。

 彼女が料理を入れた四角い盆を抱えているのを見て、ゼンは言いました。

「おまえも昼飯をもらってきたんだな。ルルの具合はどうだ?」

 ルルというのは彼らの仲間の雌犬のことです。

 メールは首を振り返しました。

「相変わらずだよ。食事はある程度食べるし、魔法医の鳩羽(はとば)さんも一日三回診察に来てくれてるんだけど、なかなか元気にならないんだよね。あたいたちの部屋の暖炉の前に作った寝床で、ほとんど一日中眠ってるんだ」

 それを聞いて、ゼンはため息をつきました。

「長ぇよな。俺たちが闇大陸から戻ってもう半月だ。いくらパルバンで悪い風に吹かれたからって、いい加減元気になってもいい頃だぞ」

「うん、ポポロもそう言ってる。でも、鳩羽さんにもルルのどこが具合悪いのかわかんないんだよ。ポポロが心配してずっとルルに付き添ってるから、あたいがこうして食事をもらってきてるんだ」

「同じだ。こっちじゃフルートが飯を食うのも忘れて考え事をしてやがる。しょうがねえから、俺が食事を運んでるんだ」

「フルートは何をそんなに考えてるのさ? パルバンのこと? それともルルを心配してるのかい?」

「どっちもだろう。とにかく、どえらく真剣に考え込んでやがって、話しかけてもろくに返事をしねえし、夜だってあまり寝てねえみたいだ。夜中に目を覚ますと、昼間と同じ格好で考えてたりするからな。ったく、俺たちにも少しは相談すりゃいいものをよ」

 ゼンが舌打ちしたので、メールは肩をすくめました。

「相変わらずだよねぇ、フルートは。なんでも自分だけで抱え込んじゃってさ――。とはいえ、確かにどうしていいのかわかんない状況だよね。パルバンや闇大陸はあんな場所だったし、三の風に吹かれたルルはずっと具合が悪いし」

「フルートのことだから、そのうち何か決めるはずだけどな。あいつが悩んだまま動かないなんてことは、まず考えられねえ。あんな顔と性格のくせして、意外なくらい過激な奴だからな」

 とゼンはまたため息をつきました。こちらは見た目によらず心配性なゼンです。

 そこへ下のほうから階段を上ってくる足音が聞こえてきたので、二人はそれで話を終えました。これ以上話しても何も変わらないし、闇大陸やパルバンのことは人前ではむやみに話さないことになっていたからです。ゼンは一階にある台所へ下りていき、メールは食事の盆を抱えて上階の自分たちの部屋に向かいます。

 

 ところが、メールが部屋まで来ると、入り口の前でポポロが待っていました。赤い髪を二本のお下げに結い、緑の宝石のような瞳をした、とても小柄な少女です。白いブラウスに厚地の紺のスカートと上着を着ていますが、これは星空の衣が周囲に合わせて変化したものでした。城の廊下は底冷えがしています。

 メールはポポロが待ちくたびれて部屋の外に出てきたのだと考えました。

「遅くなってごめんよ。お腹すいたろ。途中でばったりゼンに会っちゃってさ――」

 すると、ポポロはそれをさえぎって首を振りました。そのまなざしがひどく真剣だったので、メールはどきりとしました。

「どうしたのさ? まさかルルがどうかしたんじゃないだろうね?」

「ううん。ルルはずっと寝てるわ……。だからね、メールに頼みたいことがあるのよ。お願い、力を貸して」

「え?」

 出し抜けに力を貸してほしいと言われてもなんのことかわからなくて、メールはポポロの真剣な顔を見つめ返してしまいました――。

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