闇大陸への入り口がある海上で、セイロスとフルートたちはにらみ合っていました。
セイロスの背後には実体化したデビルドラゴンがいました。両者がつながっているので、デビルドラゴンが羽ばたくことでセイロスも空中に浮いています。
一方、フルートはポチに、レオンとゼンはビーラーに乗って空にいました。メールは海草で作った水蛇の上、ポポロとルルはペルラと一緒にシィの上にいます。ペルラの兄弟のクリスとザフも、自分のシードッグに乗っていました。金の石の精霊と願い石の精霊はフルートの左右に浮いています。
すると、デビルドラゴンがキィィィと鋭く鳴きました。大量の魔弾がフルートたちめがけて飛び出してきます。
それを追いかけるように、セイロス自身も動き始めました。レオンが光の魔法で魔弾を砕くと、爆発の光と熱をくぐり抜けてフルートへ切りつけます。
フルートがとっさに剣で受け止めて流すと、セイロスは素早く剣を引きました。今度は下から切りつけてきます。
がん。
鈍い音と共に攻撃を受け止めたフルートは、力負けして体勢を崩しました。それほどセイロスの攻撃は激しかったのです。
「フルート!」
駆けつけようとしたレオンとゼンへ、また魔弾が飛んできました。セイロスは剣と同時に魔法を使うことができます。
「セエカー!」
レオンは魔弾を防ぎましたが、空はまた爆発でいっぱいになって、彼らとフルートたちの間をさえぎってしまいました。助けに行けなくなってしまいます。
「させないぞ、セイロス!」
と金の石の精霊が金の光でフルートを包み、さらに願い石の精霊がフルートの肩をつかもうとしました。
ところが、願い石が力を送り込む前に魔弾が飛んできました。精霊の女性が胸に魔弾を食らって消えていきます。
「願い石!?」
フルートとポチが驚くと、金の石の精霊が言いました。
「願いのは大丈夫だ! こちらに集中しろ!」
けれども、彼にもセイロスが切りつけてきました。精霊の少年を金の光ごと切り裂いて消滅させてしまいます。
体勢を崩しているフルートへ、セイロスが剣を振り上げました。
「死ね、フルート――!」
そのとき、海が突然渦を巻くと、巨大な竜巻に変わって空に立ち上がりました。海王の三つ子たちが両手を振り上げて呪文を唱えたのです。
「ラー・ラーイ・リィー……大渦巻きよ、行け!」
海上からはフルートに切りつけようとするセイロスがよく見えていました。三つ子がさっと手を振ったとたん、竜巻がセイロスに向かっていきます。デビルドラゴンが竜巻に向かってほえますが、竜巻は止まりません。
「くだらん!」
とセイロスは叫んで剣を横に振りました。
とたんに、見えない刃が伸びたように、大竜巻が真っ二つになりました。渦がほどけて消えていきます。
「ぼくら三人の竜巻も消されたぞ!」
「なんて魔力の強さだ!」
とクリスとザフは歯ぎしりしましたが、ペルラは密かにほっとしていました。彼らの竜巻のおかげで、フルートは体勢を整えて敵から離れることができたのです。
その間に爆発も収まったので、レオンとビーラーも駆けつけてきました。
レオンが言います。
「今のセイロスは馬に乗ったときより速い。なんとかしないと、隙を突かれてやられるぞ!」
「もう一度接近しろ、ビーラー! あいつを思いきり殴り飛ばしてやらぁ!」
とゼンも拳を握りますが、フルートは首を振りました。
「ばらばらで攻撃していたらかなわない! 作戦がある。みんなのところへ行こう!」
そこでポチとビーラーは海面へ飛びました。荒波に高く低く揺られているシードッグと水蛇の近くへ降りると、フルートが呼びかけます。
「ポポロ、ルルと一緒にメールのほうへ移ってくれ! 三つ子たちはこっちに。話があるんだ!」
「え、なに!? あたいたちはのけ者かい!?」
とメールが怒り出したので、ゼンが言いました。
「馬鹿、ルルを見ろ! これ以上ぶん回したら、本当にまいっちまうぞ!」
戦いを心配して見守ったのが悪かったのか、荒波に激しく揺られているのが良くないのか、ルルは先ほどよりいっそう具合が悪くなっていました。口から舌をだらりと垂らして、はっはっとせわしなく息をしています。ポポロはそんなルルを抱きながら、今にも泣き出しそうにしていました。どうしたらいいのかわからなくなっていたのです。
メールはすぐに怒りを引っ込めると、水蛇の体をぽんとたたきました。蛇はシィの上からポポロとルルをすくい上げると、形を変え、海草でできた大亀になって海面に浮かびます。
メールはルルを亀の大きな背中に横たえました。
「まだ揺れるけどさ、こっちの方が少し楽だろ? 大丈夫、フルートたちならうまくやるからさ。ここで見守っていよう」
それは自分自身にも言い聞かせることばでした。一カ所に集まって相談を始めたフルートたちを、食い入るように見つめます――。
「そんなことをして大丈夫なのか?」
フルートから作戦を聞かされて、ビーラーが心配していました。
クリスとザフもとまどったように顔を見合わせてからレオンを見ます。
「ぼくたちは三つ子だから息も合うけど、他の者と魔法が合わせられるかな?」
「ぼくたちのは海の魔法だ。でも、君のは天空の国の魔法なんだろう? 難しそうだぞ」
「君たちの中の誰かが率先して魔法を使ってくれ。ぼくはそれにタイミングを合わせる」
とレオンが言うと、ペルラがすぐにうなずきました。
「それはあたしがやるわ。前にも闇大陸で一緒に魔法を使ったわよね? あのときはあたしが合わせようとして失敗したから、今度はレオンが合わせる番よ」
と言ってから、レオンへいたずらっぽく片目をつぶってみせます。
「できるわよね、未来の天空王様?」
からかう口調ですが、嫌みはありませんでした。むしろ信頼を感じさせる声です。
レオンは思わず真っ赤になると、あわてて顔をそらしました。
「も、もちろんだ。君とのタイミングのずれは覚えているからな――」
照れているレオンに、ペルラはくすくすと笑いました。闇大陸へ行ったばかりの頃のような険悪さはもうありません。
「さあ、行くぞ。セイロスがこっちを気にして仕掛けようとしている」
とフルートは言って、ポチと空へ舞い上がりました。レオンとゼンもビーラーと一緒に上昇します。
百メートルほど距離を置いた空から、セイロスが言いました。
「烏合の衆が愚かな頭を寄せてなんの相談だ! 貴様が何をしようとしても、私にかなうはずがないのだぞ!」
また魔弾が飛んできました。今度は空だけでなく海へも飛んでいきますが、レオンがひとつ残らず迎撃しました。空と海は爆発でいっぱいになります。
「あち、あちち」
とザフは熱気に悲鳴をあげました。シードッグたちは爆発から後ずさります。
「ペルラ、収まるまで一度潜ろう」
とクリスも言いましたが、ペルラは首を振りました。
「だめよ、今がチャンスなんだもの。もう一度、大竜巻を行くわよ」
三つ子たちの背後にはフルートたちがいました。彼らの視線を意識しながら――特にレオンの視線を背中に感じながら、ペルラは呪文を唱え始めました。
「ラー・ラーイ――」
クリスとザフもすぐにそれに応じて唱和しました。
「リィー……来たれ大渦巻き!」
海面からまた巨大な渦が立ち上がりました。海水を巻き上げながら空高く伸び上がっていきます。
すると、レオンも呪文を唱えました。
「ベトエーキテ!」
白い星が流れになって渦へ飛んでいきます。
すると、竜巻はふわりと空中に浮き上がりました。海水を激しく回転させたまま、セイロスへ向かって移動を始めます。
それはまるで敵に襲いかかる水の巨人のようでした。
うなる竜巻がセイロスへ突進していきました――。