海上ではポチに乗ったフルートと、ビーラーに乗ったレオンとゼンが、セイロスと戦い続けていました。
セイロスが撃ち出す魔弾は、レオンが魔法でことごとく砕いていました。光の魔法で闇の魔法を相殺するので、爆発するときに大量の光と熱を発生させますが、それは金の石が防いでいます。
熱せられた海水がもうもうと湯気を立てる中、彼らは身を寄せ合いました。
「ど派手に攻撃してきやがるな。セイロスのヤツ、よっぽど頭にきてるぞ」
「ぼくたちが竜の宝を奪ったんじゃないかと思ってるのさ。ただ、攻撃は派手だけれど、微妙なところで手加減している感じだ。宝を傷つけちゃまずいとでも思ってるのかもしれないな」
「ワン、ということは、竜の宝って攻撃に傷つくようなものだってことですか?」
ゼンとレオンとポチが話し合っていると、フルートは少し考えてから言いました。
「ちょっとぼくだけで行かせてくれ。確かめたいことがあるんだ。レオン、金の石が離れるからしっかり防御してくれ」
「わかった。でも――」
「何をするつもりだよ?」
レオンやゼンは心配しましたが、フルートはポチと一緒に離れていきました。湯気が濃霧になって垂れ込める海上を飛びながら、ポチに言います。
「セイロスの居場所がわかるか? 気づかれないように接近してくれ」
「ワン、接近――って――そんな必要ない!」
とポチは言っていきなり大きく向きを変えました。濃い霧の中から突然セイロスが現れて魔弾を撃ってきたからです。金の光が広がって魔弾を砕き、その間にポチが離れます。
「停まれ、ポチ」
とフルートは言ってセイロスを振り向きました。
セイロスは羽ばたく馬の上から彼らを見据えていました。
「貴様たちはあの場所で何をしてきた? 何を見つけてきたのだ」
厳しいまなざしはフルートやポチの中の答えを見透かそうとしているようです。
フルートは平静な口調で答えました。
「あの場所とはどこのことだ? 何を言われているのか全然わからないぞ」
セイロスは怒りに顔を引きつらせました。
「とぼけるな! 貴様たちがパルバンへ行ったのはわかっている。『あれ』をどうしたと聞いているのだ!」
セイロスが核心を話題にし始めたので、ポチは、はっとしましたが、フルートはますます冷静な声になっていきました。
「何のことかわからないと言っているんだ。こちらこそ、おまえに聞きたい。『あれ』とはなんだ? それが竜の宝なのか?」
「なんだと?」
とセイロスはいぶかしむ表情に変わりました。改めてフルートやポチを見つめ、次いで後方のレオンやゼンを眺めます。彼らが竜の宝の正体を知っているのかどうか、確かめているのです。
すると、フルートが短く言いました。
「黒い柱の上」
え? とポチは思わずフルートを見上げました。彼が何のことを言ったのかわからなかったのです。
セイロスも何も言わずにフルートを見ました。空中でセイロスとフルートが向き合い、見つめ合います。
その次の瞬間、いきなりバリバリバリっと空を引き裂いて稲妻が降ってきました。それと同時にセイロスから魔弾が飛び出し、フルートへ向かってきます。
「金の石!」
フルートの声に魔石が輝いて攻撃を砕きましたが、稲妻と魔弾が消えると、セイロスも姿を消していました。海の上には青空が広がるだけで、セイロスも空飛ぶ馬も見当たりません。
「どこだ……!?」
フルートとポチが見回していると、レオンとゼンの声が響きました。
「上だ、フルート!」
「よけろ!」
フルートとポチは同時に頭上を見て、思わずぎょっとしました。自分たちにおおいかぶさるように、四枚翼の黒い竜が翼を広げていたのです。
竜のすぐ下にはセイロスがいました。ばさりと竜が翼を打ち合わせると、フルートに向かって急降下してきます。セイロスの手には黒い大剣が握られていました。フルートの真上から切りつけてきます。
とたんにまた守りの石が光りました。金の光が広がって剣を受け止めます。
「どけ!」
セイロスがどなると、その口元から牙が現れました。瞳が血の色に変わり、剣を握る手に黒い鋭い爪が伸びます。
すると、光の障壁が音を立てて砕けました。フルートの前から消えていってしまいます。
セイロスは激しく切りつけてきました。フルートを鎧ごと真っ二つにしようとします。
フルートはとっさに剣を構えて受け止めました。がぎん、と音を立てた刃の上を、セイロスの剣が滑っていきます。フルートが剣から片手を放して攻撃を流したのです。
セイロスの馬が勢い余ってつんのめる間に、ポチは急いでその場を離れました。うなりを上げながら方向転換して向き直ります。
セイロスも体勢を整えるとすぐに向き直ってきました。再び猛烈な勢いで斬りかかってきます。
がん、ぎん、がん、ぎぃん。
剣と剣がぶつかる音が空に響きます。
フルートは攻撃をすべて受け止めました。まともに止めては力負けして剣を弾かれてしまうので、ポチが後ずさっては力を逃がしています。
すると、剣と剣をぶつけ合いながら、セイロスがまた言いました。
「『あれ』をどこにやった、フルート!? 『あれ』をどうした!?」
キェェェェ……!!!
セイロスの声と同時に、背後にのしかかる竜も首を伸ばしてほえました。つんざくような声に、空も海もびりびりと震えます。
「『あれ』はパルバンにあった。黒い柱の上に」
とフルートはまた言いました。確信はありませんが、パルバンを去るときに見えたものが竜の宝だろうと考えて、鎌をかけているのです。
セイロスはいっそうすさまじい顔つきになりました。 背後の闇の竜がさらに大きくなり、うろこの一枚一枚までがはっきり見えるようになってきます。
それと同時に海が荒れ始めました。猛烈な風が吹き出したのです。青空が黒雲におおわれ、波が鉛色になってしぶきを立て始めます――。
海中から海面に上がってきた三つ子たちは、空に浮かぶ竜を見て驚きました。
「なんだ、あれは!?」
「いつの間にあんなものが!?」
「どこから出てきたのよ!?」
水蛇に乗ったメールとシィに乗ったポポロも青ざめていました。
「あれってデビルドラゴンじゃないか!」
「セイロスがデビルドラゴンに変わりかけているのよ……!」
彼女たちにとってこの光景は衝撃でした。セイロスはデビルドラゴンに変身して戦うこともできるんだろうか、と考えて、ぞっとしてしまいます。
一方、ゼンはビーラーの背中で歯ぎしりしていました。
「おい、どう見てもやべぇぞ。奴が完全にデビルドラゴンになったら、いくら金の石でも防げねえだろう」
「いや、それよりどうして奴は闇の竜になれるんだ? 奴は竜の宝がなくて不完全だったはずだろう? 闇の竜になんてなれるはずはないのに」
レオンは納得がいかなくて混乱しています。
すると、ヒヒィン、と馬のいななきが響きました。デビルドラゴンが首を伸ばして、セイロスを乗せていた空飛ぶ馬にかみついたのです。
哀れな馬は空中に血しぶきを散らして、真っ逆さまに落ちていきました。鉛色の海に飛び込むと、海面にコウモリのような翼を広げ、すぐに沈んでいってしまいます。
セイロスは手綱を手放して空中に残っていました。ちっ、と舌打ちすると、すぐに剣を構え直します。
とたんに、背後の竜が翼を打ち合わせました。セイロスの体が宙を飛び、フルートへ襲いかかってきます。
フルートは剣でセイロスの剣を受け止めました。すぐに左へ流して身をかわそうとします。
そこへ闇の竜が首を伸ばしてきました。フルートに食らいつこうとします。フルートはよけられません。
「金の石!」
フルートの声にペンダントがまた輝きました。闇の竜を追い返し、同時にセイロスも突き放します。
けれども、セイロスはすぐにまた斬りかかってきました。金の石が輝きを収めた隙を突いたのです。
がぎん。
また音を立てて二本の剣がぶつかります。今度は柄に近い場所でぶつかり合ったので、フルートは攻撃を受け流すことができません。
すると、セイロスはフルートをぐいぐい押しながら言いました。
「『あれ』をどうした!? どうしたのだ!? 言え、フルート!」
キェェェェ!!!
デビルドラゴンがセイロスの背後でまたほえ、風がいっそう激しくなりました――。