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第24巻「パルバンの戦い」

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 ディーラの戦場を突然離脱したセイロスは、空を駆けて、すでにロムド国を抜けていました。馬をせきたてて東へひた走ります。

 その馬の尾にはランジュールがしがみついていました。馬の尻尾の先にぶら下がって猛スピードで移動していきますが、なにぶん幽霊なので、どんなに揺すぶられても向かい風が激しくても、まるで平気です。セイロスの後ろ姿を眺めて、のんびりとひとりごとを言っています。

「やぁれやれ、セイロスくんったらぁ。大将が戦場放棄しちゃうんだから、どぉしよぉもないよねぇ。しかも、あとちょっとでディーラを壊滅させられたってのにさぁ――。でも、それってつまり、勇者くんたちがセイロスくんが困るよぉなまずいことをしてるってコトだよねぇ。勝ち戦を投げ出しても止めなくちゃいけないよぉな何かをさぁ。それっていったいなんだろ。興味あるなぁ」

 ランジュールはまだ例の竜の宝というものの存在を知りませんでした。それが話題に上がった場面に居合わせたことがなかったのです。ただ、セイロスの態度から、うすうすと秘密の存在を感じ取って、それを確かめようと考えていました。さらにひとりごとを言い続けます。

「みーちゃんを返してもらおうと思ったけど、もうセイロスくんからみーちゃんの気配はしないもんねぇ。きっとみーちゃんは消化されちゃったんだろぉなぁ。セイロスくんったら、すぐにボクの魔獣を横取りいるんだから。ボクが苦労して捕まえて鍛えた魔獣だっていうのにさぁ。だから、今度はボクがセイロスくんの秘密を確かめて、それをネタにセイロスくんを脅かしてあげる番。みーちゃんやフーちゃんたちの仕返しにねぇ。うふふふ」

 いくら味方であっても、ランジュール自身はセイロスに服従しているつもりはさらさらありませんでした。相手が自分から何かを奪ったら、自分もお返しに奪い返す。目には目を歯には歯を、が彼のモットーだったのです。

「さぁて、セイロスくんの秘密って何なんだろぉねぇ。勇者くんたちはどこで何をしてるんだろぉ。楽しみだなぁ。うふふ」

 わくわくしながら笑いますが、セイロスはこちらを振り向くこともありませんでした。ランジュールの存在などまるで気に留めていないのです。東の空だけを見据えて馬を急がせています――。

 

 すると、ランジュールの体の中に何かが飛び込んできました。行く手から飛んできたものが、幽霊の彼を通り抜けていきます。

 思わず振り向いたランジュールは、あれぇ!? と声をあげました。馬の尻尾から手を放して空中に留まります。

「今のって魔獣だよぉ? しかも、あれって管狐じゃないかぁ! ひょっとしたらひょっとしてぇ――!?」

 セイロスを乗せた馬は東の空に遠ざかっていましたが、ランジュールは自分を突き抜けたものを追いかけました。小さな狐が空を飛んでいるのを見つけてうなずきます。

「うんうん。やっぱりそぉだ。あのお姫様の管狐じゃないかぁ。どぉしてこんなトコにいるのかなぁ?」

 それはセシルと一緒にいる管狐の一匹でした。先に峠でセシルたちと一緒にセイロスと戦い、敗れて逃げる間にはぐれてしまったのです。

 管狐は流れ星のように空を飛び続けていました。迷う様子もなくまっすぐ飛んでいくので、ふぅん、とランジュールは言いました。

「どぉやら、あの管狐はお姫様のところに行くつもりみたいだねぇ。ってことはぁ、お姫様のそばに皇太子くんもいるかもしれないってコトだよねぇ。ああ、ボクの愛しの皇太子くん。ずいぶん長いことご無沙汰だったけど、ホントは逢いたくて逢いたくてしかたなかったんだよぉ。これはきっと神様のお導きだよねぇ。皇太子くんを美しく殺して魂を奪ってあげたいっていう、ボクの切なる願いをかなえてくれよぉとしてるんだ。うふ、うふふ、そぉと決まったらぁ」

 セイロスはすでに東へ飛び去って見えなくなっていましたが、ランジュールはもう気にしていませんでした。管狐を追いかけると、近づきすぎないように距離を置きながら、後をつけ始めます。

 管狐は南へ向かって飛び、やがて高度を下げ始めました――。

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