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第24巻「パルバンの戦い」

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第22章 知らせ

74.四大魔法使い

 黒い魔法が光の盾に押し返されて上空で爆発すると、守りの塔の四大魔法使いたちはいっせいに話し始めました。

「よく来てくれた、赤!」

「いやいや、本当に間一髪でしたな!」

「てっきり、もうだめかと思うたわい! どうしてこれを知ったんじゃ?」

「イデ」

 とムヴアの魔法使いは応えました。彼はロムドからずっと東の場所にいたのですが、占いでディーラの危機を知って、移動に移動を重ねて駆けつけてきたのでした。

「我らが四人揃えば力は何倍増! 黒い魔法を防ぐだけでなく、奴をディーラから追い払ってやりましょう!」

 と武僧が張り切って腕を回し始めたので、女神官は眉をひそめました。

「無理をするな、青。おまえはさっき死にかけたばかりだぞ」

「もう平気ですよ。それに、また危なくなったらあなたに呼び戻してもらいます」

 と武僧は笑って答え、太い腕にぐっと力こぶを作って見せました。女神官があきれた顔をします。

 

 ところがそのとき、赤の魔法使いがいきなり膝をつきました。石の床に崩れるように座り込むと、そのまま立てなくなってしまいます。

 仲間たちは驚き、改めて彼を見て顔色を変えました。

「ずいぶん消耗してるではないですか、赤! それでよくここまで飛んでこれましたな!」

「無理して駆けつけてきたんじゃな!?」

「峠でセイロスと激戦になったと報告していたな。そのせいか――」

 ムヴアの魔法使いは杖のような御具にすがって、ぜいぜいと肩で息をしていました。実際、半日前までは峠の砦に近い場所で身動きもできないほど弱っていたのです。休んで回復した力も、ここに駆けつける間にまた使い切っていました。

「大丈夫か、赤? 聖守護獣を出し続けていられるか?」

 と女神官は尋ねました。都を黒い魔法から守る光の盾は、聖守護獣がいなければ作ることができません。

「……ダ」

 大丈夫だ、とムヴアの魔法使いは答えましたが、やっぱり床に座り込んだままでした。彼が握る御具の赤い光が、荒い息に連動するように明滅を繰り返しています。

 すると、城壁から敵を見張っていた魔法使いから知らせが飛び込んできました。

「魔法の爆発が収まってセイロスが見えてきました! 黒い竜のようなものと一緒にいます! また攻撃をしかけてきそうです!」

 白の魔法使いたちは、はっと空を見上げ、西の塔にいる赤の魔法使いを振り向きました。

 彼はまだ立ち上がることができません――。

 

 

「跳ね返されたか」

 セイロスは空飛ぶ馬の背中で舌打ちしていました。

 彼がディーラに落とした黒い魔法は、一番高い場所に建つロムド城を押しつぶしかけたのですが、都を守る光の盾に押し返されて破裂してしまったのです。

 光と闇の魔法がぶつかり合い、火花の滝となって地上へ降り注ぎましたが、爆発が収まると、ガラスのような障壁に包まれたディーラが無傷で現れました。それを守るように、聖守護獣が周囲に立っています。白い翼を持つ巨大な天使、青い大熊、深緑の大鷲、巨大な赤い山猫の四体です。

 けれども、セイロスの頭上にも巨大な黒い竜が存在していました。彼におおいかぶさるようにしながら、四枚の翼をゆっくりと動かしています。

 ディーラとロムド城を見下ろして、セイロスはつぶやき続けました。

「やはり現れないな、フルート。ということは、貴様はここにいなかったのか。貴様が策を巡らしているのでは、などと用心する必要はなかったのだな」

 いまいましそうに言ってから、セイロスは急に、にやりと笑いました。唇がめくれて、口の端から鋭い牙がのぞきます。

「このうえは遠慮は無用だ。今度こそ、都ごと城を消し去ってやろう」

 とたんに、セイロスの黒髪がざわりと動き、黒い竜が四枚翼を激しく動かし始めました。竜の体がいっそう鮮やかになって、うろこの一枚一枚までがはっきり見えるようになります。

 闇の竜を背負いながら、セイロスはまた手を掲げました。

 黒く染まった指先に、闇が再び集まり始めました――。

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